2018年1月

interviewmark.png 新春特別:慶応義塾大学経済学部教授 細田衛士氏にきく
                ―資源循環経済システムと社会変革

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201801_02.png 日本の廃棄物・リサイクル政策は一定の成果を上げたが、資源循環利用という点ではまだまだやるべき課題が残されている。EUでは資源効率(RE)や循環経済(CE)が新しい政策・概念として打ち出されており、「経済と環境のWin-Win」を目指して動き始めている。
 本記事では、日本における環境経済学の発展に尽力してこられただけでなく、3R活動推進フォーラム、リデュース・リユース・リサイクル推進協議会の会長等でご活躍されている慶應義塾大学 教授 細田衛士氏に、循環型社会実現に向けての現状と課題、それを解決するための環境経済学の展開と最近の動きについて語っていただいた。【環境管理|2018年1月号|Vol.54 No.1 より】
(写真 左:聞き手 黒岩 進(一般社団法人 産業環境管理協会 専務理事)) 右:慶應義塾大学 教授 細田 衛士氏)

||| 目 次 |||
- 廃棄物問題はクリアしつつある中様々な課題が残る資源循環システム
- 経済と環境のWin‐Winを実現するための「見せ方」とは

- オリンピック・パラリンピックで資源循環利用を世界にアピール
- 自国の利益を確保するための戦略思考が必要
- 静脈産業に必要な情報技術革新の導入とサポート体制
- 環境経済学と他の分野の学問がうまくつながるようになってきた
- 重要な境界条件の設定と情報分析に基づいた政策提言
- 「売り切り型」から「ソリューション型」への変革が、循環経済の発展につながる
- マクロ的に俯瞰する発想で社会・経済変革を実現する
※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。)

廃棄物問題はクリアしつつある中様々な課題が残る資源循環システム

黒岩:本日はご多忙の中ありがとうございます。先生は現在、3R 活動推進フォーラムとリデュース・リユース・リサイクル推進協議会の両方の会長を兼ねておられ、「日本の3R政策の現状と見解」についてもご執筆なさっています。最初に現状の3R政策についてお聞かせください。
細田:日本の3R政策は、廃棄物・ごみ問題にどう対処するかという意味でかなりうまくやってきたといえます。我々が最初に悩んだものの一つに最終処分場がなくなってくるという問題がありました。20 年程前には、処分場の残余年数*1が3 ~ 4 年という数字も出て、実際に市町村で最終処分場を確保するのが非常に難しくなってきた。一方で、容器包装類や廃プラスチックの課題、それが終わるとまた次の課題と、処理費用も上がる中で廃棄物・ごみ問題をどう解決するかが市町村を悩ませてきました。
 産業廃棄物の場合は、豊島事件や青森・岩手県境不法投棄事件などの事件が後を絶たず、廃棄物・ごみをいかに適正処理するかが課題となりました。昭和40年代後半から「分ければ資源、混ぜればごみ」といわれ出して、ごみの資源化、資源ごみという概念も出てきました。そして市民の理解や行政の努力もあり、分別収集してリサイクルする動きが加速し、それが法制化されました。その結果、リサイクルはずいぶん進みました。
 最終処分場不足の問題は、一廃、産廃ともに埋める量が少なくなってきたことで相対的に残余年数が増えてくる現象が起きて、不法投棄や最終処分場の告発問題もかなり回避できました。現在では一廃、産廃とも十数年分の残余容量があります。日本が一廃については焼却主義で、8 割程度を燃やしていることも処分場不足の解消に役立ちました。焼却はごみの容量・重量を同時に減らす重要な役割があります。
 個別リサイクル法も整備されてきてリサイクルも進みましたが、課題はいくつかあります。例えばリサイクル率についてですが、一廃が21%、産廃が50%強で頭打ちになっています。増えていた最終処分場の残余年数も頭打ちになっており、いまは消費者をはじめとする関係各主体の認識も含めて少し停滞しているという気がします。
201801_03.png黒岩:「循環型社会形成推進基本計画」の目標でいえば、最終処分量と循環利用率、特に最終処分量の達成率は高いですが、資源生産性*2の達成率はかなり低い(図1 )。
細田:最終処分量は平成12 年度から平成26年度までに約74%を削減でき既に目標を達成しています。一方、資源生産性については、平成22年度以降は横ばいとなっています。資源生産性はGDPを天然資源等投入量で除し、産業や人々の生活がいかに物を有効に使っているかを表す指標ですが、目標をクリアするには相当のことをやらないと厳しいと思います。最近は廃棄物処理法、バーゼル条約関連の国内法を改正した上、中国では2013 年頃から通関検査を厳格化するグリーンフェンス政策を実施して廃棄物の輸入を本気で削ってきています。つまりは、我が国は廃棄物問題はかなりクリアしたが、その先の資源循環には様々な課題が残っているということです。

