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<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第145回】漁業補助金とWTO漁業補助金協定:我が国の漁業補助金の現状と協定が国内政策に与えるインプリケーション
真田 康弘(早稲田大学 地域・地域間研究機構 客員主任研究員・研究院客員准教授)
▼概要文表示2024年3月号
SDGsでもIUU漁業や過剰漁獲に寄与する補助金の禁止が謳われているように、漁業補助金の規制は国際的なアジェンダとして注目を集めつつある。こうしたなか、2022年に世界貿易機関(WTO)は漁業補助金協定を採択、当該問題に関する初めてのグローバルなルールを規定した。他方、我が国の水産業における漁業補助金の額と関連予算に占める割合は国際的にみても高い。本稿では漁業補助金協定の内容を紹介するとともに、それがどのように我が国の水産政策や予算に関するインプリケーションを有するのかを論じるものとする。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第144回】環境条約の目的実現過程・再論 ─ 日本におけるワシントン条約の実施に焦点をあてて─(上)
鶴田 順(明治学院大学 法学部 准教授)
▼概要文表示2024年2月号
本稿は、環境条約が設定した目的の実現に向けた動態的な過程の一つの場面・過程を担う条約の国内実施について、日本における実施にしぼって、また条約規範をふまえた国内法の整備(国内法化)の局面に焦点をあてて、次の二つの点を具体的に検討・整理する。第一に、環境条約の国内実施の「国内法化」の局面を条約目的の実現に重きをおいて観察し、日本における環境条約の実施を既存の法律あるいは新規立法で図ろうとすることのそれぞれの意義と問題点などを整理する。第二に、条約の国内実施の「国内法化」の局面を動態的視点で観察し、日本における環境条約の実施における「時の経過」への考慮や対応についての現状と課題を整理する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第143回】CITESの国内実施と実効性確保の課題
田中 良弘(立命館大学 法学部 教授)
▼概要文表示2024年1月号
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)の国内実施に関する法的仕組みは、外為法や関税法の定める輸出入規制が中心となっており、種の保存法に基づく国内取引規制は補完的措置と位置付けられることから、法執行においては、CITESの理念である絶滅のおそれのある野生動植物の保護よりも、経済の健全な発展や税関手続の適正な処理という外為法や関税法の目的が優先される法構造となっている。CITESの変容に国内法が十分に対応するには、CITESの理念と国内担保法の目的を整合させないまま外為法や関税法の定める法的仕組みを借用して国際取引規制を実施するという現在の国内担保措置の構造を見直す必要があると思われる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第142回】ワシントン条約の実施メカニズム─マルチレベル・ガバナンスの視点から─
村上 裕一(北海道大学 大学院法学研究科 准教授)
▼概要文表示2023年12月号
野生生物の生存確保を目的に掲げるワシントン条約(CITESサイテス)は、1990年代中盤以降、野生生物の国際取引の全面禁止から、その「持続可能な利用」のために、科学的根拠に基づいてその国際取引を管理する方向へと舵を切ってきている。ある野生生物の取引を規制対象にするか除外するかを議論・交渉する国際政治過程も興味深いが、近年では、締約国で合意したことをどう確実に実施・実行していくかということにも研究の関心が広がってきている。本稿では、マルチレベル・ガバナンスの観点からCITESの条約実施メカニズムを見た上で、①法令に基づく規制・警察・税関といった専門行政・司法機関、②横割り法令に基づくそれらの連携・協力、③ワンヘルス・アプローチによる公衆・食品衛生などとの政策統合の重要性を論じる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第141回】ワシントン条約における海産種(サメ・エイ)規制:その背景と展望
真田 康弘(早稲田大学 地域・地域間研究機構 客員主任研究員・研究院客員准教授)
▼概要文表示2023年11月号
2022年のワシントン条約締約国会議では、メジロザメ科のサメ全種の附属書Ⅱ掲載が採択され、これによりヒレが利用されているサメの大半が同条約の国際的規制下に置かれることとなった。本稿では、ワシントン条約でこれらの種が規制されるに至った要因として「政策の窓」モデルを踏まえつつ、①問題の存在(サメ資源の減少)、②政策起業家(科学者、NGO)の動き、③他のイシューで結束し行動する国々との緩やかな連携、を挙げて検討を行うとともに、日本の対応と今後の展望に関して簡単に触れるものとする。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第140回】CITESにおける木材規制
遠井 朗子(酪農学園大学)
▼概要文表示2023年10月号
