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環境最新情報
2022年3月
『環境最新情報』 とは
当協会機関誌「環境管理」から、環境に関する技術情報など広くお知らせしたい記事を掲載します。
どなたでも閲覧可能です。
- 2022/3 東京理科大学理工学部 出口 浩 教授にきく ー活性汚泥の先端研究を語る―酸素消費速度と汚泥滞留時間
- 2020/7 CLOMA会長 澤田道隆氏にきく ―海洋プラスチック問題解決へのチャレンジとESG経営
- 2020/4 帝人にきく ―未来の社会を支える会社へ -次の100年に向けた帝人の「価値創造モデル」と環境ビジョン
- 2020/2 横浜市にきく ―SDGs未来都市・横浜の実現に向けて -ヨコハマSDGsデザインセンターの取り組み
- 2019/8 三菱電機にきく ―大気、大地、水を守り、心と技術で未来へつなぐ-世界を変える三菱電機の「キーテクノロジー」と環境ビジョン
- 2019/4 千葉商科大学 学長 原科幸彦氏にきく ―「商いの力」で社会を変える 「自然エネルギー100%大学」が目指す地域分散型のエネルギービジネス
- 2019/2 資源エネルギー庁 にきく ―なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?
- 2018/12 地球温暖化政策財団 ベニー・パイザー氏 にきく ―英国から考える、気候変動政策の今後
- 2018/8 産業廃棄物処理事業振興財団 専務理事 にきく ―循環経済先進国を目指して 廃棄物処理法の変遷と循環型社会の未来
- 2018/5 DOWAエコシステムの環境経営 「鉱山」から「都市鉱山」へ ―金属を「分ける」技術と廃棄物のリスクマネジメント
- 2018/4 住友化学にきく マラリア撲滅とSDGsの達成に向けて ―社会課題を解決する住友化学の環境ソリューション
- 2018/3 日刊工業新聞編集員 松木 喬 氏にきく ―「脱炭素」から「地方創生」まで 2018年度の環境ビジネスと環境経営
- 2018/2 英国再生可能エネルギー財団 ジョン・コンスタブル氏 にきく ―イギリスのエネルギー政策と再生可能エネルギー問題
- 2018/1 新春特別インタビュー:慶應義塾大学 経済学部 教授 細田衛士氏にきく
- 2017/4 インタビュー:リコーの環境経営「再利用」から「再生」へ
- 2017/1 新春特別インタビュー:日本政策投資銀行 竹ケ原啓介氏にきく
- 2016/5 インタビュー:コカコーラ システムの水資源戦略 使った水を自然にかえす
- 2016/1 新春対談:東京大学 安井至 名誉教授にきく
- 2015/12 インタビュー:マツダの環境経営 環境技術で世界に挑む
- 2015/10 インタビュー:茨城大学学長 三村信男氏にきく
- 2015/5 インタビュー:栗田工業にきく 企業の水問題と処理技術の動向
- 2015/4 インタビュー:イオンの環境経営「地域貢献」で世界を拓く
- 2015/1 新春対談:産業技術総合研究所 中鉢良治 理事長にきく
- 2014/10 特別対談:淑徳大学 北野大 教授にきく
- 2014/1 インタビュー:國部克彦氏(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)にきく
- 2013/10 特別対談:日立製作所 川村会長にきく
- 2013/4 特別対談:荒川詔四(ブリヂストン相談役・前会長)×冨澤龍一(産業環境管理協会 会長)
- 2013/4 トレンド(世界の動き・国内動向 等)APPからGSEPへ -協力的セクター別アプローチの世界展開(続編)
活性汚泥の先端研究を語る―酸素消費速度と汚泥滞留時間
東京理科大学理工学部土木工学科の出口浩(でぐちひろし)教授に、汚水の生物処理に関する興味深い話をお聞きした。合成洗剤の自然分解、活性汚泥のフロックに微細なガラスビーズで重しを付ける研究、酸素消費速度OURと汚泥滞留時間SRTの関係、さらに原水に最適なSRTを選択することでエアレーションに要する電力量を節約できることなど、どの話題も非常に興味深い内容であった。
【環境管理|2022年3月号|Vol.58 No.3 より】聞き手:本紙編集部
||| 目 次 ||| - 松阪高校化学部での研究
- 東京理科大学での研究
- ガラスビーズのフロック
- 実験や実測による研究の原点
- 酸素消費速度OURについて
- 生物膜による分解実験
- 活性汚泥の内生呼吸期への移行
- 流入原水とOURの関係
- 公害防止管理者の受験者へアドバイス
※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。) |
松阪高校化学部での研究
―先生の研究分野は環境工学とお聞きしますが、はじめに自己紹介をお願いします。
出口:実は現在の天皇陛下と同じ日に生まれました。1960 年のことです。生まれてまだ名前がない時に、風邪の治療をした小児科の先生が「名前はこれでいいじゃない」と浩宮さまの名前から「浩」と命名されました(笑)。出身は三重県松阪市で、地元の松阪高校を卒業しました。一浪して東京理科大学に入学し、大学院まで含めて 9 年在籍し博士号を取得しています。
―水質関連の研究は大学生になってからですか。
出口:高校時代からです。1 年生の終わり頃から2年生にかけて、合成洗剤ABS*1 が大きな問題になっていました。高校の化学部が学園祭で、「合成洗剤による水の汚染があり、魚の味蕾(みらい)が機能しにくくなり、餌以外のものを摂取した結果、その影響として魚の背骨が曲がるなどの奇形が生じている」と発表していました。ABSは自然界で分解しないという話も本当かな、と思いました。当時、松阪には下水道がなかったので、生活雑排水は河川経由で伊勢湾に流れ込んで、最後は湾全体が洗剤の泡で覆われるかも知れない、と考えて、化学部に入部しました。
―水質汚濁が大きな問題になった当時は、ABSの濃度はどの程度でしたか。
出口:部員として、川の河口近くから上流に向かって5、6カ所の採水点を設定して、ABSを測定しました。すると、河口付近で 5 ~ 6mg/LのABS濃度が検出されました。
―高校の化学部ではどのような研究をなさっていましたか。
出口:川の水が自然分解するかどうかの実験を工夫して設計しました。①川の水と想定したコイが棲息する池の水、ABSの親油基の影響を考慮して②蒸留水にミシン油を添加したもの、③蒸留水のみ、を比較対象としました。この①~③の 3 種類にABSの標準物質を添加して実験をしました。ABSは親油基と親水基があるので、油に吸着する性質があります。油にABSがくっついて水から消える現象も実験で検討しました。
―どのような結果でしたか。
出口:実験を1カ月継続したところ、①池の水からはABSが検出されなくなりました。②ミシン油添加の蒸留水と③蒸留水のみの実験では、ABSが水から除去されませんでした。この実験から、ABSは自然分解することが実証できたと考えています。部の顧問の先生が研究成果を発表しなさいと言うので、科学技術に関係する国の機関にレポートを提出したら表彰されました。このような研究や分析ばかりしていたので、受験勉強はほとんどせず、浪人することになりました。当時は、「二度とこんな研究はしない」と決意していました(笑)。
【環境管理|2022年3月号|Vol.58 No.3】
下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
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2020年7月
海洋プラスチック問題解決へのチャレンジとESG経営
昨年設立された「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」( Japan Clean Ocean MaterialAlliance、CLOMA)は、地球規模の課題である海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて業種を超えた幅広い活動をしている。プラスチック製品の持続可能な使用や代替素材の開発、情報共有などを企業が連携して推進するためのプラットフォームとして、CLOMAが産業界で現在大きく注目されている。
このたびのCLOMAアクションプラン策定に際し本誌では、ワーキンググループごとの行動プランを3回にわたって掲載する。連載にあたり、CLOMA会長(花王社長)澤田道隆氏から、CLOMAの方向性についてお話をいただいた。さらに、ESG経営で日本をリードしてきた花王社長としての視座から、日本企業のESG経営への取り組みについても語っていただいた。
【環境管理|2020年7月号|Vol.56 No.7 より】
聞き手:黒岩進(一般社団法人産業環境管理協会 専務理事/CLOMA事務局長)
||| 目 次 ||| ※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。) |
プラスチック問題解決に必要な3つの施策
澤田会長:地球環境問題において、プラスチックごみの問題は「海洋プラスチックごみ問題」とも直結しており、非常に重要です。問題解決に向けて様々な取り組みがなされていますが、十分ではありません。今後、新興国中心に人口が増え、少しずつ豊かな社会になることによって、プラスチックの使用量は大きく増えることが予想されます。使用量削減がある程度進んでも、世界全体では使用量が増え、結果、廃棄するごみの量は増えていきます。そこで思い切った施策が必要です。ポイントは3つあると考えます。
2 つ目は、適正な使い方の工夫やプラスチック代替素材への変更等によって、プラスチック使用量を大幅に削減することです。
3 つ目は、プラスチックリサイクルを本気で進めることです。使用量削減は継続的に進めていかなければなりませんが、やはり経済性を兼ね備えたリサイクルが重要と考えます。
【環境管理|2020年7月号|Vol.56 No.7】
下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
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2020年4月
未来の社会を支える会社へ
ー次の100年に向けた帝人の「価値創造モデル」と環境ビジョン
創立102年を迎える帝人㈱は本年2月、「中期経営計画2020-2022」を発表した。様々な社会課題に対するソリューションを提供する「価値創造モデル」は、100年を超える歴史の中で積み上げてきた技術基盤と、変革と挑戦によって受け継がれてきたDNAによって支えられており、そこから生まれた「Quality of Lifeの向上」、「社会と共に成長します」、「社員と共に成長します」という企業理念は、SDGsが謳われる以前からいわれてきた同社の目標である。本記事では、化学素材メーカーでありながら、物質や素材だけの化学にとどまらず、「人を中心に化学を考える企業」として未来を見据える同社の環境戦略について、CSR 管掌 早川泰宏氏に話を聞いた。
【環境管理|2020年4月号|Vol.56 No.4 より】
聞き手:黒岩進(一般社団法人産業環境管理協会 専務理事)
取材・文:本誌編集部/写真・図:帝人(株)、山崎ワタル、本誌編集部
||| 目 次 ||| ※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。) |
「大学発ベンチャー」が出発点 ーー「変革」と「挑戦」の歴史とチャレンジ精神
早川:当社の設立は1918年、今年で創業102年目になります。当時、日本一の総合商社だった鈴木商店の大番頭・金子直吉が、米沢高等工業学校(現・山形大学工学部)に資金援助して開発したのが化学繊維のレーヨンで、いまでいう大学発ベンチャーのはしりでした。その商業生産のために創業したのが帝人(当時・帝国人 造絹絲)であり、日本の化学繊維工業のさきがけとなりま した。
レーヨン事業の興隆期はリーディングカンパニーとして牽引しておりましたが、その後競争が激しくなりレーヨンの需要が低下したため、1958年にポリエステル繊維事 業に舵を切りました。そしてポリエステルを主力製品とする一方、ポリカーボネート樹脂やメタ系アラミド繊維、PETフィルムなど、素材を中心とした新事業の開発・事業化に挑戦し、高機能素材メーカーとして事業を拡大していきました。
現在は、マテリアルとヘルスケアにITを加えた3つの事業領域の強みを活かして新たな価値を創出することで、さらなる事業変革を進めております(図2)。このように、創業時からのベンチャースピリットのDNAを脈々と受け 継いで、チャレンジ精神で「変革」と「挑戦」を繰り返し、 時代に合わせてポートフォリオを変化させてきたのが帝 人の歴史です。
【環境管理|2020年4月号|Vol.56 No.4】
下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
(本インタビュー全編ご覧いただけます。)
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2020年2月
横浜市にきく
SDGs未来都市・横浜の実現に向けて
ーヨコハマSDGsデザインセンターの取り組み
横浜市は、2008 年に「環境モデル都市」、2011 年に「環境未来都市」に選定され、環境問題や超高齢化問題など世界共通の都市課題に取り組んできた。その先進的なまちづくりをさらに推し進めるとともに、世界が合意した「持続的な開発目標(SDGs)」の達成に貢献するため、2018年6月に「SDGs未来都市」に選定され、一層の先鋭的な取り組みを求められることとなった。
本稿では、企業や団体との「連携」により事業を創出し、SDGs未来都市を実現するために創設された「ヨコハマSDGsデザインセンター」における具体的な取り組みについて、横浜市温暖化対策統括本部 SDGs未来都市推進課 小林 武担当係長に話を聞いた。
【環境管理|2020年2月号|Vol.56 No.2 より】
取材・文:本誌編集部/図・写真提供:横浜市
||| 目 次 ||| ※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。) |
環境モデル都市からSDGs未来都市へ ー「環境」と「超高齢化」への取り組み
小林:2008 年に最先端の環境対策、温室効果ガス削減の対策を進める取り組みをモデル的に実現するための都市指定が行われました。それが「環境モデル都市」で、選定された 13 都市の中に横浜市もラインナップされました。それをベースに超高齢社会の対応をプラスさせたものが「環境未来都市」で、2011 年に新たに選定されました。
さらに 2018 年 6 月に、これをステージアップさせる形で、「経済・社会・環境」というSDGsの三つの側面の統合的解決を図る日本のSDGsの達成に向けたモデルとなる都市として「 SDGs未来都市」に選定されたのです。
小林:2008 年頃から環境への前向きな取り組みがはじまり、2010年に策定した横浜市の総合計画では、「環境最先端都市戦略」という中期的戦略を打ち出しました。積極的な環境対策、低炭素な都市づくりを目指す最先端の取り組みを政策的に行い、それを対外的に発信していくことを脈々と続けているわけです。
2011 年からの「環境未来都市」での一番の取り組みは、「横浜スマートシティプロジェクト」でした。約4,000世帯の方々と企業の皆様に協力をいただき、デマンド・レスポンスと呼ばれる電力使用のピークカットを目指す実証プロジェクトを実施しました。ビル部門と家庭部門をあわせてCO2排出量を29%削減、省エネ率が17%という成果があがりました。
超高齢社会への取り組みとしては、「持続可能な住宅地モデルプロジェクト」があります。横浜市の住宅地は鉄道網の建設にあわせて横浜港を中心に放射的に広がっていきましたが、新しく開発された住宅地には一気に人が流入してくるため、一斉に高齢化してしまうのです。そのような方々に長く横浜に住み続けたい、新しい方々に住みたいと思っていただけるような取り組みをしていこうということで始まったのがこのプロジェクトです。「たまプラーザ駅北側地区(青葉区)」、「十日市場町周辺地域(緑区)」、「相鉄いずみ野線沿線地域(旭区・泉区)」、「洋光台周辺地区(磯子区)」で展開しており、現在も続いております。
2,000 世帯以上の団地の老朽化の進行、バス便の減便による地域交通の不足などの問題があります。このような住宅地の魅力向上を図るために、沿線開発を進めてきた鉄道事業者や住民の方々とともにまちづくりに取り組むことは非常に重要です。横浜市は自治会、町内会の結成率が70%以上と、昔から「地縁」や「地域コミュニティ」を大切にしている都市で、新たに入ってくる若い人たちが自然と地縁の中に溶け込んでいくような形を目指すべく、地域コミュニティを活性化させるしくみづくりを重要視しています。
「シーズ」と「ニーズ」を SDGsを共通言語として連携
小林:選定を取るにあたって、横浜市の総合計画との連動を十分に考えることを重視しました。基本的には中期4か年計画とSDGs未来都市計画を同時期に策定していたため、できるだけ一体的になるように策定するよう進めました(図1)。このことで、中期計画に位置づけられた市の取り組みと、SDGs未来都市・横浜の取り組みが合致するということになります。
小林:そうです。第1回の都市選定にて29都市がSDGs未来都市に選定されました。そのうちの10都市が、さらに先駆的な取り組みを行っているという評価を受けて、自治体SDGsモデル事業というものに認定されています。これにより、国から先進的な取り組みを行っているというお墨付きと交付金をいただきました。
そのSDGsモデル事業として、今一番打ち出しているのが「ヨコハマSDGsデザインセンター」です。それは「経済・環境・社会的課題の統合的解決を図る、『横浜型大都市モデル』の創出に向け、多様な主体との連携によって自らも解決に取り組む中間支援組織」です(図 2)。
そこに、市の地域にある課題、例えば高齢化が進んでいたり、駅から離れているので交通の問題が生じているなど、地域のニーズをSDGsの視点からうまくくっつける。そうすることで新しい取り組みを生み出し、それを成功させることによって、横浜はこんな事業を成功させたというモデルをつくる。それを「横浜型大都市モデル」として世の中に発信していく。
それが評価されれば、いろいろな都市で展開、実践して定着していく。そういう将来を見据えながら、様々な取り組みを新しく生み出していこうというのがヨコハマ SDGsデザインセンターです。
【環境管理|2020年2月号|Vol.56 No.2】
下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
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2019年8月
三菱電機にきく
大気、大地、水を守り、心と技術で未来へつなぐ
ー世界を変える三菱電機の「キーテクノロジー」と環境ビジョン
三菱電機㈱は、創立100 年を迎える2021 年を目標年とした環境ビジョンの最終段階を迎え、以降の新たな長期ビジョンを「環境ビジョン2050」として打ち出した。そのコンセプトは「大気、大地、水を守り、心と技術で未来へつなぐ」の宣言の下、事業を通じた環境課題解決、次世代に向けたイノベーションへの挑戦、新しい価値観・ライフスタイルの提案を行動指針とし、次の時代の環境経営へと進み出そうとしている。本記事では、総合電機メーカーとして積み重ねた幅広い技術資産を活用し、社会が求める環境課題の解決を目指す環境戦略について、常務執行役生産システム本部長 藪 重洋氏に話を聞いた。
【環境管理|2019年8月号|Vol.55 No.8 より】
聞き手:黒岩進(一般社団法人産業環境管理協会 専務理事)
取材・文:本紙編集部/写真・図提供:三菱電機(株)、山崎ワタル
||| 目 次 ||| ※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。) |
創立100周年 -2021年は環境ビジョンの総仕上げ
製造業者である弊社にとって特に重要と考えているのは「循環型社会の形成」への貢献です。製造業は資材や材料の調達から製品の製造・販売、さらに使用済み製品の回収・リサイクルなど、製品のライフサイクル全体にかかわりを持つからです。そのためには設計段階から製品の小型化・軽量化を通じて省資源化を進めるとともに、既存の部品・装置を活用したエレベーターのモダニゼーション(リニューアル)や、使用済み家電製品のリサイクルをはじめとする資源循環ビジネスを推進しています。
弊社の環境施策には、「製品やサービスによる環境貢献」と「生産活動における環境負荷低減」の両輪があると考えております。
「製品やサービスによる環境貢献」とは、環境に配慮した製品やサービスをお客様にお使いいただくことによる社会への貢献のことで、たとえば工場の最適化を図るFA統合ソリューション「e-F@ctory」がそれに当たります。エネルギー消費の大きな割合を占めている工場の生産設備に対して、高い省エネルギー性能をもつ機器・装置を提供することによってものづくりにおけるエネルギー削減に貢献します。弊社の持つFA(Factory Automation)技術とITをつなぐ連携技術を最大限に活用することで、開発・生産・保守の全般にわたるトータルコストを削減し、ものづくりと経営の最適化を支援しています。
「生産活動における環境負荷低減」とは、調達から生産、包装・輸送、使用、廃棄/リサイクルまで、バリューチェーンの各プロセスで、温室効果ガスの排出削減、資源の有効活用、環境汚染防止、自然との共生など、持続可能な社会の実現につながる様々な施策を推進しています(図1)。先ほど申し上げたエレベーター のモダニゼーションや使用済み家電製品のリサイクルは その一例となります。
【環境管理|2019年8月号|Vol.55 No.8】
下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
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2019年2月
資源エネルギー庁にきく
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?
