2015年10月

interviewmark.png 茨城大学学長 三村信男氏にき(2015年10月)

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〔聞き手:黒岩 進(当協会 専務理事)取材・文・写真:本誌編集部〕

 12月のCOP21「パリ合意」に向けて、国際社会は2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みを模索している。2014年には各国の政策決定者に向けたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書がとりまとめられ、最新の知見と国際的な共通認識のもとに議論が進められている。本記事では、長年にわたりIPCCワーキンググループのメンバーとして活躍されており、気候変動問題における「適応策」分野の第一人者である茨城大学学長・三村信男先生にインタビューし、日本を取り巻く現状と今後について語っていただいた。
【環境管理|2015年10月号|Vol.51 No.10 より】

||| コンテンツ |||
  1.環境問題のグローバル化とIPCC
  2.日本の海岸の8割が消滅する可能性
  3.温暖化影響のマップ化と「適応策」への活用
  4.IPCC第5 次報告書のポイント ─ 温暖化による「海洋の変化」への追及
  5.画期的に進んだ農業分野の「適応策」
  6.
遅れている日本の「適応計画」
  7.COP21 に向けて ─ 変貌しつつある国際交渉
  8.気候変動リスクがビジネスチャンスに

1.環境問題のグローバル化とIPCC

201510_mimuraXkuroiwa_2.png黒岩:先生はもともと海岸工学がご専門とお聞きしましたが、IPCCとはどのような契機で関与されたのでしょうか。
三村:工学の博士号を取得するまでは衛生工学が専門でしたが、大学院卒業後は海岸工学の研究室に移って土木系の海岸工学を始めました。そこでは海岸や沿岸海域における物質拡散や海岸侵食などの研究をしており、その後、茨城大学に移りました。
 「気候変動」が大きな問題になりつつあった1989 年から地球温暖化の影響に関する研究を始めました。その頃の気候変動問題は海面上昇の海岸への影響が大きな話題となっていたこともあり、海岸工学という専門分野との関係からIPCCに深くかかわるようになりました。東日本大震災が起きた2011 年には茨城県の津波対策検討委員会の委員長を務めたので、環境問題の「グローバル」面と「ローカル」面の両方を扱っていることになります。
 IPCCは1988 年に設立され、翌89 年に「海面上昇が起きたらアジアやオーストラリア、太平洋の海岸はどうなるか」という論議が始まったのですが、当時そのような研究をしている研究者はおらず、とりあえずオーストラリアで東半球ワークショップが開かれました。その後、関心があるなら一緒にやったらどうかという話になってIPCCとかかわることになりました。IPCC第1 次評価報告書( 1990 年)ではオブザーバーとしてすでに会議に参加して議論をしていました。実際、私の名前が執筆者として報告書に記載されたのはIPCC第2 次評価報告書(1995 年)の第2 作業部会報告からです。

2.日本の海岸の8割が消滅する可能性

黒岩:そうするとIPCC発足直後から携わられていたわけですね。201510_mimuraXkuroiwa_3.png
三村:最初の頃の議論では、「地球温暖化によってどこで何が起こるのか」というような確かなことをいえる人は誰もいませんでした。「こんな被害が起こりそうなので先進国は責任をとれ」「対策の資金を出せ」と途上国の代表がいうような政治的な話が多かったのですが、徐々に海面上昇によって起こされる影響についての科学的な議論になっていきました。
 一つ目は、海面が上がるから海岸が「水没」する。二つ目は、台風が来たら「高潮」になって洪水が起きる。平均海面が高くなるから高潮が激しくなるわけです。そして三つ目が「海岸侵食」。水没によって砂浜や陸地の面積が減るのは当然なのですが、不思議なことに単に水没するだけではなく、砂浜が削れていく。1m 海面が上昇すると海岸線は「水没」によって約20m後退しますが、「侵食」によって全体で100mも後退します。日本の海岸でシミュレーションすると、海面が1m 上がると90%以上の砂浜はなくなる計算になります。
 四つ目は、マングローブや湿地帯、波打ち際で生き延びている生態系が水没して生きられなくなります。実際は生態系が陸側に徐々に移るということになりますが、もし陸側が開発されていたら生息地の移動する余地がなく、すべて失われます。そして五つ目は、川や地下水の中に海水が入っていって、水道水や農業用水が塩水化します。
 それら一つひとつの影響が世界的にみたらどれくらいの規模になるのかを計算しようとしていたのですが、これはなかなか大変なシミュレーションです。特に塩水の侵入はそれぞれの地域ごとの地形や地質構造に依存するから、まだ誰も計算していません。他の「水没」「高潮の氾濫」「海岸侵食」「湿地帯の影響」については様々な分野の研究者と一緒に世界規模の影響評価をしています。
黒岩:確か、海面上昇で日本の砂浜の8割が消えるといった報道もありましたが……。
三村:「63cm 海面が上がると日本の海岸の8 割が消滅する」というのは最近の研究成果ですが、1995年に最初に計算したときの方法と基本的には同じです。それを試算しようとすると、日本にいくつの砂浜があるかを調べなければなりません。国土交通省が管理している海岸は当時約9,700 あり、そのうちの3 割が砂浜でした。それら砂浜の長さと幅と砂粒の粒径、平均的な傾斜、砂浜に入ってくる波の条件を集めて、あるモデルをつくって侵食面積を計算するという方法で、最近試算し直したのが先ほどの数字です。そもそも、海面が1m上昇すると海岸が100 m後退するとなれば、日本の砂浜で幅が100mある海岸はごく一部しかないので、ほとんどの海岸で砂浜が消えることになります。

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(写真左:当協会専務理事 黒岩進、写真右:茨城大学学長 三村信男氏)

3.温暖化影響のマップ化と「適応策」への活用 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)

【環境管理|2015年10月号|Vol.51 No.10 】

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