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)では、2000年代以降、違法伐採への対応として木材規制が進展している。本稿はオオバマホガニーとローズウッドの事例を通してCITESにおける木材規制の意義と課題を検討し、オオバマホガニーについては、中南米諸国が受け入れに転じた背景を明らかにする。ローズウッドについては、中国の巨大市場に誘発されてアフリカの木材の違法取引が拡大する中で、類似種を含む広範な規制が導入され、「注釈」により実務への影響の軽減が図られたことを明らかにするとともに、CITESの規制は米国の違法木材に関する法執行にも一定の影響を及ぼしていることを指摘する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第139回】世代間衡平概念にみる将来世代の権利論 ─ 最近の気候変動訴訟からの示唆─
鳥谷部 壌(摂南大学 法学部 講師)
▼概要文表示2023年9月号
世代間衡平という概念は、国際法の分野においては、未だ存在しない将来世代のために、今を生きる現在世代に対し応分の負担や配慮を求める考え方として捉えられている。アメリカの国際法学者ブラウン・ワイス(Brown Weiss)は、1989年、世代間衡平を将来世代の「集団的権利」とみなす理論(いわゆる将来世代の権利論)の構築を試みた。しかし、その後、この理論の深化は長らく停滞していた。
ところが、最近、気候変動に関連する世代間訴訟において、世代間衡平概念を基礎とする将来世代の権利論が再び脚光を浴びつつある。本稿は、権利論が、将来の誰にどのような権利を認める考え方として構築可能かを、気候変動訴訟の代表的な事例の検討を通して明らかにすることを目的とする。この課題の考察は、権利論の再構築についての手がかりを見出すことにつながるものと考えられる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第138回】鳥インフルエンザの家畜伝染病予防法上の対策と 防疫措置の実務及びその課題について ─ 来た、見た、捕った─
宇野 雄一郎(千葉県 防災危機管理部 危機管理政策課 政策室(令和4年度 防災危機管理部 政策法務主任))
▼概要文表示2023年8月号
近年、鳥インフルエンザの流行と鶏卵不足による社会生活への影響が世間の耳目を集めている。本稿では、鳥インフルエンザの防疫措置の実体験を踏まえて、鳥インフルエンザ対策について規定する家畜伝染病予防法の内容を解説しつつ、防疫措置の実務やその課題について考察する。特に防疫措置の課題については、2023年3月に茨城県において成立した「茨城県鳥インフルエンザの発生の予防及びまん延の防止に関する条例」について取り上げることとしたい。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第137回】「 ビジネスと人権に関する国連指導原則」再考 ─ 人権と環境デューディリジェンスのつながりを考える─
山田 美和(日本貿易振興機構(ジェトロ) アジア経済研究所 新領域研究センター長)
▼概要文表示2023年7月号
ビジネスと人権のあり方を規定する「ビジネスと人権に関する国連指導原則」は、2011年の成立から10年余り、国家、企業、市民社会共通のグローバル基盤となり、企業活動に関する各国の様々な政策に影響を与えている。今年4月G7気候・エネルギー・環境大臣会合では、気候変動、エネルギー、環境問題への取組みには、人権尊重の取組みが伴うことがあらためて確認された。企業はステークホルダーとのエンゲージメントを通して、人権と環境のデューディリジェンスを相乗的に実施する必要がある。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第136回】ナノ・マイクロプラスチック汚染の予防的な法的制御の可能性 ─現状と課題を踏まえた環境行政法学からのアプローチ─
中山 敬太(九州大学 科学技術イノベーション政策教育研究センター 助教)
▼概要文表示2023年6月号
本稿では、ナノ・マイクロプラスチック汚染の現況を踏まえ、懸念されている身体的悪影響のメカニズムやそのリスク等を整理し、当該問題に対する国内外の予防的な法的制御の現状と課題を示す。その上で、環境行政法学上のアプローチから、「製品ライフサイクル」、「発生プロセス」、「アクター(主体)」、「用途分野」、そして「生産量・使用量・利用頻度」の5つの観点で規制区分を設けることが、このナノ・マイクロプラスチック汚染に対する法的許容性及び法的妥当性等を含む実効性を担保した予防的な法的制御を可能にする規制・管理のあり方になり得ることを示した。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第135回】米国ケープ洋上風力発電事業の頓挫とブロック島洋上風力発電事業の成功
小林 寛(信州大学 経法学部 教授)
▼概要文表示2023年5月号
ケープ洋上風力発電事業は、米国における最初の洋上風力事業となるはずであったが、数多くの訴訟を含めて難局に直面し、開発事業者は、2017年12月、事業からの撤退を表明した。当該事業とは対照的に、ロードアイランド州の沿岸に位置するブロック島洋上風力ファームは2016年に完了・操業開始したとされ、米国で最初の洋上風力ファームとなったとされている。ケープ洋上風力発電事業に係る法的論点を考察し、ブロック島洋上風力発電事業の成功と比較することは日本の洋上風力発電事業の発展にも寄与するものと考えられる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第134回】EU のプラスチック法政策の検討―包装及び包装廃棄物規則案とバイオプラスチック政策枠組み(2022年11月30日)を中心として
中村 健太郎(一般社団法人産業環境管理協会 主幹)
▼概要文表示2023年4月号