「パリ協定」では「2℃目標」が設定され、世界は「低炭素」から「脱炭素」へと舵を切った。これを受けて、化石燃料産業から投資を撤退する「ダイベストメント」の動きがヨーロッパ系の金融機関から広がっており、電力については石炭火力発電からの撤退の動きがみられる。
こうした動きの中、日本では震災以降、現在も多くの石炭火力発電所の計画が進行中であり、世界の流れに逆行しているといわれている。しかし、石炭火力が持つ様々なメリットを考えれば、日本にとって引き続き重要な選択肢であり、逆に世界の温室効果ガス削減に貢献する技術といえる。
本稿では、エネルギー政策における石炭火力発電の重要性から、建て替え(増設)の必要性、石炭火力発電を使わざるを得ない新興国への技術提供による国際貢献等について、経済産業省 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 電力基盤整備課 岡田莉奈係長と、同資源・燃料部 石炭課 東谷佳織係長にお聞きした。
【環境管理|2019年2月号|Vol.55 No.2 より】
取材・文:本紙編集部
写真・図提供:経済産業省 資源エネルギー庁
||| 目 次 ||| |
止まらない日本バッシング
エネルギーの安全保障とは -各国で異なるエネルギーのポートフォリオ
だが、化石燃料は日本にはほとんどなく、エネルギー資源の大部分は諸外国からの輸入に頼らざるを得ない。また日本は島国であるため、パイプラインや国際送電線によって他の国と連結することが難しいという地理的リスクを抱えている。ヨーロッパのような地続きの国々は、天然ガスのパイプラインや送電線を国際的に連結し、需給のバランスに応じて互いにエネルギーの売買を行うことができる。国内で必要な電力をすべて自国でまかなうだけの設備容量を持つ必要は必ずしもないのである。しかし島国の日本では、常時必要となる設備容量のすべてを国内で備える必要がある(図3)。
(『石炭という選択肢 ―安定して、長く使える」』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2018年2月号|Vol.55 No.2】
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千葉商科大学 学長 原科幸彦氏にきく
「商いの力」で社会を変える
ー「自然エネルギー100%大学」が目指す地域分散型のエネルギービジネス
千葉商科大学(千葉県市川市 )が自前の太陽光パネルだけで学内すべての電力消費量を超える発電に成功した。「 再生可能エネルギー電力 100% 」の達成は国内の大学では初で、2020 年度にはさらに「自然エネルギー 100%大学」を目指す。そこに至るまでには、学生主導による初のISO14001 の導入など同学における環境配慮行動の長年の実績があったのはもちろんのこと、「実学」を尊重する教育理念とそれを受けた学生たちの主体的な取り組みが大きな力となった。本記事では、国内外における環境アセスメントの第一人者であり、国際協力機構( JICA)等の環境社会配慮ガイドラインの策定や様々な環境関係委員会の委員長を歴任するなど、環境アセスメントの推進に尽力してきた千葉商科大学 学長 原科幸彦氏に、日本が進むべき地域分散型エネルギー社会、さらに同学が目指す地域分散型のエネルギービジネスについて語っていただいた。
【環境管理|2019年4月号|Vol.55 No.4 より】
聞き手:黒岩進(一般社団法人産業環境管理協会 専務理事)
取材・文:本紙編集部/写真・図提供:千葉商科大学・本紙編集部
||| 目 次 ||| |
日本初の「自然エネルギー100%大学」-創エネ+省エネの奮闘努力
黒岩:学生たちの教育や意識改革とセットになっているのですね。
原科:多くの事業所を持っている企業の場合、企業全体でと考えがちですが、本学は事業所単位で達成目標を立てたところがポイントです。この考えに立てば、各企業も個々の事業所単位でRE100発電を目標にすることができます。そうすれば日本全体として自然エネルギーの比率が高まり、再エネ100%社会へと進化することができます。
黒岩:その先にあるのが、「自然エネルギー100%大学」ということですね。
原科:2020年には、電力消費量だけでなく、ガスも含めたすべてのエネルギー消費量に相当する再エネ発電の達成にも挑戦します。
黒岩:日本初の「自然エネルギー100%大学」。大変すばらしい快挙ですね。
【環境管理|2019年4月号|Vol.55 No.4】
下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
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2018年12月
地球温暖化政策財団 ベニー・パイザー氏にきく
英国から考える、気候変動政策の今後
地球温暖化問題について分析・発信を続けている英国のシンクタンク「地球温暖化政策財団」( The Global Warming Policy Foundation)のベニー・パイザー(Benny Peiser)所長が来日し、一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所が主催するシンポジウムに登壇した。気候変動の科学の不確実性、その不確実性を踏まえた上で気候変動政策はどうあるべきかを考えるという二部構成で進められたシンポジウムは、わが国の気候変動対策を巡る議論の中では得難い視点と示唆を与えてくれた。
保守党、労働党双方の代表的な政治家、英国国教会やイングランド銀行から多様なボードメンバーを迎え、「地球温暖化問題について、できるだけ現実的な観点から、政府が採択する政策の評価をする」ことを続けている同シンクタンクの所長として活躍するパイザー氏に、EUおよびイギリスの温暖化政策の今後、IPCCの報告書に対する評価や台頭するESG投資について、そして日本へのアドバイスを伺った。
【環境管理|2018年12月号|Vol.54 No.12 より】
語り手:地球温暖化政策財団 所長 ベニー・パイザー氏
聞き手・構成:NPO法人 国際環境経済研究所 理事・主任研究員 竹内 純子氏
||| 目 次 ||| |
気候変動の科学と政策のあり方について
ーー昨日のシンポジウムの中で、「政策決定の際には謙虚であるべき」ということを繰り返し述べておられました。そのメッセージの背景を教えていただけますか?
パイザー:気候変動の科学においては、合意できている事実と、そうでないもの、いわば憶測が混ざり合っています。それらを見分けて、現実的に考える必要があります。私はもともと、ドイツの「緑の党」立ち上げに関わったメンバーの中の一人です。しかし、環境配慮を強く求める人の主張は、どこか終末思想的であり、誇張が多いことに気がつきました。データから読み取れることを誠実に読み取ることが科学的態度であり、読み取りたいように読むのはそうではありません。しかし、科学者は時にそうしたことをしてしまいます。私は社会科学者として、データに謙虚であろうと主張しているのです。 例えばIPCCも、自然科学分野を担当するワーキンググループ1は科学的に慎重な態度を維持していると思います。しかし、政策担当者向けの要約をつくる段階では相当政治的な調整を受けています。過去のデータについては信頼性が「ない」のではなく「劣る」のです。過去のデータを否定するつもりはなく、あくまで、読み取れる以上のことを言わないで、ということが言いたいのです。
ーーしかし「予防原則」という言葉があるように、科学で解明しきれないところがあったとしても予防的に行動しなければならないという意見もあります。この意見に対してはどう答えますか?
パイザー:どんな対策やステップもポジティブとネガティブの両面があります。予防原則もそうです。削減と適応のどちらが現実的で、コスト効果が高いかを考えなければなりません。適応は問題の根本的な解決にはならないと批判されることもありますが、新興国の経済成長を見ても、削減を目指すことが本当に現実的な解決方法かどうかは疑問でしょう。
(『EUの気候変動政策の今後」』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2018年12月号|Vol.54 No.12】
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2018年8月
産業廃棄物処理事業振興財団 専務理事にきく
循環経済先進国を目指してーー廃棄物処理法の変遷と循環型社会の未来
1990年に発覚した豊島事件は、処理費用負担への排出事業者の責任感の欠如、適正なコストを反映しない違法な処理、無許可操業の横行など、産業廃棄物処理における構造的な問題を明らかにし、その後の廃棄物処理法の抜本的な見直しへとつながった。その後、わが国では、廃棄物の適正処理、減量化、リサイクルなど、循環型社会への道を着々と歩んでいる。本記事では、廃棄物処理法の改正、各リサイクル法の制定等、循環型社会形成のための法体系の制度設計に深く関わった産業廃棄物処理事業振興財団 専務理事 由田秀人氏に、産廃業界の変遷と現状、我が国が描くべく循環型社会、循環経済の姿について語っていただいた。
【環境管理|2018年8月号|Vol.54 No.8 より】
語り手:産業廃棄物処理事業振興財団 専務理事 由田 秀人氏
聞き手:産業環境管理協会 専務理事 黒岩 進氏
||| 目 次 ||| |
平成に始まり平成に終わる豊島事件の衝撃と産廃業界
黒岩:産業廃棄物処理事業振興財団(以下、「産廃振興財団」)は昨年12月に創立25周年を迎えられました。
由田:私は厚生省と環境省時代を含めた過去25年間、なんらかの形で当財団に関わらせていただいております。その中でも、平成に始まり平成に終わる、あるいは終わらせなくてはいけない事件が豊島の不法投棄事件です。平成2(1990)年に香川県の豊島で兵庫県警が豊島総合観光開発を摘発してから、香川県を中心に香川県民、豊島住民会議、学識経験者の皆様方がこの問題に取り組まれ、当財団も産廃特措法に基づく支援を行っています。
その事件がきっかけとなって、平成3(1991)年には廃棄物処理法が20年ぶりに抜本的に改正されました。特に最終処分場等への公共関与、処理業者の育成等、廃棄物処理事業の振興のため、平成4(1992)年には産業廃棄物特定施設整備法が制定され、それを受け同年、産廃振興財団が設立されました。 当時、最終処分場等の処理施設不足の解決のため、都道府県の廃棄物処理施設の整備を図る「廃棄物処理センター」方式を導入したのですが、その支援が事業の柱の一つです。また、優良な民間の処理業者を応援していこうというのが二つ目の柱です。処理業者への債務保証事業、助成事業、振興事業を実施しています。
平成9(1997)年には、容器包装リサイクル法に続いて大幅な廃棄物処理法の改正を行うことになりました。不法投棄等に対する罰則の大幅な強化を行いましたが、不法投棄の現場に直ちに措置命令をかけ、場合によっては都道府県が代執行し、原状回復を図らなければならない。その場合に国やその他産業界からの支援が必要であろうということで、平成10(1998)年から当財団が適正処理推進センターとして指定を受けることになりました。
以上、産業廃棄物特定施設整備法に基づく指定と、廃棄物処理法に基づく適正処理推進センターの指定という二つの指定の法人として、現在に至るまで産業廃棄物処理事業の振興という役回りを果たさせてもらっています。
黒岩:その間、どのような変化を感じられましたか?
由田:公共関与というよりむしろ排出事業者責任の強化や各種リサイクル法の制定・改正によって、産業廃棄物処理業界のレベル全体が底上げされ、処理業者が非常に優良になってきたことが大きな変化だと思い ます。処理業者は家業的な経営が多く、ノウハウが継承されない問題があります。そこで次世代の経営を担う人材を育成するべく、平成16(2004)年より毎年、全国各地から経営者層を集めて産業廃棄物処理業経営塾を開催しています。先日も第15期の開講式があり、新しい塾生が48 名入りました。この経営塾にはOB会もあり、施設見学会や地域別ワークショップ、経営者による講演など、卒塾生間の期を越えたネットワークもできています。かつて豊島事件が起った頃にはとても考えられ ないような高いレベルの若手経営者が業界を引っ張っている。当財団設立から25年で一番大きく変わったのはここではないかと考えています。
(『排出事業者責任の徹底強化ーー産業廃棄物処理の「構造改革」』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2018年8月号|Vol.54 No.8】
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2018年5月
特集 DOWAエコシステムの環境経営
「鉱山」から「都市鉱山へ」
ー金属を「分ける」技術と廃棄物のリスクマネジメント
DOWAグループ発祥の地、秋田県・小坂鉱山で採掘されていた「黒鉱」は、金・銀などの有価金属を豊富に含む一方、鉛などの不純物も多く、処理が困難な鉱石だった。同社はそれを処理するために独自の製錬プロセスを開発し、国内有数の銅製錬所としての地位を確立した。この鉱山・製錬事業を通じて培った様々なインフラや技術がDOWAグループの原点となり、環境ビジネスのリーディングカンパニーに発展する礎となった。
本稿では、同グループの「循環型事業」の入り口であるリサイクル原料の調達と廃棄物のリスクマネジメントを手掛け、また国内にとどまらずアジアNo.1の環境・リサイクル企業を目指すDOWAエコシステム(株)の戦略について、同社代表取締役社長 飛田 実氏に話を聞いた。
【環境管理|2018年5月号|Vol.54 No.5 より】
(取材・文:本誌編集部/写真・図提供:DOWA エコシステム株式会社)
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「有用」な資源を取りだし、「有害」なものを無害化する技術が原点
1884(明治17)年、DOWAグループの前身である同和鉱業(株)(現DOWAホールディングス(株))は、秋田県の小坂鉱山で鉱山・製錬会社として創業した。小坂鉱山は当時日本一の銀山だったが、操業後十数年で銀鉱石が枯渇し、また金本位制により銀の価格が暴落したこと等によって経営危機に陥った。そこで新たに取り組んだのが、「黒鉱」と呼ばれる複雑硫化鉱の製錬技術開発だった。
黒鉱は、金、銀、銅、鉛、亜鉛、そのほかレアメタルなど多くの有用金属を豊富に含有しているものの、不純物も多く含んでいるために分離が難しく、製錬がきわめて困難な鉱物だった。それを当時の技術者が「黒鉱乾式製錬法(自溶製錬)」と呼ばれる独自の製錬法を開発し、国内有数の銅製錬所として歩み始めたのである。「我々は長年、『有用性』と『有害性』を併せ持つ、様々な非鉄金属元素を取り扱ってきました。その経験から、有用な資源を取り出す技術や有害物を無害化して安定的に管理する技術を確立しました。その過程で、環境影響に配慮することの重要さを深く学んできたのです」( 飛田社長、以下同)
その後もこの製錬技術は研究や改善が進められ、DOWAグループの金属リサイクル技術へと受け継がれていった。このような技術やインフラ、経験、ノウハウを活かしてDOWAグループは1970年代に廃棄物処理等の環境事業を手がけ始めた。その後、変動為替相場制への移行やオイルショック、さらには1985年のプラザ合意を契機に急激な円高が進み、国内鉱山の経営は成り立たなくなった。非鉄金属業界では国内鉱山が次々と閉山される事態になり、1990年には小坂鉱山も閉山となった。
「当時は私自身が鉱山技師だったので、採掘していた山を閉山して新たに環境・リサイクル事業に取り組め、という辞令を受けたのが忘れられません」
(『「鉱山」から「都市鉱山」へーー世界中のスクラップから金属回収』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2018年5月号|Vol.54 No.5】
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2018年4月
住友化学 にきく ―マラリア撲滅とSDGsの達成に向けてー
社会課題を解決する住友化学の環境ソリューション
「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて優れた取り組みを行っている企業・団体などを政府が表彰する第1回「ジャパンSDGsアワード」において、住友化学(株)が副本部長(外務大臣)賞を受賞した。
住友化学はミレニアム開発目標(MDGs)から継続して感染症対策に取り組んでおり、マラリア対策用の蚊帳「オリセット®ネット」事業を通じて感染症対策のみならず、雇用、教育、ジェンダーなど幅広い分野において、経済・社会・環境の統合的向上に貢献している。SDGsで掲げられている2030年までのマラリア制圧の実現、セクターを超えたパートナーシップの実現・強化を目指す住友化学の環境経営について、同社 新沼 宏専務執行役員と河本 光明レスポンシブルケア部気候変動対応担当部長に話を聞いた。
【環境管理|2018年4月号|Vol.54 No.4 より】
(聞き手:産業環境管理協会 専務理事 黒岩 進氏/写真・図:住友化学株式会社)
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女優シャロン・ストーンがマラリア撲滅を呼びかける
黒岩:まずは第1回「ジャパンSDGsアワード」(日本政府主催)外務大臣賞受賞おめでとうございます。マラリア予防の防虫蚊帳、それに環境白書でも取り上げられているサステナブルツリーなどについてもお話を伺わせていただければと思います。最初に今回の受賞理由の一つであるマラリア予防の防虫蚊帳ですが、どのようなきっかけで取り組まれることになったのでしょうか?
