2017年1月

interviewmark.png 新春特別:日本政策投資銀行 竹ケ原啓介氏にきく
                ―ESG投資と企業の環境戦略 (2017年1月)

 企業にコミットし成長の果実を分け合う長期投資の観点から、欧米ではESG投資がトレンドとなっている。その状況から日本は大きく立ち遅れていたが、2014年、金融庁によって「スチュワードシップ・コード」が導入されたことをきっかけに、日本の機関投資家が一斉にESG投資を標榜しはじめた。今後、日本の企業評価には「非財務的価値」が大きく関与するようになったといえる。本記事では、日本政策投資銀行のCSR分野を引っ張ってきた産業調査部長の竹ケ原啓介氏に、環境金融分野におけるESG投資のこれからを語っていただいた。〔聞き手:黒岩(当協会 専務理事)〕【環境管理|2017年1月号|Vol.53 No.1 より】

201701_takegaharaXkuroiwa01.png||| 目 次 |||
- 環境がビジネスになることをドイツで体感する
- 環境経営を評価して投資対象にする発想に触れる
- 個人の意識に依存せずにゴミを分別させるシステム

- 金融市場は使い方次第で大きな武器になる
- 成長の果実を分け合うための長期投資の重要性と責任投資原則
- 世界最大の機関投資家の参加により日本に浸透したESG投資
- 出遅れた日本の強みとなる事業継続マネジメント
- 「公害防止」から「環境経営」へ金融側の投資スタンスの変遷
‐ 環境政策をサポートする「DBJ環境格付」プログラム
‐ 設備投資動向から企業の非財務情報をみる
- 環境イノベーションを創出する金融機関の役割と責任

※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。)

環境がビジネスになることをドイツで体感する

201701_takegaharaXkuroiwa02.png黒岩:金融と環境、金融とESG 投資*1などの分野で、日本政策投資銀行はパイオニアとしての役割を果たしてこられました。竹ケ原部長はそれらをリードする役割を果たされてきたわけですが、今回はそのご経験と知見を、弊誌の読者や当協会会員に向けていろいろとお話しいただきたいと思います。最初に、金融の多彩な側面について取り組まれた原点として、2度にわたって長期滞在されたドイツでのご経験があるとお聞きしています。
竹ケ原:ドイツには2回行かせていただきました。最初は1990 年代のマルクの時代、95 年から97 年でした。2回目はユーロの時代の2005年から2008年頃でした。初回は金融と環境の接点というより、環境自体がビジネスになることを学ぶきっかけになりました。企業を訪問する中で、「日本市場がすごく有望でおもしろい」といってくれたセクターがいくつかあり、その中の一つが環境分野でした。
黒岩:ドイツの環境分野というと、リサイクルが有名ですね。
竹ケ原:そうです。最初に駐在した頃のドイツでは、いわゆる拡大生産者責任の走りとして容器包装リサイクル法が導入され、有名なDSD(デュアル・システム・ドイチュラント)社という専門会社もできました。DSD社を拠点としてリサイクルの新しい仕組みが続々とできはじめた時代でした。
黒岩:土壌地下水汚染もドイツでは比較的早くから取り組んでいましたね。
竹ケ原:当時、土壌汚染対策法こそまだなかったのですが、汚染跡地(アルトラステン)の浄化自体は既にビジネスになっていました。また、ドイツは河川など表流水ではなく地下水を水源とすることが多いため、地下水のモニタリングも各地でしっかりと行われていました。日本はまだダイオキシン騒動が起きる前でしたが、彼らからみれば、先進国として成熟社会に入ってきてこれから環境が大きく伸びてくるフェーズにあり、しかも民度も所得も高く、技術もある国だということで、これから日本マーケットは大きく伸びるという認識だったそうです。そのためかドイツ企業も親切で、いろいろプラントやサイトなどを見学させてもらうことができ、「環境がビジネスになるんだな」と実感できたことが鮮烈な原体験でした。
*1 ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業やプロジェクトを評価・選別して行う投資をいう。