プラスチック汚染に対する法的拘束力のある国際文書(条約)を策定するため、国連環境計画(UNEP)の下で国際交渉が開始されている。国際文書の中では、規制的アプローチと自主的アプローチの両方が検討されることになっており、各国にどのような目標や義務が課せられるのか今後の進展が注目される。国際交渉を読み解く一つの鍵になるのは、プラスチック廃棄物対策を法規制で積極的に推進するEUの動向である。
2022年11月30日に欧州委員会から包装廃棄物を対象とする新たな規則案とともに、バイオプラスチックに関する政策枠組みが公表された。本稿ではEUの最新動向を中心として、今後のプラスチック汚染のための法政策を検討していく。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第133回】海中音害に関する法的規制の現状と課題─音の影響を受ける対象の広がりを視野に─
中田 達也(神戸大学大学院海事科学研究科附属 国際海事研究センター 国際海事政策科学研究部門 准教授)
▼概要文表示2023年3月号

人為的に出された音は、海洋生物の居場所探しや交信を妨げることがある。国連海洋法条約(以下、UNCLOS)が発効してまもなく30年になる。同条約は海洋に関する包括的な条約だが、海洋生物を海洋環境の一環と把握すれば、音によるそれらへの損害は海洋生態系に及ぼす音害として解釈されることになる。国際海事機関(以下、IMO)諸条約で音響を規制しても、それは当然に海洋生物への音害規制に及ぶものとはならない。そこで、本稿は海中騒音のもたらす現状をみた後、それを海洋汚染と解釈する立場から実効的な法規制への道程を実証的に辿ることとする。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第132回】洋上風力発電事業に関わる戦略的環境アセスメント 〜スコットランドを事例に〜
竹内 彩乃(東邦大学 理学部 生命圏環境科学科 講師)
▼概要文表示2023年2月号

近年注目されている洋上風力発電事業は、規模が大きく、長期的に運転することになるため、海域だけでなく陸域のステークホルダーにも影響を及ぼすと考えられる。しかし、現行法において陸域のステークホルダーが参加する機会は限定されている。スコットランドでは、洋上風力発電事業も含む国家海洋計画の策定段階で、戦略的環境アセスメントを実施し、洋上風力発電事業による陸域への社会・経済的影響についても評価している。本稿では、本事例を紹介し、わが国における洋上風力発電事業の推進に向けた示唆を得ることを目的とする。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第131回】地球全体でのフロン、メタン削減の重要性
笠井 俊彦(一般社団法人フロン等温室効果ガスグローバル削減推進協議会(FGRA) 会長/フロン等グローバル削減研究所 代表)
▼概要文表示2023年1月号