新沼:蚊が媒介する原虫によって感染するマラリアは先進国ではほぼ撲滅されていますが、アフリカでは貧困や財政難のために十分な対策がとれない、人類が最優先に取り組むべき感染症といわれています。マラリアの予防には蚊を防除することが有効であり、住友化学では以前から殺虫剤「スミチオン®」の提供を通じてマラリア撲滅に取り組んできましたが、1992年に工場の虫除け網戸として使われていた技術を転用して開発したのが、防虫蚊帳「オリセット®ネット」です。
当初、「オリセット®ネット」は注目されませんでしたが、殺虫効果が長期にわたり持続する防虫蚊帳を積極的に使用するよう世界保健機関(WHO)が方針を出し、2001年に推薦を受けたことによって広く普及しました。さらに2005年のダボス会議で、社長の米倉(当時)がオリセットネットの供給を拡大し、マラリア撲滅を会社として全面的に支援することを表明したときのことです。会場で話を聞いていた女優のシャロン・ストーンさんが突然立ち上がり、「マラリアを運ぶ蚊からアフリカの子どもを守るため1万ドル寄付します。これでアフリカの人に蚊帳を届けてください。私に賛同する人は今すぐに立ち上がってください!」と呼びかけたのです。その呼びかけに対し、会場にいたビジネスリーダーが次々に賛同し、その場で100万ドルの寄付が集まりました。
それがメディアで報じられ、WHOからも有効性を評価されたことにより爆発的に普及し、現在、国連児童基金(UNICEF)などの国際機関を通じて、80以上の国々に供給されています。マラリアによる死者は2000年から半減し、推計で累積620万人の命が救われたといわれています。
異分野の部門の協力の下培った技術を融合させる
黒岩:オリセットネット開発の経緯を教えてください。
新沼:当社社員で昆虫学の博士号を持つ研究者が、当時年間100万人を超える犠牲者が出るといわれたマラリアの撲滅を決心しました。アフリカでは殺虫剤浸漬蚊帳が使われていましたが、表面に塗られた殺虫剤は洗濯すると薬剤が流れ出してしまい、蚊帳を薬剤に漬けて再度染み込ませる再処理の作業が必要になります。そこで研究者は、住友化学が工場向けに開発した防虫網戸の技術に着目しました。この網戸は、糸の内部に含まれた殺虫剤が持続的に染み出すので、洗濯しても効果が薄れないものです。
そこには、殺虫剤の技術はもちろん、樹脂に薬剤を練り込む技術、樹脂をネット状に加工する技術、樹脂の配合や加工の条件と殺虫効果の関係、殺虫成分が樹脂の中で拡散する速度など、様々な技術やノウハウの積み重ねが必要でした。住友化学は総合化学メーカーとして5つの事業部門に分かれていますが、その中の樹脂部門と殺虫剤部門が協力して、2つの異分野の技術をハイブリッドすることで防虫蚊帳の開発が進んだのです。
さらに、暑いアフリカでも使えるよう、糸を細くして網目を2倍以上に広げて通気性を高めました。実は最初、日本の蚊帳のような細かい網目で開発が進んでいたのですが、中が暑くてたまらない。そこで調べたところ、蚊は羽を広げて穴を通る特性があるということが判明しました。小さな穴にしなくても、羽を広げた状態までの大きさなら蚊は入ってこれないのです。そんな昆虫学の知識も駆使して、通気性が良く防虫効果が5年以上続く蚊帳が誕生しました。
(『マーケットの開拓、現地生産、社会貢献ーーサステナブルな事業サイクルが重要』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2018年4月号|Vol.54 No.4】
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2018年3月
日刊工業新聞編集員 松木 喬 氏にきく
―「脱炭素」から「地方創生」まで 2018年度の環境ビジネスと環境経営
昨年末に開催されたCOP23では「脱石炭」を目指すイニシアチブが拍手喝采で迎えられる一方、日本は「石炭火力発電の推進国」と強調され、世界に存在感を示すことができなかった。太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの利用も立ち遅れつつあるが、反面、いち早く「CO2ゼロ」を宣言する企業や、風力発電を地方創生の起爆剤とする自治体も出てきている。本記事では、そんな環境の現場を丹念に取材、報道する日刊工業新聞の松木喬編集委員に、企業における環境問題の現状と2018年度に向けた環境経営のあり方について語っていただいた。
【環境管理|2018年3月号|Vol.54 No.3 より】(聞き手:本誌編集部/写真提供:松木 喬)
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「CO2 削減」から「CO2 ゼロ」へ── 高まる日本企業の危機感
─── まずは地球温暖化問題の現況についてお聞かせください。
松木:温暖化問題が最近大きく注目されたのは、パリ協定が採択された2015年12月です。それ以前、つまりCOP21が始まる前までは、日本の2030年目標は諸外国と比べて高いのか低いのか、CO2を何パーセント減らすべきなのかというのが論点だったのですが、COP21後は突然「CO2ゼロ」という流れになりました。現地で参加した企業の方からも「脱炭素へのうねりが凄い、止めようがない」、「危機感を持った」という話を聞きました。世界は一気に「脱炭素」へ舵を切ってしまったわけです。
─── パリ協定では5 年サイクルで各国の削減目標を強化するグローバル・ストックテイクが行われます。初回が2018 年、促進的対話(タラノア対話)で始まり、20年を待たずにパリ協定が動き出します。
松木:2016年5月に日本政府は「2050年80%削減」を宣言しましたが、実際にどのようにやるかはまだ決まっていない状況です。ところが企業はそれに先駆けて高い長期目標を次々と発表しています。リコーは昨年4月に2050年CO2ゼロ、5月には富士通、7月にはNECも同じ目標を発表しました(図1)。リコー、積水ハウス、アスクルは、将来事業で利用する電力をすべて再生可能エネルギーに転換する国際イニシアチブ「RE100」に加盟しています。
─── 電気・電子産業は再生可能エネルギーに関して積極的です。
松木:AppleやGoogleなどのIT企業の大手はほとんどがRE100に加盟しています。だから富士通やNECは同じIT企業としてCO2ゼロを目指さざるを得ないのでしょう。
─── 脱炭素にはインフラなど大変な資金が必要になると思いますが……。
松木:なぜ企業が事業の足かせになるような目標を立てるのかというと、いずれ大幅なCO2排出削減が必要となるなら、先に手を打っておこう考えたからです。
数パーセントの削減よりも、もっと大胆な削減を社内に促し、厳しい削減目標が課せられても事業を継続できるようにするためです。削減が手遅れになった競合を引き離すこともできます。また環境に対する企業ブランドのイメージを高める戦略もあります。例えば、気候変動の影響を受けやすい途上国に商品を売り込む場合、企業がすべて再生可能エネルギーを利用しているというのは大きなPRになります。それが一つの販売戦略であり、ブランドイメージを高めることが経営戦略に一致するわけです。再生可能エネルギーを100%にする、CO2をゼロにするというのは非常にわかりやすいメッセージです。利害関係者に「環境先進企業だ」と伝えることによってライバル企業との差別化が図れる。再生可能エネルギーや脱炭素は非常に戦略的なテーマなのです。
(『「日本=石炭=環境後進国」化石燃料批判と環境金融の動き』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2018年3月号|Vol.54 No.3】
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2018年2月
英国再生可能エネルギー財団 ジョン・コンスタブル氏 にきく
―イギリスのエネルギー政策と再生可能エネルギー問題
2004 年に英国で「Renewable Energy Foundation(以下、REF)」を設立し、精力的に再生可能エネルギーに関するデータ提供や政策提言を行っているジョン・コンスタブル氏が昨年末、キヤノングローバル戦略研究所のセミナーに登壇するため来日した。筆者も同セミナーにディスカッサントとして参加することとなり、それを機にインタビューをさせていただいた。
REF設立のきっかけは、ご自身のお母様の家の近くで風力発電の建設計画が持ち上がったことにあったという。それほど風が強いところでもなく、風力発電に適しているとは思い難いのに、なぜ建設計画が持ち上がったのかと疑問に思い調べていくと、過剰な補助制度が原因であると気づいたという。そんな政策のツケを背負うのは子供たちであると強い危機感を抱くに至り、企業からの寄付は受けず民間の寄付だけで活動するREFを立ち上げた。今回、再生可能エネルギー普及における政府の役割、英国の温暖化政策の見通し、日本へのアドバイスについてお話を伺った。
【環境管理|2018年2月号|Vol.54 No.2 より】
(聞き手・構成:竹内 純子(NPO法人 国際環境経済研究所 理事/主席研究員))
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再生可能エネルギー普及における政府の役割
─── 再生可能エネルギーの普及において、政府はあまり介入すべきではないと主張している。では政府の果たすべき役割は何か?
コンスタブル:英国政府は2002年にRenewables Obligation(RO)、2010年にFeed-in Tariff(FIT)、2015 年にCfD(Contract for Difference)を導入し、再生可能エネルギーの普及を支援してきた。しかし、その政策は非効率であり、再生可能エネルギーを支援するためのコストが高くついている。REFで計算した2002年から2016年までに再生可能エネルギーに対する補助金は総額231億5,600万ポンド(約3.5兆円)にもなる。
その上、再生可能エネルギーに対して補助を行った結果、その歪みで天然ガス火力や原子力にも補助しなければならなくなってしまった。自由化された市場でありながら補助金の世界に戻ってしまった。シンプルにいうと“ too may unintended burden(あまりにも多くの予期しない負担)”をもたらしてしまった。
エネルギー供給の柱となるには、経済性で勝るようにならなければならない。政府は技術開発等において長期的な支援をすることが求められる。
─── しかし再エネのコストは世界全体では低下しており、英国でも特に風力発電のコストが顕著に低下していると報じられているが?
コンスタブル:確かに再エネのコスト低下に関する報道は多く、風力発電の設備コストは年間3~4%程度低下している。しかし、今後大きく拡大すると期待される洋上風力は、沖の深い海に出ていかざるを得ない。コスト全体を考えると、今後も下落するとは期待しづらい。また、コストが低下しているというのも「トリック」がある。いま入札が行われているプロジェクトの多くは、実際に設備を建設するのが2020年頃の予定だ。その頃には温暖化対策の観点から炭素価格(カーボンプライシング)が課せられるなど火力発電のコストが上がっていると期待してプロジェクトに応札した事業者が多い。その頃に卸電力市場での価格が安ければ、彼等は事業を実施しないだろう。ペナルティがほとんどないに等しいので、「ギャンブルに参加する権利」を確保しているだけに過ぎない場合も多くある。
しかも再エネの導入量が増えれば、バランシングコスト、ネットワークコストが必要だ。それらは正確に算出することが難しいので、これまで十分に議論されてこなかったことに留意が必要だ。
英国における低炭素化
─── メイ政権の温暖化政策について聞きたい。メイ政権が発足直後にエネルギー気候変動省(DECC)を廃止し(補記:メイ首相は2016年7月14日、エネルギー気候変動省を廃止し、ビジネス・エネルギー・産業戦略省に吸収すると発表)、また、彼女の就任演説でも環境対策についてはほとんど言及がなかったことに驚いた。もともと英国人は気候変動問題に対して欧州の中では関心が低い方にあるという調査結果もあるが、現状英国人の気候変動問題に対する「熱意」はどのようなものか?
コンスタブル:現在、ブリグジット(英国のEU離脱)以上に困難で、かつ国民の関心を集めている課題はない。それ以外には目が行かないのが実態だ。特に、EU離脱後の英国の産業界の競争力をどう確保するのかが課題だ。そのため、話題になっているのは、温暖化ではなくエネルギーコストの上昇である。今年の総選挙でもエネルギーコストの負担が増大していることが大きな争点となった。家庭部門のエネルギー料金に上限価格規制
(プライス・キャップ)が導入される見込みである*3。再エネへの補助も含めてエネルギーコストの総額をコントロールするということである。
─── では、英国における再エネ普及政策の見通しは?
コンスタブル:見通しというより、今既に出ている方針がある。英国財務省が先々週(2017年11月23日)にオータム・バジェットを発表した。再生可能エネルギーや原子力のために英国の消費者や企業が負担するコストが年間90億ポンド(約1.47兆円)に拡大するという見通し*4が示され、財務省は再生可能エネルギーへの新たな補助は凍結するとした*5。2025年まではCfDによる新たな契約はないという状態が続く。あまりに消費者のコスト負担が膨らみ、クリーン電力への補助に対して世論の支持が得られなくなっている。
─── フランスに続き、2040 年までにガソリン車とディーゼル車の販売を全面禁止し電気自動車( EV)導入を進めると発表したことにはどのような背景があるのか?
コンスタブル:2040年は遠い未来だ。現在の問題ではないので国民のコンセンサスが得られやすい。また、大気汚染の問題は日本よりは深刻なので、それを改善することには誰もノーとはいわない。私は今日東京に来て、ロンドンと比べて空気が非常にきれいであると実感した。さらに、フォルクスワーゲンに端を発したディーゼルの不正問題も大きく影響していると考えている。
─── とはいえ、COP23では英国とカナダが主導して「Powering Past Coal Alliance」を設立し、日本でも話題になった。確かに英国においてここ数年石炭火力は急激に減少しているが、このアライアンス設立の背景は?
コンスタブル:非常に安く済む政治的パフォーマンスだ。さきほど指摘された通り、ここ数年で石炭火力は急激に減少したため、英国にとって痛みはない。痛みがないからできることだ。それより重要なのは、なぜ2012年から13年頃にかけて石炭火力の稼働が急増したかだ。これは、排出規制を満たさない石炭火力が、できるうちに発電しようとした「駆け込み発電」による排出であり、規制は時にこうした皮肉な事態を引き起こすものだ。
─── COP23にも参加してきたが、パリ協定は成立したものの、国際枠組みの難しさは変わっていない。しかし一方で、金融や投資家が低炭素化を求める動きが強まっている。イングランド銀行などは非常に積極的な発信を行っているが、その背景は?
コンスタブル:金融・投資の関係者はシグナルを出す役割を担っている。気付きを与える役割はあるが、リアルの世界にいるわけではないというのが私の理解だ。私自身は、確実な自然保護に出す資金は惜しまないが、温暖化はまだ不確実性が高い。
─── パリ協定の特色として、産業革命前からの温度上昇を2℃未満に抑制するという目標が合意された。これを達成するために再エネに大きな期待が寄せられているが?