*1 残余年数:現存する最終処分場( 埋立処分場)が満杯になるまでの残り期間の推計値。
*2 資源生産性=GDP/天然資源等投入量。天然資源等投入量とは国産・輸入天然資源及び輸入製品の合計量を指し、一定量当たりの天然資源等投入量から生じる国内総生産( GDP )を算出することによって、産業や人々の生活がいかに物を有効に使っているか(より少ない資源でどれだけ大きな豊かさを生み出しているか)を総合的に表す指標。

経済と環境のWin‐Winを実現するための「見せ方」とは

201801_04.png細田:食品容器トレーメーカーの(株)エフピコは最近、使用済みPETが余剰になるのを見越し、トレーをPETからつくる工場を建設しました。回収した使用済みのトレーやPETボトルを原料に戻して、再度、食品用トレーを製造しています。こういった循環的な資源利用が順調な流れに乗ればいいのですが、他の製造メーカーでは循環的な資源利用への関心がまだまだ薄いという気はします。
黒岩:EUでは循環型経済の実現に向けた枠組みを構築する「サーキュラー・エコノミー( CE:CircularEconomy、循環経済)・パッケージ」が2015 年に採択されました。現在、ディスプレイの環境配慮設計の基準について案が出てくるなど着実に進行しつつあるようですが、日本産業としてどう捉えていくべきでしょうか?
細田:EUは政策概念を設定するのが非常に上手です。現実に資源循環を通じて経済成長や雇用拡大が生まれるのかどうか、根拠や過程の具体性に欠ける概念ではありますが、新しい経済社会をつくり上げるためには必要なことです。求める方向は「経済と環境のWin‐Win」であり、CEでは、「2030 年までに一般廃棄物のリサイクル率65%を達成」、「2030 年までに容器包装ごみのリサイクル率75%を達成」、「2030 年までに廃棄物の埋立処分率を最大10%にまで削減」という目標を設定しました。そこで大事なのは、シェアリングやリース、レンタル、さらにプロダクトサービスなど、「モノ」ではなく「サービス」に重点が置かれているところです。そこから付加価値をつくり出し、それが資源循環へとつながったらどうなるかという「見せ方」なのです。そんな、人に見せるパッケージとしてのおもしろさがなかなか日本では真似できません。このパッケージによって廃棄物処理も変わり、エコデザインの事例は非常にしっかりしたものになった。そうなるとEU 各国はそれに従って動かざるを得なくなり、Win‐Winの方向に行く可能性はあると思います。
 SDGsの目標17項目をみて常々思うのは、みんな当たり前のことだということです。「貧困をなくす」、「ジェンダーの不平等をなくす」、「資源を有効利用する」などいろいろありますが、要はどれも当たり前のことができていないということです。「できていないこと」は国により異なり、それぞれの対応項目や強弱が違ってきます。日本でも格差社会問題やジェンダー問題に取り組まなければならない。しかし「資源の有効利用」については、適正な廃棄物処理はできているが、資源循環にはまだ課題が残る。だからそれを同時にやる必要があるのではないかと思います。さらに資源循環をもとにして、経済の活性化や様々な人たちの共同参画などが同時に実現できるようなしくみづくりが重要です。その旗振りとしてSDGsは非常に重要ではないかと思います。

オリンピック・パラリンピックで資源循環利用を世界にアピール へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)

【環境管理|2018年1月号|Vol.54 No.1】

book_20180111091407.gif下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
(本インタビュー全編ご覧いただけます。)

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