環境経営を評価して投資対象にする発想に触れる

竹ケ原:最初の駐在から帰国したあと、「これから環境が投融資の一つの重点分野になりそうだから」という問題意識から産業調査に取り組んでみました。これがきっかけになり、日本国内の様々な環境セクターとの関係もできたところで二度目のドイツ赴任になります。このときは銀行自体も新しい投資・融資、ファイナンスの可能性を探るソーシングに力点を置いていました。そこで、昔とった杵柄で環境分野はどうだろうという思い調べたところ、環境ビジネスはすでにしっかり定着しており、とりたてて「環境セクターだから」という特別扱いではなかったのです。むしろ環境という切り口では、個別企業の経営を環境という側面から評価して投資対象としての妥当性を判断しようとする動きが活発になっていたのが印象的でした。いまでいう非財務的価値に着目した企業評価という発想に触れたのがこのタイミングです。 いま世界的にも影響力を持っているESGレーティングとの接点が生じたわけですが、これも最初の駐在時代の知識や問題意識が役立って次につながったのではないか、若干強引ですが、そういう展開かなという感じがします。
黒岩:ドイツにおける環境分野の取り組みは、市民レベルでも環境意識が高かったり、あるいは過去の炭鉱跡地問題といった環境問題で苦労した歴史があるので、日本と比べると当時はかなり違ったことを感じられたのでは な い でしょうか。
竹ケ原:生活者の目線でいえば、個々人の平均的な環境意識は日本のほうがはるかに高いと思います。特に何ら罰則も、あるいは誰もみていなくても日本人は「これは燃えるゴミ、燃えないゴミ」と一生懸命悩んだりしますよね。一般的なドイツ人はそういうことに悩みません。ドイツには外国人も多く、必ずしもドイツのルールや制度を熟知している人ばかりではないわけです。にもかかわらず社会システムが全体としてうまく回っていることには結構感動しました。生活してみてわかったのは、ルールを守ることに経済合理性を見いだせるような仕組みが構築されていることです。

個人の意識に依存せずにゴミを分別させるシステム

竹ケ原:例えば、ゴミの分別などが典型です。通常、家庭ゴミは自治体指定のゴミ箱に入れて廃棄しますが、使用するゴミ箱の容量によって料金が決まっています。いわゆる従量制のゴミ処理手数料を払っているわけで、ゴミはそこに入れるしかない。ところがパッケージ、生ゴミ、庭木の剪定枝、紙ゴミなどはそれぞれ個別のリサイクルルートができあがっているので、それ専用の回収ボックスが別途割り当てられています。ちゃんと分別して出せば、リサイクル分にコストはかかりません。すると、自治体のゴミ箱に入れる量が減り、使用するゴミ箱も小さくて済むからコスト負担が小さくなる。これが経済的なインセンティブになって、市民が一生懸命ゴミを分別します。個々人の意識に依存しないシステムのつくり方のうまさを感じました。
 裏返せば、これは家庭が費用削減のためにやっているという話です。従って、このインセンティブが効かない駅など公共の場のゴミ箱をみると、これが同じ国かと思うくらい分別されずに廃棄されていたりする。一方、日本では、家庭も公共の場でも分別廃棄に大差はないですよね。長く現地で生活してみると、見ると聞くとではちょっと違うなみたいなところは随分感じました。
201701_takegaharaXkuroiwa03.png黒岩:環境金融の中で、環境リスクなど従来は財務情報の中になかったような要素を採り入れて企業の価値を見極める側面や、あるいは環境、ESGなど、社会として望ましい分野に資金を振り分けたり、企業の活動をESG配慮型に誘導するというような側面を現地で目の当たりにしたということですね。
竹ケ原:その通りです。非財務的な価値に着目した投資活動である「SRI(社会的責任投資)」の系譜を整理した資料を読みますと、いくつかの年代に区分することができるそうです。ごく初期のSRIはキリスト教の倫理観に基づいた、「罪あるモノには投資せず」といった宗教色の強いものでした。これを第1 世代とすると、第2 世代は、70 年代のアメリカを中心とする、アパルトヘイト反対のような社会運動の性格の強いものだったようです。これに次ぐ第3 世代が、1990 年代からヨーロッパで主流となった、現在に連なるSRIです。ここでは、企業の成長と非財務的な取り組みを同期させて「環境に配慮している会社はより強い会社だ」とか、「社会性に配慮している会社はリスクが低い」といったプラス面に注目してみていく流れが強くなっています。私が欧州に駐在していたのは、まさにこの第3 世代のSRIが定着・拡大していく時期にあたります。

金融市場は使い方次第で大きな武器になる へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)

【環境管理|2017年1月号|Vol.53 No.1】

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(本インタビュー全編ご覧いただけます。)

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