コンスタブル:温暖化対策というのは温暖化の悪影響に対しての保険のようなものだと考えている。保険であるならば三つの要件を満たさなければならないだろう。まず、きちんと対象リスクをカバーしているということ、保険料が妥当な範囲であること、リスクとマッチした保険料ということだ。2℃の目標は保険料とリスクが見合っていないし、リスクをすべてカバーできてもいない。2℃を心配するより、クリーンテクノロジーのコストを下げることに努力しなければならない。安ければ自発的にみんなが使うようになるから問題は解決するはずだ。
*1 http://www.canon-igs.org/event/report/20171207_program.pdf *2 http://www.ref.org.uk/ref-blog/340-the-total-cost-ofsubsidies-to-renewable-electricity-in-the-united-kingdom-20022016 *3 関連報道 2017年10月5日Bloomberg “TheresaMay’sU.K. Energy Price Cap Signals Wafer Thin Margins” https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-10-04/theresa-may-s-u-k-energy-price-cap-signals-wafer-thinmargins 2017年4月23日FT “Conservatives promise to cap prices in UK energy market” https://www.ft.com/content/d6f949e2-280b-11e7-bc4b-5528796fe35c *4 Control for Low Carbon Levies https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/660986/Control_for_Low_Carbon_Levies_web.pdf *5 関連報道 2017年11月22日Guardian “No subsidies for green power projects before 2025,says UK Treasury” https://www.theguardian.com/environment/2017/nov/22/no-subsidies-for-green-power-projects-before-2025-says-uk-treasury |
(『日本へのアドバイス』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2018年2月号|Vol.54 No.2】
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2018年1月
新春特別:慶応義塾大学経済学部教授 細田衛士氏にきく
―資源循環経済システムと社会変革
日本の廃棄物・リサイクル政策は一定の成果を上げたが、資源循環利用という点ではまだまだやるべき課題が残されている。EUでは資源効率(RE)や循環経済(CE)が新しい政策・概念として打ち出されており、「経済と環境のWin-Win」を目指して動き始めている。
本記事では、日本における環境経済学の発展に尽力してこられただけでなく、3R活動推進フォーラム、リデュース・リユース・リサイクル推進協議会の会長等でご活躍されている慶應義塾大学 教授 細田衛士氏に、循環型社会実現に向けての現状と課題、それを解決するための環境経済学の展開と最近の動きについて語っていただいた。【環境管理|2018年1月号|Vol.54 No.1 より】
(写真 左:聞き手 黒岩 進(一般社団法人 産業環境管理協会 専務理事)) 右:慶應義塾大学 教授 細田 衛士氏)
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廃棄物問題はクリアしつつある中様々な課題が残る資源循環システム
黒岩:本日はご多忙の中ありがとうございます。先生は現在、3R 活動推進フォーラムとリデュース・リユース・リサイクル推進協議会の両方の会長を兼ねておられ、「日本の3R政策の現状と見解」についてもご執筆なさっています。最初に現状の3R政策についてお聞かせください。
細田:日本の3R政策は、廃棄物・ごみ問題にどう対処するかという意味でかなりうまくやってきたといえます。我々が最初に悩んだものの一つに最終処分場がなくなってくるという問題がありました。20 年程前には、処分場の残余年数*1が3 ~ 4 年という数字も出て、実際に市町村で最終処分場を確保するのが非常に難しくなってきた。一方で、容器包装類や廃プラスチックの課題、それが終わるとまた次の課題と、処理費用も上がる中で廃棄物・ごみ問題をどう解決するかが市町村を悩ませてきました。
産業廃棄物の場合は、豊島事件や青森・岩手県境不法投棄事件などの事件が後を絶たず、廃棄物・ごみをいかに適正処理するかが課題となりました。昭和40年代後半から「分ければ資源、混ぜればごみ」といわれ出して、ごみの資源化、資源ごみという概念も出てきました。そして市民の理解や行政の努力もあり、分別収集してリサイクルする動きが加速し、それが法制化されました。その結果、リサイクルはずいぶん進みました。
最終処分場不足の問題は、一廃、産廃ともに埋める量が少なくなってきたことで相対的に残余年数が増えてくる現象が起きて、不法投棄や最終処分場の告発問題もかなり回避できました。現在では一廃、産廃とも十数年分の残余容量があります。日本が一廃については焼却主義で、8 割程度を燃やしていることも処分場不足の解消に役立ちました。焼却はごみの容量・重量を同時に減らす重要な役割があります。
個別リサイクル法も整備されてきてリサイクルも進みましたが、課題はいくつかあります。例えばリサイクル率についてですが、一廃が21%、産廃が50%強で頭打ちになっています。増えていた最終処分場の残余年数も頭打ちになっており、いまは消費者をはじめとする関係各主体の認識も含めて少し停滞しているという気がします。
黒岩:「循環型社会形成推進基本計画」の目標でいえば、最終処分量と循環利用率、特に最終処分量の達成率は高いですが、資源生産性*2の達成率はかなり低い(図1 )。
細田:最終処分量は平成12 年度から平成26年度までに約74%を削減でき既に目標を達成しています。一方、資源生産性については、平成22年度以降は横ばいとなっています。資源生産性はGDPを天然資源等投入量で除し、産業や人々の生活がいかに物を有効に使っているかを表す指標ですが、目標をクリアするには相当のことをやらないと厳しいと思います。最近は廃棄物処理法、バーゼル条約関連の国内法を改正した上、中国では2013 年頃から通関検査を厳格化するグリーンフェンス政策を実施して廃棄物の輸入を本気で削ってきています。つまりは、我が国は廃棄物問題はかなりクリアしたが、その先の資源循環には様々な課題が残っているということです。
*1 残余年数:現存する最終処分場( 埋立処分場)が満杯になるまでの残り期間の推計値。
*2 資源生産性=GDP/天然資源等投入量。天然資源等投入量とは国産・輸入天然資源及び輸入製品の合計量を指し、一定量当たりの天然資源等投入量から生じる国内総生産( GDP )を算出することによって、産業や人々の生活がいかに物を有効に使っているか(より少ない資源でどれだけ大きな豊かさを生み出しているか)を総合的に表す指標。 |
経済と環境のWin‐Winを実現するための「見せ方」とは
細田:食品容器トレーメーカーの(株)エフピコは最近、使用済みPETが余剰になるのを見越し、トレーをPETからつくる工場を建設しました。回収した使用済みのトレーやPETボトルを原料に戻して、再度、食品用トレーを製造しています。こういった循環的な資源利用が順調な流れに乗ればいいのですが、他の製造メーカーでは循環的な資源利用への関心がまだまだ薄いという気はします。
黒岩:EUでは循環型経済の実現に向けた枠組みを構築する「サーキュラー・エコノミー( CE:CircularEconomy、循環経済)・パッケージ」が2015 年に採択されました。現在、ディスプレイの環境配慮設計の基準について案が出てくるなど着実に進行しつつあるようですが、日本産業としてどう捉えていくべきでしょうか?
細田:EUは政策概念を設定するのが非常に上手です。現実に資源循環を通じて経済成長や雇用拡大が生まれるのかどうか、根拠や過程の具体性に欠ける概念ではありますが、新しい経済社会をつくり上げるためには必要なことです。求める方向は「経済と環境のWin‐Win」であり、CEでは、「2030 年までに一般廃棄物のリサイクル率65%を達成」、「2030 年までに容器包装ごみのリサイクル率75%を達成」、「2030 年までに廃棄物の埋立処分率を最大10%にまで削減」という目標を設定しました。そこで大事なのは、シェアリングやリース、レンタル、さらにプロダクトサービスなど、「モノ」ではなく「サービス」に重点が置かれているところです。そこから付加価値をつくり出し、それが資源循環へとつながったらどうなるかという「見せ方」なのです。そんな、人に見せるパッケージとしてのおもしろさがなかなか日本では真似できません。このパッケージによって廃棄物処理も変わり、エコデザインの事例は非常にしっかりしたものになった。そうなるとEU 各国はそれに従って動かざるを得なくなり、Win‐Winの方向に行く可能性はあると思います。
SDGsの目標17項目をみて常々思うのは、みんな当たり前のことだということです。「貧困をなくす」、「ジェンダーの不平等をなくす」、「資源を有効利用する」などいろいろありますが、要はどれも当たり前のことができていないということです。「できていないこと」は国により異なり、それぞれの対応項目や強弱が違ってきます。日本でも格差社会問題やジェンダー問題に取り組まなければならない。しかし「資源の有効利用」については、適正な廃棄物処理はできているが、資源循環にはまだ課題が残る。だからそれを同時にやる必要があるのではないかと思います。さらに資源循環をもとにして、経済の活性化や様々な人たちの共同参画などが同時に実現できるようなしくみづくりが重要です。その旗振りとしてSDGsは非常に重要ではないかと思います。
(『オリンピック・パラリンピックで資源循環利用を世界にアピール』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2018年1月号|Vol.54 No.1】
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2017年4月
リコーの環境経営「再利用」から「再生」へ
―新ビジネスの創出を目指すリコーの環境戦略 (2017年4月)
株式会社リコーは2016年4月、環境関連事業を創出する拠点として静岡県御殿場市に「リコー環境事業開発センター」を開所した。同センターは従来のリユース・リサイクル製品など環境配慮製品の提供にとどまらない、さらに広い分野における「環境事業の創出」を目指すもので、「リユース・リサイクル機能」、「新規環境事業の実証実験の場」、「環境活動に関する情報発信基地」の三つの機能を併せ持つ。同社はグループ全体の環境事業において、2020 年度に1,000 億円規模の売上を目指している。
今回、本センターを取材するとともに、同社が長年培ってきたOA機器の再生・再資源化技術の開発とこれからの環境経営のビジョンについて、当センターの出口 裕一所長、リコーインダストリー株式会社リユース・リサイクル事業部RR技術室の伊藤 明室長に聞いた。【環境管理|2017年4月号|Vol.53 No.4 より】
||| 目 次 ||| |
「環境保全」はビジネスチャンス──利益の創出を実現する環境事業
「リコーの目指す『環境経営』は、一般的な意味での環境経営と少し異なっています」─ 出口 裕一所長は語る。
「当社は『環境保全』と『利益の創出』を同時に実現することを目標としています。環境保全のためだからといって利益を犠牲にすると事業は長続きしない。環境保全活動は必ず利益に結びつくという信念が我々にはあります」
「リコー環境事業開発センター」では、総勢800 人のスタッフによって環境事業が進められている。年間2万台の複合機や回収部品を再生する「リユース・リサイクル事業」、産学連携で環境技術のオープンイノベーションを目指す「実証実験の場」、さらにそれらの活動を一般にアピールしていく「情報発信基地」の3 事業である。
これらの事業の舞台となるのが、生産体制の見直しのため2013 年3 月より閉鎖されていた御殿場工場(複写機のマザー工場)である。創立80 周年記念事業の一環として丸2 年間眠っていた旧工場を約30億円を投資して再生し、「リコー環境事業開発センター」として蘇らせたのである。全国12 か所に立地していたOA機器のリユース・リサイクル機能を3 拠点に統合し、本センターがその基幹拠点となる。分散していた再生技術や物流ノウハウを統合し、より効率化させて最適化を図っている。「新たな環境事業の創出に向けて各地に分散していた機能、技術を統合するとともに、各研究所、事業所で行っていた環境に関連する研究をすべて棚卸してセンターに持ってきました。どれも実験室レベルだったものを、当面10 テーマについて自治体、企業、大学と共同で研究・開発して新事業の創出を目指し、2020 年度に環境事業の年間売上1,000 億円を目標に掲げています。環境活動はあくまで『コスト』ではなくビジネスチャンスなのです)」(出口所長)。
こうしてリコーの環境経営は新しいステージに入ったのである。
リコーが成功させた新たな製造モデル「リマニュファクチャリング」
リコーのビジネスモデルの背景には「日本の加工貿易の変貌」がある。日本の輸入品目のトップは原油やLNGなどのエネルギーだが、過去30 年で着実に増加しているのが、電子部品を含む電気機器や衣類など完成品である。輸入電気・電子機器は2015 年には輸出額とほぼ拮抗している。製品ブランドは日本でも、家電製品やその部品の大半は海外製である。これらの輸入品は使用後に大量の廃棄物となって日本国内で排出される。しかし製造プラントは海外所在なので、同種製品へのリサイクルは一般的に難しい。輸入製品の増加は大きな国内問題といえる。
こういった課題を打開する一つの画期的ソリューションがリコーの持つ再生技術である。中国やタイなどリコー海外工場から日本に輸入された製品で使用済み製品となった機器や部品を、本センターでは再使用している。これは単なる廃棄物のリユース・リサイクルではなく、欧米で進んでいるいわば「リマニュファクチャリング」*1という新たな製造モデルであり、産業界でも大きく注目されている。
*1 リマニュファクチャリングとは、使用済み製品を新品同様に再生(manufacture into a new product)するプロセスで、元製品のパフォーマンス仕様を完全に満たす製品再生・再使用またはパーツ交換等により製品を再組立して機能と品質を元の製品並み、もしくは、それ以上に戻すことである。再生された製品やパーツは厳格な検査を受け独自のメーカー保証とアフターサービスも提供される。型式こそ旧モデルながら新製品と基本的に同じレベルの製品が市場へ再供給される。
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その製造モデルの基本となるのが、リコーが1994 年に提唱した「コメットサークルTM 」である(図1 )。持続可能な社会実現のコンセプトとして制定されたもので、製品メーカー・販売者としての領域だけでなく、その上流と下流を含めた製品のライフサイクル全体で環境負荷を減らしていく考え方である。
図のそれぞれのループ(球体)は製品のライフサイクルにかかわる各業者であり、右上の「原材料供給者」によって自然環境から取り出された「新規資源」が上のルートを右から左に流れるあいだに「製品」となってユーザーに届けられる。そして使用済みの製品は下のルートをたどって左から右へと流れる。
ライフサイクル全体で環境負荷を減らすには、
①全ステージで環境負荷を把握し総量を削減すること
②使用済み製品を経済価値の高い状態に戻すため、内側のループ(製品・部品のリユース)を優先させること、
③リサイクルを可能な限り繰り返し「重層的」に行うことにより、新たな資源の投入や廃棄物の発生を抑制すること、
④リサイクル対応設計を高度化させ、繰り返し部品を使えるようにし、通常の生産・販売と同様に「お金が物と逆方向」に流れるようにし、経済合理性を確保することが重要となる。
そしてそれを支えるのが、⑤すべてのステージとのパートナーシップと情報の共有である。
このループにより、回収した複写機等は「製品リユース」、「部品リユース」、「マテリアルリサイクル」、「ケミカル/サーマルリサイクル」等、徹底的な再利用により、2014 年には単純焼却、埋立による最終処分量が0.28%、複写機本体で99.72%の再資源化率を達成した(図1 )。
(『重要な回収機の初期選別にはIoT 情報をフル活用』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2017年4月号|Vol.53 No.4】
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2017年1月
新春特別:日本政策投資銀行 竹ケ原啓介氏にきく
―ESG投資と企業の環境戦略 (2017年1月)
企業にコミットし成長の果実を分け合う長期投資の観点から、欧米ではESG投資がトレンドとなっている。その状況から日本は大きく立ち遅れていたが、2014年、金融庁によって「スチュワードシップ・コード」が導入されたことをきっかけに、日本の機関投資家が一斉にESG投資を標榜しはじめた。今後、日本の企業評価には「非財務的価値」が大きく関与するようになったといえる。本記事では、日本政策投資銀行のCSR分野を引っ張ってきた産業調査部長の竹ケ原啓介氏に、環境金融分野におけるESG投資のこれからを語っていただいた。〔聞き手:黒岩(当協会 専務理事)〕【環境管理|2017年1月号|Vol.53 No.1 より】
||| 目 次 |||
- 環境がビジネスになることをドイツで体感する
- 環境経営を評価して投資対象にする発想に触れる
- 個人の意識に依存せずにゴミを分別させるシステム
- 金融市場は使い方次第で大きな武器になる
- 成長の果実を分け合うための長期投資の重要性と責任投資原則
- 世界最大の機関投資家の参加により日本に浸透したESG投資
- 出遅れた日本の強みとなる事業継続マネジメント
- 「公害防止」から「環境経営」へ金融側の投資スタンスの変遷
‐ 環境政策をサポートする「DBJ環境格付」プログラム
‐ 設備投資動向から企業の非財務情報をみる
- 環境イノベーションを創出する金融機関の役割と責任
※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。)
環境がビジネスになることをドイツで体感する
黒岩:金融と環境、金融とESG 投資*1などの分野で、日本政策投資銀行はパイオニアとしての役割を果たしてこられました。竹ケ原部長はそれらをリードする役割を果たされてきたわけですが、今回はそのご経験と知見を、弊誌の読者や当協会会員に向けていろいろとお話しいただきたいと思います。最初に、金融の多彩な側面について取り組まれた原点として、2度にわたって長期滞在されたドイツでのご経験があるとお聞きしています。
竹ケ原:ドイツには2回行かせていただきました。最初は1990 年代のマルクの時代、95 年から97 年でした。2回目はユーロの時代の2005年から2008年頃でした。初回は金融と環境の接点というより、環境自体がビジネスになることを学ぶきっかけになりました。企業を訪問する中で、「日本市場がすごく有望でおもしろい」といってくれたセクターがいくつかあり、その中の一つが環境分野でした。
