2016年1月

新春対談:東京大学 安井 至 名誉教授にきく(2016年1月)

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201601_yasuiXtomizawa_2.png 地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑える長期目標がCOP21で合意され、排出実績などを点検してすべての国が5年ごとに削減目標を国連に提出する義務が採択された。地球温暖化対策は火力発電をはじめ日本の産業界に与える影響が予想以上に大きい。本記事では、環境分野で幅広い知見を持つ安井至先生に当協会・冨澤龍一会長とご対談いただき、「2度目標」などの捉え方、産業界に求められる電力貯蔵技術や材料開発など環境イノベーション、再生可能エネルギーと石炭火力発電、さらに低炭素社会における資源循環など具体的かつ興味深いテーマについて語っていただいた。
(写真 左:安井至 名誉教授(東京大学) 右:冨澤(産業環境管理協会))

||| 記事目次 |||
必要なときに必要なものを──「新コタツ文明」の発想
国際交渉における「ゴール」と「ターゲット」はまったく異なることを理解する
温暖化問題にはイノベーション以外の解はない
いまも変わらず重視される石炭火力発電と世界の趨勢
CCS導入に不可欠なのは国のリスク負担
実現可能性の高い新たな環境技術とは
資源循環、3Rの成果とこれからのリサイクルシステム
‐ 環境経営を実現する企業人を育てる教育を

必要なときに必要なものを──「新コタツ文明」の発想

201601_yasuiXtomizawa_3.png冨澤:温暖化対策を真剣に検討すると我々のライフスタイルも変える必要があります。先生が提唱なさっている「コタツ」の考え方も重要だと思います。確かにセントラルヒーティングをしながら「コタツ」も使うようなことではエネルギー効率面であまり意味がないですね。
安井:西洋を仮にセントラルヒーティングにたとえるなら、木造住宅が多くエネルギー源が少ない日本は「コタツ」でしょう。必要なときに必要なところへ必要なものを提供するといったコンセプトです。幸いなことに「コタツ」のイメージは誰にとっても不快なものではありません。このように快適性とエネルギー効率の両面が満たされるものは探せばたくさんあると思います。
 人間の体温も成人で100W程度ありますから、熱源として暖房に利用できるといった考えもあります。例えば、我が家では寝室の窓に3 枚ガラスを入れてますが、寝る前の温度が朝になると断熱効果で少し上がっています。
冨澤:先生のご著書に出てくる小さな車の話も面白かったです。夫婦なら2 人乗り自動車で子供ができれば2台連結して使う。自動車メーカーにお願いしてつくってもらったらいかがでしょうか(笑)。
安井:たった一人しか乗らないのに大型車のセンチュリーに乗らなくてはいけないのか、ということです。私の提案では、家族が2 人用の車を2 台持っていて父親と母親はそれぞれ違う勤務先に車で出勤する。休日になって子供を連れて出かけるときに、会話ができるよう2台をガンダムのようにガチャと連結させる。それが電気自動車なら遠出するときに後ろに小さな発電装置をガチャと取り付ける、まさにガンダム型ですね。
冨澤:そういう自動車なら東南アジア、特に中国あたりで大変喜ばれると思いますね。

国際交渉における「ゴール」と「ターゲット」はまったく異なることを理解する

冨澤:昨年のCOP21 では、2020 年以降の温室効果ガス排出削減の新たな枠組みについて国際交渉が進められました。しかし中国や米国、インドなど各国の削減目標(約束草案)では今世紀中に2.7℃以上という地球温暖化が避けられない予測もあり、洪水や干ばつの増加、海面上昇などの深刻なリスクがあると指摘されています。産業界に関しては先生の本でも相当辛口の批評をいただいていますが、削減目標のベースになる上昇温度の目標値についてお考えを教えて下さい。
安井:最初に「ゴール」と「ターゲット」という言葉を切り分けなければなりません。欧米において「ゴール」はあくまで「その方向に向けてそのような姿勢をとる」ことです。国の対策つまりは「ターゲット」として目標値を目指すことはまったく別の議論です。これはゴールとターゲットを同一のものとして認識する真面目な日本人にとって一番難しい問題です。
冨澤:それは企業経営者や産業界にもあてはまるのでしょうか。
安井:そうです。「温暖化対策でゴールとターゲットはまったく異なるコンセプトだ」という統一した認識を経団連も含め産業界に持ってもらわないと困りますね。
冨澤:実際問題として産業界では業種などによって意見がバラバラなので、経団連も一つに意見をまとめるのはなかなか大変な作業だと思います。
安井:欧米では温暖化目標の「ゴール」と「ターゲット」を完全に区別しているので、ゴールのほうを向いているからいいだろう、という主張をします。ゴールとはその人の人間性を示すようなものなのです。この二つの違いを日本人はなかなか理解できない。
冨澤:ということは、ゴールについては「二枚舌」が許されるのでしょうか。
安井:日本人は嘘をつくと閻魔様が舌を抜くでしょう。二枚舌を一枚にしてくれるんでしょうね。とても便利ですね(笑)。
201601_yasuiXtomizawa_4.png冨澤:地球温暖化と気候変動について本誌読者の多くは、どういった段階なのか、どういう状況なのかよく理解できないのが実情だと思います。先生はゴールを「ある方向に向けて動く姿勢」、ターゲットは「達成すべきもの」とおっしゃられますが、COP21 で議論になっていた2℃もしくは1.5℃未満といった温度上昇値をどのように認識されているのでしょうか? 
安井:現実的には2℃や2.5℃のあたりに落ち着くと思います。ところが原罪の意識を持っているキリスト教国家などは「2℃に向けて最大限の努力をしたのであるから神は許してくれるだろう」という発想ですね。これが基本的に違う点です。より現実的な2.5℃、それでも実際はかなり難しいシナリオですが、日本人なら「ターゲットは達成可能な2.5℃にすべきだ」というでしょう。でもそれは欧米では「後ろ向きな姿勢」と取られる。だから日本もキリスト教的なマインドで対応していかないと社会や産業界の犠牲が増えてしまうおそれがあります。
 昨年、ルーマニアの郊外で宗教壁画をみました。欧米の旅行者が教会のフレスコ画「最後の審判」をとても真剣に長い時間眺めているんですね。クリスチャンはまさに原罪意識を持っているな、と直感しました。そしてクリスチャンの世界も日本人はしっかりみないとだめだなと痛感しました。
温暖化問題にはイノベーション以外の解はない へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)

 

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