黒岩:ドイツの環境分野というと、リサイクルが有名ですね。
竹ケ原:そうです。最初に駐在した頃のドイツでは、いわゆる拡大生産者責任の走りとして容器包装リサイクル法が導入され、有名なDSD(デュアル・システム・ドイチュラント)社という専門会社もできました。DSD社を拠点としてリサイクルの新しい仕組みが続々とできはじめた時代でした。
黒岩:土壌地下水汚染もドイツでは比較的早くから取り組んでいましたね。
竹ケ原:当時、土壌汚染対策法こそまだなかったのですが、汚染跡地(アルトラステン)の浄化自体は既にビジネスになっていました。また、ドイツは河川など表流水ではなく地下水を水源とすることが多いため、地下水のモニタリングも各地でしっかりと行われていました。日本はまだダイオキシン騒動が起きる前でしたが、彼らからみれば、先進国として成熟社会に入ってきてこれから環境が大きく伸びてくるフェーズにあり、しかも民度も所得も高く、技術もある国だということで、これから日本マーケットは大きく伸びるという認識だったそうです。そのためかドイツ企業も親切で、いろいろプラントやサイトなどを見学させてもらうことができ、「環境がビジネスになるんだな」と実感できたことが鮮烈な原体験でした。
*1 ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業やプロジェクトを評価・選別して行う投資をいう。
環境経営を評価して投資対象にする発想に触れる
竹ケ原:最初の駐在から帰国したあと、「これから環境が投融資の一つの重点分野になりそうだから」という問題意識から産業調査に取り組んでみました。これがきっかけになり、日本国内の様々な環境セクターとの関係もできたところで二度目のドイツ赴任になります。このときは銀行自体も新しい投資・融資、ファイナンスの可能性を探るソーシングに力点を置いていました。そこで、昔とった杵柄で環境分野はどうだろうという思い調べたところ、環境ビジネスはすでにしっかり定着しており、とりたてて「環境セクターだから」という特別扱いではなかったのです。むしろ環境という切り口では、個別企業の経営を環境という側面から評価して投資対象としての妥当性を判断しようとする動きが活発になっていたのが印象的でした。いまでいう非財務的価値に着目した企業評価という発想に触れたのがこのタイミングです。 いま世界的にも影響力を持っているESGレーティングとの接点が生じたわけですが、これも最初の駐在時代の知識や問題意識が役立って次につながったのではないか、若干強引ですが、そういう展開かなという感じがします。
黒岩:ドイツにおける環境分野の取り組みは、市民レベルでも環境意識が高かったり、あるいは過去の炭鉱跡地問題といった環境問題で苦労した歴史があるので、日本と比べると当時はかなり違ったことを感じられたのでは な い でしょうか。
竹ケ原:生活者の目線でいえば、個々人の平均的な環境意識は日本のほうがはるかに高いと思います。特に何ら罰則も、あるいは誰もみていなくても日本人は「これは燃えるゴミ、燃えないゴミ」と一生懸命悩んだりしますよね。一般的なドイツ人はそういうことに悩みません。ドイツには外国人も多く、必ずしもドイツのルールや制度を熟知している人ばかりではないわけです。にもかかわらず社会システムが全体としてうまく回っていることには結構感動しました。生活してみてわかったのは、ルールを守ることに経済合理性を見いだせるような仕組みが構築されていることです。
個人の意識に依存せずにゴミを分別させるシステム
竹ケ原:例えば、ゴミの分別などが典型です。通常、家庭ゴミは自治体指定のゴミ箱に入れて廃棄しますが、使用するゴミ箱の容量によって料金が決まっています。いわゆる従量制のゴミ処理手数料を払っているわけで、ゴミはそこに入れるしかない。ところがパッケージ、生ゴミ、庭木の剪定枝、紙ゴミなどはそれぞれ個別のリサイクルルートができあがっているので、それ専用の回収ボックスが別途割り当てられています。ちゃんと分別して出せば、リサイクル分にコストはかかりません。すると、自治体のゴミ箱に入れる量が減り、使用するゴミ箱も小さくて済むからコスト負担が小さくなる。これが経済的なインセンティブになって、市民が一生懸命ゴミを分別します。個々人の意識に依存しないシステムのつくり方のうまさを感じました。
裏返せば、これは家庭が費用削減のためにやっているという話です。従って、このインセンティブが効かない駅など公共の場のゴミ箱をみると、これが同じ国かと思うくらい分別されずに廃棄されていたりする。一方、日本では、家庭も公共の場でも分別廃棄に大差はないですよね。長く現地で生活してみると、見ると聞くとではちょっと違うなみたいなところは随分感じました。
黒岩:環境金融の中で、環境リスクなど従来は財務情報の中になかったような要素を採り入れて企業の価値を見極める側面や、あるいは環境、ESGなど、社会として望ましい分野に資金を振り分けたり、企業の活動をESG配慮型に誘導するというような側面を現地で目の当たりにしたということですね。
竹ケ原:その通りです。非財務的な価値に着目した投資活動である「SRI(社会的責任投資)」の系譜を整理した資料を読みますと、いくつかの年代に区分することができるそうです。ごく初期のSRIはキリスト教の倫理観に基づいた、「罪あるモノには投資せず」といった宗教色の強いものでした。これを第1 世代とすると、第2 世代は、70 年代のアメリカを中心とする、アパルトヘイト反対のような社会運動の性格の強いものだったようです。これに次ぐ第3 世代が、1990 年代からヨーロッパで主流となった、現在に連なるSRIです。ここでは、企業の成長と非財務的な取り組みを同期させて「環境に配慮している会社はより強い会社だ」とか、「社会性に配慮している会社はリスクが低い」といったプラス面に注目してみていく流れが強くなっています。私が欧州に駐在していたのは、まさにこの第3 世代のSRIが定着・拡大していく時期にあたります。
(『金融市場は使い方次第で大きな武器になる』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2017年1月号|Vol.53 No.1】
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2016年5月
使った水を自然にかえす
―コカコーラ システムの水資源戦略 (2016年5月)
ザ コカ·コーラ カンパニーは世界200以上の国でビジネスを展開しているグローバル企業だが、もっとも大切にしているのは実は「ローカル性」である。水という重要な資源を使い続けるためには、「地域環境」や「地域社会」を徹底的に守り抜かなければならないということは世界共通の認識であり、それが「2020年までに持続可能な水資源管理のグローバルリーダーになる」という目標につながっている。 「水使用量の削減(Reduce)」、「 使 っ た 水 を 自 然 に 還 す(Recycle)」、「 水源を守り水資源を補充する(Replenish)」の三つの要素からなる「ウォーター・ニュートラリティー」のコンセプトと活動について、日本コカ·コーラ(株)と北海道コカ·コーラボトリング(株)を取材し話を聞いた【環境管理|2016年5月号|Vol.52 No.5 より】
||| 目 次 |||
- 200か国以上で1日19億杯以上も飲まれているコカ·コーラ社製品
- 水を重要視している世界の「コカ·コーラ システム」
- 日本の製品ラインアップと製造時の水使用状況
- 工場の水源を綿密に調査水資源保護活動を展開する
- 北海道コカ·コーラボトリングの取り組み
- 水源は白旗山 - 電子ビーム(EB)による滅菌
- ラグーン方式(低負荷活性汚泥法) - 工場排水の浄化目標
- 水の再利用の工夫 - ゼロエミッション工場の維持
- 水源涵養と環境啓発活動 - 全社における環境モチベーション
※太字部のみWEB掲載(全編は本ページ下部より、PDFファイルをダウンロードのうえご覧ください。)
200か国以上で1日19億杯以上も飲まれているコカ·コーラ社製品
米国ジョージア州アトランタに本社を構えるザ コカ·コーラ カンパニー。名画「風と共に去りぬ」の舞台を彷彿させる南部の街で「コカ·コーラ」は誕生した。この130年前の話をアトランタで聞いた。薬剤師のペンバートン博士はカラメル色のシロップを調合し、それをジェイコブス・ファーマシー(薬局)に持ち込んだ(図1)。このシロップを炭酸水に混ぜたところ、試飲した人は皆「特別な味だ」と絶賛。これが1886 年の「コカ·コーラ」の誕生だった。当時「おいしく、爽やか」というキャッチフレーズや独特な筆記体ロゴも生まれた。
「コカ·コーラ」の登場以来、清涼飲料ビジネスを世界に広げてきたザ コカ·コーラ カンパニーにとって、水は製品づくりに欠かせない最も重要な原料である。事業を展開する各国で環境取り組みの最優先事項として水資源保護に取り組んでいる。2020 年の全世界ビジョンでは、カーボンニュートラルと同じような発想でウォーターニュートラルというコンセプトを掲げている。「2020 年までに製品製造に使用した量と同等量の水を自然に還元する」という目標「ウォーター・ニュートラリティー(WaterNeutrality)」に各国で取り組んでいる。
そこで日本のコカ·コーラ システムの水資源の取り組みについて取材した。水資源管理と工場の工程水管理に関して現場の情報を依頼すると、北海道コカ·コーラボトリング株式会社の取材が可能になった。さっそくザコカ·コーラ カンパニーの現地法人である日本コカ·コーラ株式会社で取材をし、翌日には札幌へ飛んだ。
水を重要視している世界の「コカ·コーラ システム」
ザ コカ·コーラ カンパニーというとアメリカの大企業で世界トップクラスのグローバル企業というイメージがある。一方でコカ·コーラ事業はフランチャイズ契約がベースにあり、国内ビジネスは国内企業によって実施されている。中国、タイ、インドネシアなど各国にもそれぞれ別法人の会社がある。
柴田充技術・サプライチェーン本部部長によると、日本コカ·コーラ(株)は主にコアビジネスに特化しており、「原液の製造、製品の企画や宣伝、ブランド活動、そして環境に関するガバナンスなどに取り組んでいる」(柴田部長)という。滋賀県の原液工場以外に、北海道から沖縄まで各地で事業を展開するボトリング会社の製造部門として21 のボトリング工場がある。製品開発から製造、販売までを日本コカ·コーラと全国のボトリング会社で行うことから、「総称して『コカ·コーラ システム』と呼んでいる」。つまり、日本コカ·コーラと国内6のボトリング会社などで構成される企業体の総称がコカ·コーラシステムなのである。
世界200以上の国で事業展開するコカ·コーラ システムの製品製造では、水を非常に重要視している。飲料という形態で水を全世界で提供するとともに、製造プロセスにおける水使用もある。2014 年の世界実績では、製品1L製造につき2.03L(製品としての1L分を含む。以下同様)の水を製造段階で消費し1,267 億Lもの工場廃水を浄化して河川など自然環境に戻している。10年前の2004年には1L製造につき2.7Lの水を消費していたのでかなりの改善が達成されている。
コカ·コーラシステムによる廃水の水処理技術は、法令や協定などで要請されない場合であっても、水生生物に影響が生じないレベルの浄化を徹底している。つまり使用した水は自然環境や地域社会にきれいに浄化してきちんとお返しするという態度である。
日本の製品ラインアップと製造時の水使用状況
コカ·コーラ システムの国内水使用量は、2009年の6.24Lから2014年の4.15Lと改善している。しかし全世界総計では2004 年には1Lの飲料製造につき2.7Lの水を消費し、2014 年には2.03Lまで削減している。世界と日本の違いは製品ラインアップにあるという。そもそも炭酸には殺菌機能があり滅菌は比較的容易である。炭酸の効果で菌が発生しにくく、菌の制御も比較的簡単である。
海外では製品のほとんどが炭酸飲料のビジネスであり、製造ラインは単一製品専属で製品ごとに洗浄する必要はない。日本は同一ラインで複数の製品を製造するので、その都度、殺菌と洗浄をする必要がある。また、牛乳などアレルゲン物質は完全に除去する必要があることから、日本では多品種にわたる製品ラインアップのため、製造工程においてより多くの水を必要とする。
工場の水源を綿密に調査水資源保護活動を展開する
また、各ボトリング工場の水源は綿密に調査され、水質、水量、土地利用状況等を把握している。例えば西日本をカバーしている鳥取県の大山工場では、利用する水がどこからきているか、大山の地質構造、井戸の位置、水質状況、上流で汚染がないか、下流で井戸枯れが起きないかなどを調査し、それらの情報をもとに水源涵養を行っている。
コカ·コーラ システムの水源涵養活動は、①工場の水源域を科学的に特定、②地域と協働して取り組む(地域に必ずパートナーがいる)、③地域のニーズに即した活動を展開する、という三つの特徴があり、全国のほぼすべての工場の水源域を中心に植林や間伐作業などの保全活動を展開している。
「日本の場合は水田も重要な地下水涵養の役割を果たしています。熊本市では1990 年代に阿蘇方面からの地下水量が減ったことがありましたが、それは水田から水が地下に落ちないことが原因でした。そこで熊本県は休耕田に水を張り、また農閑期の冬にも水を張ったのですが、コカ·コーラウエスト株式会社がそのサポートを行いました」(柴田部長)
このような各地の保全活動によりコカ·コーラ システムは、使用量に対し約80%の水源涵養率を現在までに達成している。今後もライフサイクル的発想で、原料である農産物、特に砂糖やミルクなどにも注目していく。
北海道コカ·コーラボトリングの取り組み
札幌ドーム近くに北海道コカ·コーラボトリング(株)の巨大な工場がある(写真1)。少量の受託製造(パッカー)を除くと、北海道で清涼飲料水の自社工場を運用しているのは北海道コカ·コーラだけである。札幌市清田区清田という地名からしてとても清いイメージがあるとおり、豊富な地下水を利用して製品が製造されている。揚水井戸は全部で8本あり、井戸の深さは約200mから400mほどの深さがある。北海道で製造するコカ·コーラブランドの清涼飲料水はすべて清田の地下水を利用して製造されている。(下写真は、北海道コカ・コーラボトリング(株)での取材時の様子)
(『水源は白旗山』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
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2016年1月
新春対談:東京大学 安井 至 名誉教授にきく(2016年1月)
地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑える長期目標がCOP21で合意され、排出実績などを点検してすべての国が5年ごとに削減目標を国連に提出する義務が採択された。地球温暖化対策は火力発電をはじめ日本の産業界に与える影響が予想以上に大きい。本記事では、環境分野で幅広い知見を持つ安井至先生に当協会・冨澤龍一会長とご対談いただき、「2度目標」などの捉え方、産業界に求められる電力貯蔵技術や材料開発など環境イノベーション、再生可能エネルギーと石炭火力発電、さらに低炭素社会における資源循環など具体的かつ興味深いテーマについて語っていただいた。
(写真 左:安井至 名誉教授(東京大学) 右:冨澤(産業環境管理協会))
||| 記事目次 |||
‐ 必要なときに必要なものを──「新コタツ文明」の発想
‐ 国際交渉における「ゴール」と「ターゲット」はまったく異なることを理解する
‐ 温暖化問題にはイノベーション以外の解はない
‐ いまも変わらず重視される石炭火力発電と世界の趨勢
‐ CCS導入に不可欠なのは国のリスク負担
‐ 実現可能性の高い新たな環境技術とは
‐ 資源循環、3Rの成果とこれからのリサイクルシステム
‐ 環境経営を実現する企業人を育てる教育を
必要なときに必要なものを──「新コタツ文明」の発想
冨澤:温暖化対策を真剣に検討すると我々のライフスタイルも変える必要があります。先生が提唱なさっている「コタツ」の考え方も重要だと思います。確かにセントラルヒーティングをしながら「コタツ」も使うようなことではエネルギー効率面であまり意味がないですね。
安井:西洋を仮にセントラルヒーティングにたとえるなら、木造住宅が多くエネルギー源が少ない日本は「コタツ」でしょう。必要なときに必要なところへ必要なものを提供するといったコンセプトです。幸いなことに「コタツ」のイメージは誰にとっても不快なものではありません。このように快適性とエネルギー効率の両面が満たされるものは探せばたくさんあると思います。
人間の体温も成人で100W程度ありますから、熱源として暖房に利用できるといった考えもあります。例えば、我が家では寝室の窓に3 枚ガラスを入れてますが、寝る前の温度が朝になると断熱効果で少し上がっています。
冨澤:先生のご著書に出てくる小さな車の話も面白かったです。夫婦なら2 人乗り自動車で子供ができれば2台連結して使う。自動車メーカーにお願いしてつくってもらったらいかがでしょうか(笑)。
安井:たった一人しか乗らないのに大型車のセンチュリーに乗らなくてはいけないのか、ということです。私の提案では、家族が2 人用の車を2 台持っていて父親と母親はそれぞれ違う勤務先に車で出勤する。休日になって子供を連れて出かけるときに、会話ができるよう2台をガンダムのようにガチャと連結させる。それが電気自動車なら遠出するときに後ろに小さな発電装置をガチャと取り付ける、まさにガンダム型ですね。
冨澤:そういう自動車なら東南アジア、特に中国あたりで大変喜ばれると思いますね。
国際交渉における「ゴール」と「ターゲット」はまったく異なることを理解する
冨澤:昨年のCOP21 では、2020 年以降の温室効果ガス排出削減の新たな枠組みについて国際交渉が進められました。しかし中国や米国、インドなど各国の削減目標(約束草案)では今世紀中に2.7℃以上という地球温暖化が避けられない予測もあり、洪水や干ばつの増加、海面上昇などの深刻なリスクがあると指摘されています。産業界に関しては先生の本でも相当辛口の批評をいただいていますが、削減目標のベースになる上昇温度の目標値についてお考えを教えて下さい。
安井:最初に「ゴール」と「ターゲット」という言葉を切り分けなければなりません。欧米において「ゴール」はあくまで「その方向に向けてそのような姿勢をとる」ことです。国の対策つまりは「ターゲット」として目標値を目指すことはまったく別の議論です。これはゴールとターゲットを同一のものとして認識する真面目な日本人にとって一番難しい問題です。
冨澤:それは企業経営者や産業界にもあてはまるのでしょうか。
安井:そうです。「温暖化対策でゴールとターゲットはまったく異なるコンセプトだ」という統一した認識を経団連も含め産業界に持ってもらわないと困りますね。
冨澤:実際問題として産業界では業種などによって意見がバラバラなので、経団連も一つに意見をまとめるのはなかなか大変な作業だと思います。
安井:欧米では温暖化目標の「ゴール」と「ターゲット」を完全に区別しているので、ゴールのほうを向いているからいいだろう、という主張をします。ゴールとはその人の人間性を示すようなものなのです。この二つの違いを日本人はなかなか理解できない。
冨澤:ということは、ゴールについては「二枚舌」が許されるのでしょうか。
安井:日本人は嘘をつくと閻魔様が舌を抜くでしょう。二枚舌を一枚にしてくれるんでしょうね。とても便利ですね(笑)。
冨澤:地球温暖化と気候変動について本誌読者の多くは、どういった段階なのか、どういう状況なのかよく理解できないのが実情だと思います。先生はゴールを「ある方向に向けて動く姿勢」、ターゲットは「達成すべきもの」とおっしゃられますが、COP21 で議論になっていた2℃もしくは1.5℃未満といった温度上昇値をどのように認識されているのでしょうか?
安井:現実的には2℃や2.5℃のあたりに落ち着くと思います。ところが原罪の意識を持っているキリスト教国家などは「2℃に向けて最大限の努力をしたのであるから神は許してくれるだろう」という発想ですね。これが基本的に違う点です。より現実的な2.5℃、それでも実際はかなり難しいシナリオですが、日本人なら「ターゲットは達成可能な2.5℃にすべきだ」というでしょう。でもそれは欧米では「後ろ向きな姿勢」と取られる。だから日本もキリスト教的なマインドで対応していかないと社会や産業界の犠牲が増えてしまうおそれがあります。
昨年、ルーマニアの郊外で宗教壁画をみました。欧米の旅行者が教会のフレスコ画「最後の審判」をとても真剣に長い時間眺めているんですね。クリスチャンはまさに原罪意識を持っているな、と直感しました。そしてクリスチャンの世界も日本人はしっかりみないとだめだなと痛感しました。
(『温暖化問題にはイノベーション以外の解はない』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
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2015年12月
マツダの環境経営 環境技術で世界に挑む(2015年12月)
(写真提供:マツダ)「ソウルレッドプレミアムメタリック」をイメージした特別色を採用した広島東洋カープのヘルメット(広島東洋カープ・堂林翔太選手)
マツダは「MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島」のナイター照明に必要な電力を発電するために排出されるCO2を、地元広島県が県営林の森林整備により創出したクレジットでオフセットしている。その球場で広島東洋カープの選手は、マツダ車に採用されている「ソウルレッドプレミアムメタリック」という色をイメージした特別色のヘルメットをかぶり、日本一を目指し情熱や闘志を燃やし戦っている。
戦後、壊滅的な打撃から驚異的な復興を成し遂げた広島の人々の屈強な精神力、チャレンジしていく姿勢は、広島の企業であるマツダにも受け継がれてる。
終戦後4か月で3輪トラックの生産を再開し、1967年に世界で唯一2ローター・ロータリーエンジンの量産化に成功した。その先人たちのDNAを確実に継承し、マツダはいま、「『走る歓び』と『優れた環境・安全性能』を高次元で両立させたクルマを世界中のお客さまに届ける」との意気込みで「モノづくり」に挑んでいる。
そんなマツダのグローバルな「モノづくり」と環境経営について、CSR・環境部の渡部伸子部長(写真中央)、角 和宏主幹(写真左)、藤井芳之主幹(写真右)に話を聞いた。【環境管理|2015年12月号|Vol.51 No.12 より】
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- 夢のロータリーエンジン ── 技術開発のDNAを継承する
-「真っ黒なすす」とディーゼルエンジン
- 世界一の低圧縮比を実現した「クリーンディーゼル」の技術
-「燃費性能」と「力強い走り」を両立させる
-「エコ」のための「我慢」は「サステイナブル」につながらない
- グローバルに向けた真の商品開発 ── 新興国にも「走る歓び」を
- クルマづくりのプロセスをゼロから見直す「モノ造り革新」
- 部門間の壁を超えたからこそできたマツダの「赤」
- ISO14001 を実質的なものにしていく理由
-「全社」での実現を目指す環境経営へのアプローチ
夢のロータリーエンジン ── 技術開発のDNAを継承する
2015 年10 月28日、マツダ株式会社( 以下、マツダ)は「第44 回東京モーターショー」で次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R(スカイアクティブアール)」を搭載したスポーツカーのコンセプトモデル「Mazda RXVISION」を世界初公開した。
1960 年代から70 年代にかけ、欧米技術の模倣時代から脱し、独自の「モノづくり」へと模索を始めた日本の製造業の中にあって、マツダのロータリーエンジンの開発はまさにその先鞭を切ったものであった。1961 年に西ドイツ(当時)のNSU、バンケルの両社と技術提携し開発に着手、67 年に「コスモスポーツ」で量産化に成功し、91 年にはル・マン24 時間耐久レースでロータリーエンジンを搭載した「マツダ787B 」が総合優勝。マツダの技術力を世界に知らしめた瞬間だった。
そんなロータリーエンジンも近年のスポーツカー需要の減退に加え、燃費性能などの課題があり販売が低迷、2012 年6 月に生産終了となったが、技術開発は引き続き進めていた。今回の公開は、世界の自動車メーカーが挑戦し、マツダしか成し得なかった夢のロータリーエンジン開発技術、そのDNAの継承を改めて宣言するとともに、「常識を打破する志と最新技術で課題解決に取り組む」マツダの意思を示したものといえる。
「真っ黒なすす」とディーゼルエンジンル
1999 年に石原慎太郎・東京都知事(当時)が真っ黒なすす入りのペットボトルを示してディーゼル規制を訴えたことにより、ディーゼル車は「環境に悪い」というイメージが国民に拡大した。「黒いすす」といわれる粒子状物質( PM)と光化学スモッグの原因になるといわれる窒素酸化物( NOx )の規制が厳しくなり、都市部での旧式ディーゼル車の登録、走行が規制された。2005 年の排出ガス規制( 新長期規制)の大幅な強化に伴いディーゼル乗用車が姿を消し、2009 年にはさらなる規制強化(ポスト新長期規制)が図られた。
だがその後、ディーゼル車は様々な技術革新により排出ガスの大幅なクリーン化が図られ、また、ガソリン車に比べて燃費性能がよく走行時のCO2 排出量が少ないことから「エコカー」として見直され、その市場規模は5年間で17 倍、約8万台(2014 年)に達している。
その躍進の源となったのが、厳しい排ガス規制をクリアするための「クリーンディーゼルエンジン」であり、マツダはクリーンディーゼル技術開発のトップランナーとして業界を牽引している。
「クリーンディーゼルでマツダが打ち出している価値は三つあります。『クリーン』であること、『低燃費』であること、そして『力強い走り』であることです。以前は『黒いすすが出るのがディーゼル』というイメージでしたが、最近ではそのイメージも変わりつつあると感じています。年々、規制は厳しくなりつつありますが、マツダは各国の規制に対して真摯に対応しています」(角主幹)
世界一の低圧縮比を実現した「クリーンディーゼル」の技術
「低燃費」といえば「ハイブリッド車」と思いがちだが、1.5リットルのクリーンディーゼルエンジンを搭載している「マツダ デミオ」は30km/L( JC08 モード・2WD・MT車)という驚異的な燃費を実現している。では、マツダのクリーンディーゼル技術とはどのようなものか。
ディーゼルエンジンは、シリンダー内に空気を吸い込み、ピストンで圧縮して高温にしたところに燃料(軽油)を噴射、自然着火させて動くしくみであり、「高圧縮比」であることが特徴である。しかし、圧縮比が高いことが不均一な燃焼につながり、「すす」や「NOx 」の発生原因となっていた。そして「すす」や「NOx」を排気前に浄化する後処理装置を設置することが不可欠になるため、車両価格は高価になった。さらに高圧縮比エンジンはエンジン自体を頑丈につくる必要があるので重量が増大し、騒音や振動の原因ともなっていた。
そんな「汚い」「うるさい」しかも「高価」で「重い」というデメリットを解決するのが、マツダのクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」である。
「従来のディーゼルエンジンに比べてSKYACTIV-Dではシリンダー内の圧縮比を低めにしています。圧縮比を低くするとふつうトルクが低くなるんじゃないかといわれますが、点火時期を最適化して燃料と空気が十分に混ざってから一気に燃やすことによって、すすやNOxの発生を抑えつつ高いトルクが得られるようになりました。燃焼のタイミングをいかにコントロールするかというのも、マツダのクリーンディーゼル技術の一つです」(角主幹)
圧縮比を低くする── 一口にいうのは簡単だが、そこには大変な技術が使われている。2010 年10 月に発表された「世界一の低圧縮比14. 0」というのは、業界では「信じられない」数字だった。
「圧縮比を数字的にどこまで下げるとどうなるかという理論があって、その数字は『あり得ない』数字だったということです。開発当初も、低圧縮比にしていいことが起こるかどうかも不明で、それでもやらないとわからないからやってみようと実証を続けていたら『これはいける』ということになって実現したのです。2010 年10 月にモデル製品で技術のみを発表したときは、皆さん『信じられない』と半信半疑でしたが、実際にエンジンを搭載した車両がリリースされたときは『マツダの言っていることは本当だった』と信用していただきました」(渡部部長)
低圧縮比で爆発圧力が低くなることを利用してピストンやクランクシャフトなどの回転系部品を軽量化することにも成功し、機械抵抗が減って燃費が向上するとともにエンジンの吹け上がりも軽やかになり、騒音や振動の問題も解決した。高価なNOx後処理装置の必要もなくなった。
(『「燃費性能」と「力強い走り」を両立させる』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2015年12月号|Vol.51 No.12】
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2015年10月
茨城大学学長 三村信男氏にきく(2015年10月)
〔聞き手:黒岩 進(当協会 専務理事)取材・文・写真:本誌編集部〕
12月のCOP21「パリ合意」に向けて、国際社会は2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みを模索している。2014年には各国の政策決定者に向けたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書がとりまとめられ、最新の知見と国際的な共通認識のもとに議論が進められている。本記事では、長年にわたりIPCCワーキンググループのメンバーとして活躍されており、気候変動問題における「適応策」分野の第一人者である茨城大学学長・三村信男先生にインタビューし、日本を取り巻く現状と今後について語っていただいた。
【環境管理|2015年10月号|Vol.51 No.10 より】
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1.環境問題のグローバル化とIPCC
2.日本の海岸の8割が消滅する可能性
3.温暖化影響のマップ化と「適応策」への活用
4.IPCC第5 次報告書のポイント ─ 温暖化による「海洋の変化」への追及
5.画期的に進んだ農業分野の「適応策」
6.遅れている日本の「適応計画」
7.COP21 に向けて ─ 変貌しつつある国際交渉
8.気候変動リスクがビジネスチャンスに
1.環境問題のグローバル化とIPCC
黒岩:先生はもともと海岸工学がご専門とお聞きしましたが、IPCCとはどのような契機で関与されたのでしょうか。
三村:工学の博士号を取得するまでは衛生工学が専門でしたが、大学院卒業後は海岸工学の研究室に移って土木系の海岸工学を始めました。そこでは海岸や沿岸海域における物質拡散や海岸侵食などの研究をしており、その後、茨城大学に移りました。
「気候変動」が大きな問題になりつつあった1989 年から地球温暖化の影響に関する研究を始めました。その頃の気候変動問題は海面上昇の海岸への影響が大きな話題となっていたこともあり、海岸工学という専門分野との関係からIPCCに深くかかわるようになりました。東日本大震災が起きた2011 年には茨城県の津波対策検討委員会の委員長を務めたので、環境問題の「グローバル」面と「ローカル」面の両方を扱っていることになります。
IPCCは1988 年に設立され、翌89 年に「海面上昇が起きたらアジアやオーストラリア、太平洋の海岸はどうなるか」という論議が始まったのですが、当時そのような研究をしている研究者はおらず、とりあえずオーストラリアで東半球ワークショップが開かれました。その後、関心があるなら一緒にやったらどうかという話になってIPCCとかかわることになりました。IPCC第1 次評価報告書( 1990 年)ではオブザーバーとしてすでに会議に参加して議論をしていました。実際、私の名前が執筆者として報告書に記載されたのはIPCC第2 次評価報告書(1995 年)の第2 作業部会報告からです。
2.日本の海岸の8割が消滅する可能性
黒岩:そうするとIPCC発足直後から携わられていたわけですね。
三村:最初の頃の議論では、「地球温暖化によってどこで何が起こるのか」というような確かなことをいえる人は誰もいませんでした。「こんな被害が起こりそうなので先進国は責任をとれ」「対策の資金を出せ」と途上国の代表がいうような政治的な話が多かったのですが、徐々に海面上昇によって起こされる影響についての科学的な議論になっていきました。
一つ目は、海面が上がるから海岸が「水没」する。二つ目は、台風が来たら「高潮」になって洪水が起きる。平均海面が高くなるから高潮が激しくなるわけです。そして三つ目が「海岸侵食」。水没によって砂浜や陸地の面積が減るのは当然なのですが、不思議なことに単に水没するだけではなく、砂浜が削れていく。1m 海面が上昇すると海岸線は「水没」によって約20m後退しますが、「侵食」によって全体で100mも後退します。日本の海岸でシミュレーションすると、海面が1m 上がると90%以上の砂浜はなくなる計算になります。
四つ目は、マングローブや湿地帯、波打ち際で生き延びている生態系が水没して生きられなくなります。実際は生態系が陸側に徐々に移るということになりますが、もし陸側が開発されていたら生息地の移動する余地がなく、すべて失われます。そして五つ目は、川や地下水の中に海水が入っていって、水道水や農業用水が塩水化します。
それら一つひとつの影響が世界的にみたらどれくらいの規模になるのかを計算しようとしていたのですが、これはなかなか大変なシミュレーションです。特に塩水の侵入はそれぞれの地域ごとの地形や地質構造に依存するから、まだ誰も計算していません。他の「水没」「高潮の氾濫」「海岸侵食」「湿地帯の影響」については様々な分野の研究者と一緒に世界規模の影響評価をしています。
黒岩:確か、海面上昇で日本の砂浜の8割が消えるといった報道もありましたが……。
三村:「63cm 海面が上がると日本の海岸の8 割が消滅する」というのは最近の研究成果ですが、1995年に最初に計算したときの方法と基本的には同じです。それを試算しようとすると、日本にいくつの砂浜があるかを調べなければなりません。国土交通省が管理している海岸は当時約9,700 あり、そのうちの3 割が砂浜でした。それら砂浜の長さと幅と砂粒の粒径、平均的な傾斜、砂浜に入ってくる波の条件を集めて、あるモデルをつくって侵食面積を計算するという方法で、最近試算し直したのが先ほどの数字です。そもそも、海面が1m上昇すると海岸が100 m後退するとなれば、日本の砂浜で幅が100mある海岸はごく一部しかないので、ほとんどの海岸で砂浜が消えることになります。
(写真左:当協会専務理事 黒岩進、写真右:茨城大学学長 三村信男氏)
(『3.温暖化影響のマップ化と「適応策」への活用』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2015年10月号|Vol.51 No.10 】
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2015年5月
栗田工業にきく(2015年5月)
〔取材・文:本誌編集部/写真提供:栗田工業〕
「“水”を究め、自然と人間が調和した豊かな環境を創造する」を企業理念として掲げる栗田工業(株)は、水と環境のマネジメント企業として、水処理薬品、水処理装置、超純水供給の分野におけるトップランナーである。特集にあたって本誌では、水資源、処理コストの削減、技術開発についての現状を聞くとともに、我が国の工場・事業所で使われる水処理の最新技術について、プラント事業本部 技術サポートグループ グループリーダー 北辻 桂氏にインタビューした。【環境管理|2015年5月号|Vol.51 No.5 より】
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1.水環境は業種や立地条件によって異なる
2.環境負荷の低減とコストダウン
3.工場の現状にあわせたユニット型の処理装置
4.バルキングを防ぐ技術
5.薬品投入を調整するシステム
6.汚泥発生量を削減する技術
7.工場の水処理設備をクリタが所有管理
ex.工場排水の基本ワード解説(初級編)
1.水環境は業種や立地条件によって異なる
── 日本の水資源、国内の工場における水の確保は現在どうなっているのでしょうか。
北辻:水資源の量の問題はあまりないといえます。その理由として、水を多量に使用する歴史のある石油化学、鉄鋼、紙パルプなどの工場は、昔から潤沢な水の取水権を確保しているからです。量の確保にはそれほど困っていません。しかも工業用水が利用できるので水の量に関してそれほど制約はありません。
── 内陸に立地することが多い電子産業には水不足がありませんか?
北辻:臨海工業地帯が各地にできたあとの比較的新しい産業、たとえば液晶、半導体、PC関連などの電子産業などでは、水資源確保と水コストの問題が顕在化しています。これらの産業で使う超純水では、多様な汚濁物質を含む河川の水を浄化するよりも管理下にある工程水を再利用したほうが低コストになるので、水のリサイクルが進んでいます。これらの工場では水をとても大切にしているので、伝統的産業とは水コストの評価がまったく異なります。
── 水を大量に使用する製鉄業や紙パルプ業はいかがでしょうか。
北辻:あくまでも一般的な話ですが、伝統的産業では水利用に関して最終製品の製造コストが確実に下がるのであれば対策をとりますが、そうでなければあまり考えずに従来通り水を大量に消費する事業所が多いといえます。水を低コストで十分確保できている伝統的産業は設備が大規模で他社競争もあるので、水資源の節約に力を入れにくい状況があるようです。
── 工業排水の再利用(再生水利用)について中国の大学と共同研究をしていらしたそうですが、現在の中国の状況はいかがですか?
北辻:中国は絶対的な水不足です。特に北京周辺などは慢性的な水不足に悩まされています。南の方はそれほどでもありませんが北は深刻な状況で、黄河地域の水不足のため、南の長江から数千キロの運河を築いて水を供給しています。水に困窮しているので、水の回収やリサイクルは日本よりかなり進んでいるといえるかもしれません。事実、取水に関して中国では大きな制約があるため、逆に水の再生利用が進んでいるといえます。下水処理場の隣に水再生処理場が設置されていることも珍しくありません。地域によっては、水がなければ下水も処理して使わざるを得ない状況です。
2.環境負荷の低減とコストダウン
── 排水処理に関して、国内工場の動向はいかがでしょうか。
北辻:既存工場では費用対効果を考慮し、水処理設備をすべて新しくつくり直すことはあまりありません。だから、最小のコストで古いものを改修したり一部分だけを更新または増設したりすることが多くなります。以前は大規模な施設を使っていましたが、生産量の減少で少なくなった排水量に応じて規模を縮小し、逆に処理効率を上げる工夫もなされています。製造プロセスの変更に合わせて処理能力や効率を最適化することも多いです。最小のコストで必要な水処理をするというのが一般的です。
大震災以降は電気料金の問題があるので、やはり省エネの関心が高いですね。人件費に加えて高止まりしている電気代の節約、廃棄物発生量の低減、熱回収などあらゆるコストダウンについて当社に問い合わせがあります。これらが
企業ニーズになっており我々のチャレンジ対象にもなっています。たとえば嫌気のメタンガスはボイラー利用と発電利用があります。そこで弊社の「バイオセーバーTK」という嫌気生物処理装置では、発生したバイオガスをエネルギー源として発電等に活用し、企業収益に貢献することができます。メンテナンスはセンサ技術を活用したシステム化も展開しており、変調をきたしてダウンする前にあらかじめ警報を出すことも可能になっています。
(『3.工場の現状にあわせたユニット型の処理装置』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2015年5月号|Vol.51 No.5 】
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2015年4月
イオンの環境経営「地域貢献」で世界を拓く(2015年4月)
(写真提供:イオン)「植樹を愉しむ子供たち(イオンモール幕張新都心/2013 年11月)」
イオングループの旗艦店としてオープンした「イオンモール幕張新都心」には植樹1,000万本の記念碑が立つ。世界13か国と日本の店舗に「ふるさとの木」を植える取り組みで、植樹活動の参加者は累計100万人に及ぶという。
植樹に象徴されるように、イオンの基本理念の一つに「地域貢献」がある。東日本大震災時には、宮城県石巻市の店舗が巨大避難所になった経験から、「災害に強い店舗づくり」「復興拠点としての機能確保」を掲げ、地域にとって重要な「場」になるよう工夫を施している。
そんな地域に根ざしたイオングループの環境経営について、イオンリテール株式会社 専務執行役員管理担当 石塚幸男氏(写真中央)と、イオン株式会社 グループ環境・社会貢献部長 金丸治子氏(写真左)に語っていただいた。〔聞き手:黒岩(当協会 専務理事)〕
【環境管理|2015年4月号|Vol.51 No.4 より】
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- 植樹活動のルーツと「持続可能な経営」のはじまり
- 累計1,000万本を超える植樹が43万人の従業員のシンボルに
- 経営と環境への取り組みが一体化した「イオンのecoプロジェクト」
- 東日本大震災の経験から災害に強い店舗づくりへ
- 震災で変わった人々の意識とそれに応える環境経営
- 仕入先メーカーとの協同による物流分野の改善が進む
- 世界でも通用する環境経営と「日本流」の企業理念
- 時代に先駆けて「自然冷媒宣言」業界をあげた協力が必要
植樹活動のルーツと「持続可能な経営」のはじまり
黒岩:グループ従業員約43万人で売上6兆円超というアジア最大の小売グループ・イオンは環境経営に関してどのような企業理念をお持ちになっていらっしゃるのでしょうか? 最初に、イオンの環境にかかわる歴史についてお聞かせ願います。
石塚:もともとイオンという会社は中部と近畿の三つの地方店が合併したのが始まりです。1969年に兵庫県姫路市と大阪府吹田市のローカル2店舗と三重県四日市市の岡田屋が合併し「ジャスコ株式会社」としてスタートしました。3店合併の中核であった岡田屋の社長岡田卓也(現名誉会長・相談役)が代表でした。
黒岩:名誉会長は三重県四日市のご出身ですね。植樹活動のきっかけは四日市と関係がありますか?
石塚:創業者の岡田は大気汚染がひどかった四日市の出身で、庭に南天を植えたけど花が咲かなかったといった経験をし、四日市ぜんそくの時代から環境について強い関心を持っていました。その後、県外への初出店として愛知県岡崎市に新しい店舗を建設したときに創業者は記念として何かを残したいと考え、岡崎市の川沿いに桜の木を700 本植えて市に寄贈しました。これが現在のイオン植樹活動のルーツになっています。
創業者は環境保全をとても重視しており、20世紀末に「次の21世紀は環境の時代になる」と確信していました。経営と地球環境の両方を兼ね備えるべきといういわば創業者の嗅覚があったのです。すでに環境経営、いわゆる「持続可能な経営」という考えを確固たるものとしていました。それらを具現化した一つの例として世界的な植樹活動があります。
累計1,000万本を超える植樹が43万人の従業員のシンボルに
黒岩:イオン環境財団と「イオン ふるさとの森づくり」が植樹活動の中心になっていますね。
石塚:日本に限らず東南アジアも対象に植樹などの環境活動を支援する公益財団法人イオン環境財団を設立しました(1991年1月財団認可)。創業者から財団に寄付された当社株式をファンドにしてその配当を活動資金としています。植樹活動を世界的に拡げて環境団体への活動資金を支援するという社会的な役割を果たしています。また生物多様性の重要性を啓発する一助として表彰制度で国内賞の「生物多様性日本アワード」、国際賞の「生物多様性みどり賞」を創設しました。
黒岩:植樹活動のスタートはどこだったのでしょうか。
石塚:1991年にマレーシアのマラッカ店がオープンするとき、地域に自生する樹木を店舗の敷地内に植えたのが始まりです。店舗の顧客のみならず地域の人々と一緒に木を植えるというのがコンセプトで、子供や家族が楽しめる森、憩の森、そして防災の森になることを目指しました。翌年には国内店舗でも「イオン ふるさとの森づくり」が本格的にスタートしました。
そして一昨年、「イオンモール幕張新都心」の開店で、植樹は累計1,000万本を超えました。我々の名刺には「木を植えています」というコピーと緑色のロゴを印刷して、世界のグループ従業員46万人の共通シンボルにしています。
経営と環境への取り組みが一体化した「イオンのecoプロジェクト」
黒岩:もともとイオンは「平和の追及」「人間尊重」「地域に貢献」を基本理念にして、特に地域との共生をとても大切に考えていらしたと思います。巨大なショッピングモールやショッピングセンターは一つの街のようですが、店舗建設に際して、環境と防災、地域への貢献などはどのような考えに基づいているのでしょうか。
石塚:2000年前後に「環境マネジメントシステムを本格導入して環境経営を基幹として事業をしていく」という決定がありました。当時はジャスコ(株)の時代でしたが、ISO 14001のマルチ認証を取得して「経営にPDCAの考え方を導入し事業活動を行っていこう」という意思決定をしたのです。
環境経営を意識して、「商品としての環境配慮をどうするか」、「ショッピングセンターなど構造物に対する環境配慮や店づくりはどうするべきか」、そして「植樹や社会貢献などの地域社会貢献」というジャンルでの対応が具現化しました。事業活動において環境面での具体的な目標を設定して着実に進めることになったのです。
黒岩:イメージとしての「環境への取り組み」から実質的な環境経営に発展しているのですね。
石塚:最初は「地球にやさしい」という名称の委員会を設置して、できることからスタートしました。環境経営を意識はしていましたが、その頃は店頭の牛乳パックの回収などに活動が限られていたのです。しかしその後、2000年からは経営マターとして環境を本格的に考えるようになりました。
金丸:1991年から毎月1回実施している「クリーン&グリーン活動」という店舗の周囲を清掃する活動も、2001年からは店舗はもとより本社・事務所でも実施するようになりました。クリーン活動とは自ら進んで行う社会奉仕活動、グリーン活動は植樹活動を含め、自然環境の保全といった幅広いとらえ方をしていて、2014年度からはそれまで個々に実施していたものを統一し、クリーン&グリーン活動の一環として「イオン ふるさとの森づくり」で植えた木々の植栽帯内の雑草の除去や清掃も始めています。
黒岩:イメージ先行から実質的な活動になってどのような経営上の成果がでたのでしょうか。
石塚:経営と環境への取り組みが一緒になって持続可能な経営「イオンのecoプロジェクト」のへらそう作戦、つくろう作戦、まもろう作戦に繋がってきました。「へらそう」では2020年度のエネルギー使用の達成目標が2010年度比で50%削減(原単位)を目標にし、「つくろう」では再生可能エネルギーを2020年度に20万kW創出、「まもろう」では2020年度までに全国100か所の店舗を防災拠点にするといった定量目標を設定しています。いまのところ目標に向かって計画的に進行しています。
(『東日本大震災の経験から災害に強い店舗づくりへ』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2015年4月号|Vol.51 No.4 】
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2015年1月
特別対談:産業技術総合研究所 中鉢良治 理事長にきく(2015年1月)
産業技術の向上で持続可能な社会を実現し、社会的・経済的な価値を創造する── この方針の下、産業技術総合研究所は、長年日本のテクノロジーの進化を牽引してきた。そしていま、革新的なイノベーション創出に向けて新たな展開を進めている。本記事では、産業技術総合研究所・中鉢良治理事長に当協会・冨澤龍一会長とご対談いただき、企業が抱える環境経営の課題、環境技術が持つ国際競争力のポテンシャル、そして産業技術総合研究所と当協会がこれから果たすべき役割まで、多岐にわたり語っていただいた。
(写真 左:冨澤(産業環境管理協会) 右:中鉢理事長(産業技術総合研究所))
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‐ 日本の産業を支えるイノベーションで新たな価値を創出する
‐ 産総研が取り組む「攻め」と「守り」のグリーン・テクノロジー
‐ 「そうだ、産総研に行こう」活用してほしい産総研の技術力
‐ イノベーションに必要な「インテグレーション」の担い手
‐ 企業の環境経営をサポートして国際競争力を高める
‐ 「ゼロでないリスク」をロジカルに評価するマネジメントが日本には必要
‐ 3Rはインフラ整備の問題国の制度設計が重要になる
‐ 化学物質管理には新しい国際ルールが必要になる
‐ これからの環境経営と産総研、産環協の役割
日本の産業を支えるイノベーションで新たな価値を創出する
冨澤:本日はご多忙のところありがとうございます。まず始めに我々産業環境管理協会(以下、産環協)の紹
介を簡単にさせていただきます。私どもの組織は昭和37年秋の創立で52年の歴史があります。大気汚染防止の機器メーカーなど民間企業で構成される任意団体としてスタートしました。その後、工場の排水処理技術や鉱山を含むほとんどすべての産業にかかわる環境保全に事業対象が広がりました。
その間、石油化学産業の発展や自動車の普及などでNOxやSOxの問題が生じ、その解決で産業技術総合研究所(以下、産総研)とはご縁がありました。産総研の前身は工業技術院ですが、その時代に産総研が開発した大気汚染防止の技術を当協会会員のエンジニアリング会社が発展させるなど、当協会が関係する数多くの公害防止技術を研究開発されてます。
中鉢:産総研は産環協に対し公害防止技術に関する支援をしていたのですね。実は私も大学で鉱山工学を学んでいて環境とは深い関係がありました。鉱山工学の中の浮遊選鉱*1を専攻していたのですが、金属資源そのものが激減し、専門知識が活用できる鉱山が衰退していった時代にぶつかりました。神通川ではイタイイタイ病の問題が発生し、鉱害のみならず水俣や四日市の公害などが各地で勃発し、この二重苦のような環境にあって鉱山工学の学科を卒業しても就職はどうなるのかという危機感がありました。
(*1 浮遊選鉱:手選別が困難である粉状鉱物を水に懸濁させて気泡等を利用して岩石と鉱物を浮遊選別して分離するもの。岩石表面の親水性と金属の疎水性を活用した選鉱方法で低品位の鉱石からの金属回収率を抜本的に改善させた技術)
冨澤:その後、民間企業の経営者を経て、現在、産総研のリーダーになられたわけですね。詳しく産総研を存じ上げてない読者のために産総研の組織概要をご紹介下さい。
中鉢:産総研は旧通産省工業技術院の15の研究所などが統合・再編されて平成13年に設立されました。日本の産業を支える環境・エネルギー、ライフサイエンス、情報通信・エレクトロニクス、ナノテクノロジー・材料・製造、計測・計量標準、地質などの分野の研究を行う我が国最大級の公的研究機関です。新成長戦略にも示されているグリーン・テクノロジーやライフ・テクノロジーを研究の二枚看板にして、基礎研究から応用研究、そして製品化・事業化への展開に力を入れています。
現在2,200名を超える研究者が、つくば本部を中心に全国の拠点で企業・産業界、大学、行政と連携しながら活動しています。特に環境や資源分野では大正9年の燃料研究所の設立に始まり、資源技術や公害対策、近年ではライフ・サイクル・アセスメント(LCA)やリサイクル技術など多くの分野で成果を上げてきました。
冨澤:当協会は、LCAにも関連するユニークなイベントを開催しています。環境製品の展示会「エコプロダクツ展」は昨年で第16回を迎えました。
(写真 左:対談中の冨澤(産業環境管理協会) 右:同 中鉢理事長(産業技術総合研究所))
(『産総研が取り組む「攻め」と「守り」のグリーン・テクノロジー』 へ続く〔PDFファイルにて、ご覧ください。〕)
『産総研が取り組む「攻め」と「守り」のグリーン・テクノロジー』 ~ 『これからの環境経営と産総研、産環協の役割』については、下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
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2014年10月
特別対談:淑徳大学 北野大 教授にきく(2014年10月)
公害対策として排出ガスや排出水の「出口規制」が行われていた時代、我が国ではカネミ油症事件を契機に、「化学物質審査規制法」が世界に先駆けて制定された。その後、地球温暖化等環境問題のグローバル化が新たな変化をもたらし、1992年の国連地球環境サミットでは、国際的な連携や整合を図りつつ化学物質の与えるヒトや環境への影響の最小化を目指すという目標が定められた。今後はリスクベースの規制・管理、サプライチェーンでの情報共有・開示、リスクコミュニケーションなど、より俯瞰的な対応が必要となっていくといえる。本記事では、淑徳大学教授・北野大先生に当協会・傘木和俊理事とご対談いただき、化学物質管理を取り巻く昨今の状況と、企業が検討すべき今後の課題等について語っていただいた。
(写真 北野 大(淑徳大学 教授))
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‐ 環境問題への意識が低いマスメディア
‐ 企業を動かすのは消費者、それを応援するのがメディア
‐ 世界に先駆けて制定された化審法
‐ 「安全性」から化学産業の発展へ
‐ 既存化学物質の有害性データを把握するために
‐ 安全性の高いものをつくるための規制が重要
‐ 化審法と同じコンセプトをもつREACH 規制 ‐ リスクコミュニケーションと日本の土壌
‐ LCA 的発想による化学物質管理 ‐ 産業環境管理協会の今後のミッション
環境問題への意識が低いマスメディア
傘木:本日はご多忙のところ機会をいただき誠にありがとうございます。北野先生は大学教授以外に、テレビのコメンテーターなどタレントとしてもご活躍されていますが、芸能人やマスコミは社会にとても大きな影響力があります。どのような形で環境問題を発信していけば社会に対してプラスの影響になるのか、マスコミの環境への取り組みの実態はいかがなものでしょうか。
北野:例えば温暖化防止に関して、環境省はAKB48にお願いして地球温暖化対策キャンペーンをしていました。そういう流れがあることは事実です。一方、マスメディア、特にテレビは視聴率が最優先なので、国民が関心を持っていることに絞って大衆と迎合するしかない。
傘木:環境に対するメディアの意識が低いのも理由でしょうか。
北野:残念ながらメディアの人達は環境問題をあまり発信してくれない。化学物質関係で新聞の1面掲載はめったにないですよ。ところが、有名な例ですが、PRTR法が大手新聞の1面に掲載されたのです。私はあるTV 番組にでていてプロデューサーに新聞の1 面に載ることはめったにないから今日のTVニュースに取り上げてくれ、私が解説するよといったら、「北野先生、こんなテーマでは誰も関心を持ちません」と。そのときのことをいまでもはっきり覚えています。私が出ていた有名な朝の番組ですよ。そのメディアの人たちの意識が低いというのは、逆に彼らに言わせると国民の意識が低いとなるわけです。
国民の意識が低いとしても、これだけマスメディアが影響力を持っているのだから、やはり国民を、いい意味で啓発する、知らしめるというか先導するというか、そういう役割はあると思います。
傘木:そういうことを全面に出して番組づくりをしてくれというスポンサーがどんどん声を上げてくれると、もしかしたらうまく成り立つのかもしれませんね。
(写真 左:対談中の北野大教授(淑徳大学) 右:同 傘木(産業環境管理協会))
(『企業を動かすのは消費者、それを応援するのがメディア』 へ続く〔PDFファイルにて、ご覧ください。〕)
『企業を動かすのは消費者、それを応援するのがメディア』 ~ 『産業環境管理協会の今後のミッション』については、下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
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2014年1月
國部 克彦氏(神戸大学大学院経営学研究科 教授)にきく(2014年1月)
聞き手:黒岩 進(一般社団法人産業環境管理協会 専務理事)
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- 環境と会計を連携させて「環境経営」を促進する(本ページに掲載)
- サプライチェーン内部で話し合って隠れていたムダを削減(本ページに掲載)
- 行き過ぎた品質、オーバースペック(過剰品質)にも原因
- 廃棄物発生はサプライチェーンの原材料、仕様書、納期などが原因
- アジアの競争優位を獲得するための環境経営
- 環境経営に役立つMFCA
- ドイツで開発され、国内では日東電工、キャノンが最初に導入
- 中小企業や新興国にメリットが大きいMFCA
- MFCA導入を成功させるにはトップマネジメントの理解が必須
- MFCA導入の成功事例
- アニュアル・レポートでのサステナビリティ関連情報の開示が今後の世界トレンド
- 環境と戦略の関係を開示することが重要
- 経済の持続可能性のためにも環境経営による長期スパンが必要
環境と会計を連携させて「環境経営」を促進する
黒岩:今回の新春インタビューでは、会 計を媒介に環境と経営を結びつけるという分野で先駆的な業績を残され、またMFCA(マテリアルフローコスト会計)のISO 化で中心的役割を果たされた神戸大学の國部克彦先生をお迎えして、環境経営について語っていただきたいと思います。最初にお聞きしたいのは、環境経営というコンセプトについてです。
國部:「環境経営」は日本生まれの言葉です。これは英語にするとエンバイロメントマネジメントになります。ところが、この英語を日本語に訳すと「環境管理」になってしまい「環境経営」とはかなりイメージが異なってしまいます。一方、「環境管理」は英語でエンバイロメントマネジメントシステム(EMS)と なり、ISO 14001などを指します。
「環境経営」は、2000年頃から日本企業で使用されはじめ、工場や現場レベルよりももっと広い意味を持っています。つまり、環境経営という言葉は、日本では企業のトップマネジメントが「環境に対して全社的に取り組んでいく」という形で普及してきました。
黒岩:では、企業における「環境経営」の意義はどのようなものなのでしょうか?
國部:実際、「環境経営」といっても掛け声だけでは、本当にやっているかどうかわかりません。「環境管理」であれば、現場における省資源・省エネ、廃棄物を減量する、有害化学物質を削減する、CO2を削減する、といった具体的目標に向かってEMSを活用できます。一
方、「環境経営」では、企業全体の中で目標を設定し環境戦略の中に取り入れることが必要です。環境管理レベルとは異なる対応が必要になります。
黒岩:経営学や会計学の分野で環境に着目するというのは比較的新しい試みと思われますが、國部先生はどういった契機で環境経営や環境会計に取り組まれたのでしょうか。
國部:企業存在の主目的は環境を守ることでなく利益追求ですが、経済活動をする主体の中に環境という要素を盛り込まない限り「環境経営」とはいえません。企業の経済活動を測定し評価しているのは会計システムなので、環境と会計を連携させることで「環境経営」を促進できるのではないか、というのがもともとの研究動機です。
サプライチェーン内部で話し合って隠れていた無駄を削減
黒岩:少し具体的になりますが、環境経営において社内のみならず、原材料納入者、外注・協力会社、物流関連なども注目されつつあります。こういったサプライチェーン全体をじっくり俯瞰すると、付加価値がどこで発生しどこでムダが生じているかが判明するといわれていますが、サプライチェーンの中で実際のロス削減の成功事例をご教示いただきたいと存じます。
國部:サプライチェーンに関してはいろいろな事例があります。産業環境管理協会が経済産業省から請け負ったサプライチェーンをベースとした省資源事例などにも成功例があります。
プラスチックのロール材をつくる中小企業と、それを原材料にして製造加工をする大企業の例で説明します。ロール材の長さがたとえば800mでスペックが決まっているとします。そのサプライヤーは800mで納入するのですが、そこは数十人しかいない工場で、技術的な限界もあり、どうしても最後の製品は600mとか500mの短尺になってしまいます。そうなるとスペックの標準は800mだから、短尺は全部ダメだと思ってもう一度最初からつくり直すわけです。つくり直すというのはそれだけロスですが、両者が会って話をすると、バイヤーのほうは800mでも600mでも、その長さの割合で値段に反映してくれたら、あとは機械にかけるだけだから短いものも含めて買いますよということで、それだけロスが削減できたわけです。これはサプライチェーン内部で話し合うことでロスを削減できた事例です。
(『行き過ぎた品質、オーバースペック(過剰品質)にも原因』 へ続く〔続きはPDFファイルにて、ご覧ください。〕)
【環境管理|2014年1月号|Vol.50 No.1 】
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2013年10月
特別対談:日立製作所 川村会長にきく(2013年10月)
およそ100年前、「ベンチャー企業」だった日立が製作した5馬力モータ(電動機)は我が国における革新的なイノベーションとなった。その開拓者精神は約100年後に、鉄道発祥の地であるイギリスに最新鋭車両866台を供給するという偉業も成し遂げた。同社は今後、電力や交通システムなど複数インフラをIT技術で結びつけてエネルギーの低炭素化や省エネを効率的に実現できる「社会イノベーション事業」に取り組み、グローバル社会全体の環境負荷低減を目指す。本記事では、日立製作所・川村隆会長に当協会・冨澤龍一会長とご対談いただき、創業時のエピソードから2009年のV字回復、さらに今後もっとも重要視するグローバル人材教育までを語っていただいた。
(写真 左:川村会長(日立製作所) 右:冨澤(産業環境管理協会))
冨澤:本日はご多忙のところお話しを伺わせていただく機会をいただき誠にありがとうございます。日立様には当協会の創立以来、中心メンバーとして協会運営に多大なるご支援をいただいております。機関誌「環境管理」の読者に代わってお話しをお聞きしたいと存じます。
||| コンテンツ |||
1.5馬力モータとベンチャー 2.日立創業の精神 3.事業展開の側面 4.英国鉄道ビジネス
5.教育問題 6.社会イノベーション事業 7.将来の展望 8.産業環境管理協会に対する期待
1. 5馬力モータとベンチャー
冨澤:多分野にわたる事業をグローバル展開されている日立製作所では創業から現在まで環境に配慮した事業をなさっています。川村会長は日立工場の工場長もおやりになったと聞いております。日立製作所は創業100年を超えていますが、最初に創業時のお話をお聞きしたいと思います。
川村:創業は1910 年ですから、世の中では人力車が走っており洋服を着る人もほとんどいなかった時代です。創業者小平浪平は銅の掘削や製錬などに使う機械の修理工場を受け持っていたのですが、ベンチャーカンパニーをつくろうと決心していたのです。
銅鉱山では巻き上げ機とかトロッコなど機械もたくさん使われていましたが、当時、それらが全部輸入品だったのですね。モータといったものまでアメリカやドイツから買ってこなければならなかった。その修理を創業者はやっていたのです。それ以前に小平が勤務していた鉱山や電力会社で使われていた機械も全部輸入品だったので、彼はなんとか自分で機械をつくってみたいと強く思ったのです。
冨澤:現在も堂々たるリーディングポジションを持つ日立モータが最初に開発される場面ですね。テレビで誕生のエピソードを拝見したことがあります。ところで、創業時は開発資金の調達や人材面でも大変だったのではないでしょうか。
川村:鉱山経営者の久原さんは投資に当初難色を示しましたが、小平の熱意に負けて、最終的に「少しやってみろ」ということになり、なんとか開発に着手できたのです。それで、僅か数人の職工と設計者だけで5馬力モータを3 台つくってしまうんですね。
冨澤:ゼロからの開発は大変なことだったと思います。
川村:モータの絶縁物には、無機のマイカ、雲母を使うんですが、製造がとても難しかったんです。製造機械を英国から輸入したり、コイル巻線機を自作したりと大変でした。
冨澤:モータはすぐに実用化され炭鉱で使われたのですか?
川村:ベンチャー企業として自作したモータは、過酷な環境であった鉱山で実際に使用できたのです。1 台は70年という一生を全うし日立事業所内の記念館で今も大事に飾っています。創業100周年記念パーティーでは5馬力モータを会場に展示して、ベンチャー企業として日立が創業したことを皆様にお伝えしました。
冨澤:創業者は教育面でどのような活動をされたのでしょうか?
川村:そうですね、今でも感心することは、創業と同時期に技能教育の学校をつくったことですね。教育に関しては当初より非常に熱心でした。
冨澤:人が大変少ない創業時から学校、人材教育に力を入れたことは素晴らしいですね。
川村:実際は読み書きそろばんから始めたようです。相当な覚悟だったと思います。創業7~8年の段階で研究開発部隊をすでにつくっています。研究開発はベンチャー企業にとって大変なことだったと思います。今のベンチャー企業に負けないような経営でしたね。
冨澤:創業時から学校を設けて教育に打ち込んだベンチャーは今でもあまりないと思います。
川村:現在売上で国内10位以内、世界50位ぐらいの大企業になっていますが、ベンチャー企業として始まったということを我々は大事にしています。
冨澤:茨城県の日立に世界で一番高い煙突があったことは有名です。当時としては排煙の拡散技術も素晴らしいし、環境に関する意識も相当高かったのでしょうね。
川村:銅鉱山は公害の種でした。当時、別子銅山や足尾銅山でも公害が大きな問題になっていました。それをなんとかしようということで日立鉱山(久原鉱業所)が煙の拡散を計算したところ、156mの煙突が必要なことがわかったのです。こんなに高い煙突の建設は大変なことでした。日立鉱山は1981 年に閉山し、煙突は私が日立工場長をやっていた1993年に倒壊してしまい、その後修復されて1/3の高さになりました。
冨澤:日立は桜で有名ですが植林もしていたのでしょうか。
川村:大気汚染をチェックするために桜を植えたのです。異常がなければ桜の花がちゃんと咲くというわけです。最初は心配だったので煙害に少し強い大島桜を植えました。それで問題が全くなかったので、次は普通の桜を植えていきました。植樹した界隈では今でもきれいな桜がたくさん咲きます。
ともかく、創業者の信念は今でもあちこちに残っていて、教育、品質といったことをしっかりやっていました。「環境」という言葉はあまり使いませんでしたが、リデュース、リユース、リサイクルはあちこちでやっていて、いわゆる3Rが生きていました。
冨澤:そういうことが先取りできたということは企業理念が極めて明白だった、しっかりできていたということでしょうか?
川村:そうだと思います。「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念は今も受け継いでいます。
(『2.日立創業の精神』 へ続く〔PDFファイルにてご覧ください。〕)
『2.日立創業の精神』 ~ 『8.産業環境管理協会に対する期待』については、下記よりPDFファイルをダウンロードのうえ、ご覧ください。
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2013年4月
特別対談:荒川詔四(ブリヂストン相談役・前会長) × 冨澤龍一(産業環境管理協会 会長)
ブリヂストン 荒川会長にきく —事業と環境の両立をめざすグローバル環境経営
世界有数のグローバル企業であるブリヂストングループは、事業と環境保護を高いレベルで組み合わせ、相乗効果を生みだしながら両者を持続的に成長させてきた代表例として国内外から大きな注目を集めている。また世界的規模の巨大グループ全体に環境コンセプトを浸透させ、全員で取り組む体制づくりを進めていることや、掲げた目標を確実に達成していくための工夫など、他の企業にとっても学ぶべき点は多い。本記事では、ブリヂストン・荒川詔四会長(2/26対談時会長、現在相談役)に当協会・冨澤龍一会長とご対談いただき、創業者・石橋正二郎氏から受け継がれたスピリットが「事業と環境の両立」という考え方にいかに反映されているか、という話から語っていただいた。(「環境管理」2013年4月号より)
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APPからGSEPへ—協力的セクター別アプローチの世界展開(続報)
GSEP電力ワーキンググループのインドネシアでの活動について
前田 一郎(電気事業連合会 地球環境部部長(国際問題担当))
「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)」が「エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ(GSEP:Global Superior Energy Performance Partnership)」に移行して電力ワーキンググループはGSEPとして第1 回の活動をインドネシアで実施した。イン
ドネシアは、エネルギー・鉱物資源省とPLN(電力会社)が参加した。
ジャカルタで1月21日に発電・送配電、需要管理技術に関するワークショップを実施した後、1月22日には西ジャワのスララヤ火力(4号機40 万kW)を訪問し、設備診断を実施した。
1月23日にはまとめを行い、閉会した。
インドネシアはこの活動の趣旨に理解を示すとともにスララヤ火力の所長・スタッフは大変丁寧に対応をしてくれた。日本・米国・英国からの主席者はこれまでのAPPの実績と役割、官民パートナーシップである意義などが紹介された。個別にはGSEPが特に既設石炭火力に
焦点を置いて熱効率を維持することを活動の中心とする意味、デマンドサイドマネージメントの制度設計上注意しなればならない点などを取り上げた。
スララヤ火力の訪問では、個々の問題点の指摘を発電所関係者との間で共有し、最大2%の効率の改善が見込まれ、年間6万4千tの燃料節約、15万tのCO2削減が図れることを紹介した。
この活動の内容はクリーンエネルギー大臣会合(4月インド)で報告をされる。今後、活動の認知度を上げていくことが重要である。産業部門の省エネ・環境対応を促進する国際イニシアティブとして,日米政府の主導の下,APPからその成果を受け継ぎ2010年にGSEP(Global Superior Energy Performance Partnership)(セクター別ワーキンググループ(WG))は正式発足した。2011年度には2回 の会合を開催し,さらなる参加国拡大や取組の具体化等の課題は指摘されたものの,多くの参加者を得,その活動の進展に対する期待が共有された。今後,我が 国が主導するボトムアップアプローチを体現する組織として,官民協力という特徴を活かしつつ,気候変動交渉への効果的なインプットも含め,その活動の発展 が期待されている。(「環境管理」2013年4月号より)
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2013年3月
APPからGSEPへ—協力的セクター別アプローチの世界展開
2010年7月のクリーンエネルギー大臣会合において、「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」(APP)を発展的に解散し、日米が共同提案したエネルギー効率向上に関する新たな国際枠組として「エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ」(GSEP)の 設立が決定された。環太平洋7か国から世界全体での官民連携へと枠組が拡大されたといえるが、6つのワーキンググループのうち、日本では「鉄鋼」「セメン ト」「電力」の3つについて活動を継続、拡大していく予定である。新たな枠組みの全体像と日本における3つのタスクフォースについて報告する。(「環境管理」2012年6月号より)
エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ(GSEP)の目的と概要
河野 孝史(経済産業省 地球環境対策室国際交渉担当補佐)
産業部門の省エネ・環境対応を促進する国際イニシアティブとして,日米政府の主導の下,APPからその成果を受け継ぎ2010年にGSEP(Global Superior Energy Performance Partnership)(セクター別ワーキンググループ(WG))は正式発足した。2011年度には2回 の会合を開催し,さらなる参加国拡大や取組の具体化等の課題は指摘されたものの,多くの参加者を得,その活動の進展に対する期待が共有された。今後,我が 国が主導するボトムアップアプローチを体現する組織として,官民協力という特徴を活かしつつ,気候変動交渉への効果的なインプットも含め,その活動の発展 が期待されている。
日本語版のダウンロードはここをクリック GSEP総論(日本語版)
英語版のダウンロードはここをクリック GSEP総論(英語版)
GSEP鉄鋼WGについて
岡崎 照夫(一般社団法人 日本鉄鋼連盟 国際環境戦略委員会 委員長)
手塚 宏之(一般社団法人 日本鉄鋼連盟 国際環境戦略委員会 幹事)
中野 直和(一般社団法人 日本鉄鋼連盟 国際環境戦略委員会 幹事)
寺島 清孝(一般社団法人 日本鉄鋼連盟 国際環境戦略委員会 事務局)
中国・インドなどの成長により中長期的にも世界の粗鋼生産が拡大基調で推移していくことが見込まれているなか、鉄鋼業はエネルギーを多く使うことから、日本の優れた省エネ・環境技術の世界中の製鉄所への移転は、地球規模で見た際の持続可能な社会形成に不可欠である。日本鉄鋼業界は、省エネ・環境技術普及のための協力的セクトラルアプローチを推し進めており、とりわけ技術に基づくボトムアップ型の官民連携アプローチであるGSEP (エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ)鉄鋼WG(ワーキンググループ)はその中核をなす取組である。本稿では、鉄鋼業界が取組む協力的セクトラルアプローチをStepごとに分けて解説し、官民連携の意義、APP(クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ) 鉄鋼Task Force(特別作業班)からGSEP 鉄鋼WGへの移行した経緯、GSEP鉄鋼 WGの概要を紹介していく。
日本語版のダウンロードはここをクリック GSEP鉄鋼WG(日本語版)
英語版のダウンロードはここをクリック GSEP鉄鋼WG(英語版)
セメント産業におけるセクター別アプローチとGSEPの取り組み
和泉 良人(社団法人 セメント協会)
官民が連携した国際的なセクター別アプローチは、2006年に開始された「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)」が代表的な事例であり、その後「エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ(GSEP)」 に引き継がれた。GSEPのセメント部会は、APP7カ国に加えて、欧州、ブラジル、南アフリカのセメント協会や欧州セメント研究機関(ECRA)などが 参加を希望しており、これまでAPPで行なってきた既存技術の普及・促進や新技術の開発、人材育成プロジェクト に加え、測定・報告・検証(MRV)方法論 や資金支援メカニズムなどの政策的な議論をする場になることを期待したい。
日本語版のダウンロードはここをクリック GSEPセメントWG(日本語版)
英語版のダウンロードはここをクリック GSEPセメントWG(英語版)
電力セクターにおけるAPP活動の実績とGSEPへの取り組み
前田 一郎(電気事業連合会)
電力セクターはAPP(ク リーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ)活動の中で、火力発電所運転保守管理のピアレビューを「発送電タスクフォース」の主要なアクショ ンプランと位置づけて推進してきた。ところが米国は政権が民主党に代わったことからAPP活動の終了が提案されたが、APP活動が重要であると考える日本 他の関係者は、新たに成立したGSEP(エ ネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ)のワーキンググループにAPPの活動と経験を引き継がせることとした。GSEPの元で日本が議長となり、 パワーワーキンググループが今年立ち上った。GSEPにおいては関係国を拡大すること、官民パートナーシップの中、民の資源を一層活用する必要から電力の 民間の国際的イニシアティブである「国際電力パートナーシップ」が関わることとした。
日本語版のダウンロードはここをクリック GSEP電力WG(日本語版)
英語版のダウンロードはここをクリック GSEP電力WG(英語版)
これからの環境経営(「環境管理」2013年1月号より)
グリーンキャピタリズムとこれからの環境経営―新しい経済モデルをどう実現させるか
細田 衛士(慶応大学 経済学部教授)/聞き手:黒岩 進(一般社団法人 産業環境管理協会)
「環境にやさしい企業」を目指し、その活動を社会へアピールしていくことが「環境経営」であり、その効率、効果、貢 献という点で日本の企業は世界でもトップレベルにあるといえる。反面、その活動が企業の「儲け」につながるようなビジネスモデルはまだ少なく、世界の動き に大きく遅れをとっている。
ビジネスと環境を両立させる「グリーンキャピタリズム」が今後どれくらい進化し、世界に先駆ける「ジャパンモデル」を実現していくか。環境経営のこれからの展望について慶應大学の細田衛士教授に聞いた。
PDFのダウンロードはここをクリック グリーンキャピタリズムとこれからの環境経営
環境汚染と賠償責任(「環境管理」2012年11月号より)
役員が個人として負担する責任
大岡 健三(一般社団法人 産業環境管理協会)
環境汚染などで自社や第三者に損害が生じた場合に、会社役員が株主等から損害賠償請求を受けることがある。そのため役員は、①善管注意義務、②忠実義務、③ 監視・監督義務などに違反しないように十分留意する必要がある。法令遵守はもちろんのこと、公害防止管理者等の継続的教育含め、その役割の見直しなど万全 の体制を構築する必要があるかもしれない。小論では会社役員の個人責任について基礎的事項を分わかりやすく解説する。多重代表訴訟制度や会社役員保険、環 境保険についても簡単に報告する。
PDFのダウンロードはここをクリック 会社役員が個人として負担する責任
環境汚染をめぐる役員責任−石原産業事件を中心に
手塚 裕之(西村あさひ法律事務所 弁護士)
藤田 美樹(西村あさひ法律事務所 弁護士)
環境汚染を担当する取締役としては、従業員等の報告において疑わしい点がないかを検証しつつ、当時の知見として合理的な方法で、環境汚染の防止のための情報収 集・調査・検討等をする必要がある。但し、環境汚染の分野においては、要求される知見水準が刻々と向上しているものであるから、現在採用されているやり方 で問題ないかについて、適宜の見直しも重要となる。
環境汚染を担当分掌しない取締役であっても、取締役会での報告等で情報を得た範囲では、真摯に検討し対応する必要がある。そのため、少し問題 がありそうだとは思うものの、よくわからない分野であるから、担当取締役に任せておけば良いとの判断は極めて危険であり、株主代表訴訟を提訴され巨額の賠 償責任を負わされる根拠となり得る点を認識すべきであろう。
PDFのダウンロードはここをクリック 環境汚染をめぐる役員責任