地球温暖化というと化石燃料利用によるCO2ばかりが着目されがちであるが、短寿命気候強制因子(SLCF)の1つであるメタンは、短期で分解するものの温室効果が高く、IPCC第6次第一作業部会報告でも削減の重要性が指摘されている。また、フロン類(CFC、HCFC、HFC)も強力な温暖化物質であり、生産や輸出入は規制されているものの、冷媒として充填された機器からの大気排出は多くの国で規制されていない。COP26において、多くの国が参加した、グローバル・メタン・プレッジは地球全体での温暖化物質削減のための新しい方法を示している。途上国で現在大量排出されているオゾン層破壊物質(ODS)であるCFC、HCFCはパリ協定の対象ではないが、地球全体での温室効果ガス削減のために、ODS(CFC、HCFC)削減をパリ協定の追加貢献として位置づけ、国レベルでのより実効的な途上国支援と、国際的なリーダーシップを望みたい。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第130回】第44回ロンドン条約および第17回同議定書会合雑感
岡松 暁子(法政大学 人間環境学部 教授)
▼概要文表示2022年12月号

 2022年10月3日から10月7日にかけて、ロンドンの国際海事機関(IMO)にて、ロンドン条約 および同議定書の締約国会合が開催された。本稿は、本会合で検討された議題のうち海底下地層への二酸化炭素隔離(CCS)(議題6)と、放射性廃棄物の管理の関連する事項(議題11)について簡単に紹介するとともに、今後の展望について述べることとする。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第129回】革新的環境技術開発の現状とオープンイノベーション
小松 英司(明治大学 環境法センター 専門研究員)柳 憲一郎(明治大学 名誉教授 明治大学環境法センター)
▼概要文表示2022年11月号

 IPCC(2022)が指摘する化石燃料の使用量の大幅な削減、低排出量のエネルギー源及び代替エネルギーキャリアへの転換、エネルギーの効率向上と節約・カスケード使用など、都市・社会構造とともに革新的転換の必要性の提言を踏まえ、わが国の実情に鑑み、大規模削減を推進するために必要な知識・資源と投資を共有、流動化させる社会制度の構築が不可避である。本稿では、わが国の省エネ及び革新的環境技術開発の現状を把握するとともに、サステナビリティのための革新的環境技術の思考と行動とそれを担保するイノベーションモデルについて論ずる。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第128回】諫早湾干拓訴訟最高裁判決後の福岡高裁差戻審判決の問題点
長島 光一(帝京大学法学部 講師)
▼概要文表示2022年10月号

 長期にわたり漁民が原告として訴訟を続けてきた諫早湾干拓紛争は、2019年の最高裁判決を経て、差戻審で審理が続いていた。裁判所による和解協議も提案されたが、国が拒否したことで和解は打ち切られ、2022年3月25日に国の主張を認める判決が下された。もっとも、その判決には多く問題があり、検証が必要といえる。本稿では、諫早湾干拓紛争の裁判の経緯を追いつつ、差戻審の課題と今後の展望を指摘する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第127回】ウズベキスタン共和国における国家権力の地方機関の形成に関する歴史
ハキモフ・サイドイスロムベク(ウズベキスタン共和国 最高裁判所 書記官)監修:江原 菜美子(明治大学 情報コミュニケーション学部 兼任講師)
▼概要文表示2022年9月号

 ウズベキスタン共和国において、国家権力の地方機関は何世紀にもわたって形成された豊かな歴史を有している。その背景には、中世の封建制度に基づく自治行政や、社会主義思想による統一的な管理階層制が存在し、現在の強大な行政権に基づく国家権力構造へと繋がっている。
 本稿では、同国の国家権力の地方機関の形成に関する歴史的過程を検討し、過去及び現在の法令を分析することで、現在の地方機関がいかに形成されてきたか、その経緯を詳細に紐解いた。そして、近年の政策目標として、さらなる市場経済への移行を目指し、地方機関の権限の拡大と分権化を目指した制度改正を検討していることが明らかになった。こうした動きは、同国の環境政策を理解するうえでの重要な背景事情となるだろう。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第126回】アメリカにおけるCOVID-19をめぐる訴訟
辻 雄一郎(明治大学 法学部(環境法センター) 教授)
▼概要文表示2022年8月号

本稿では、COVID-19をめぐる州の感染対策をめぐる合衆国裁判所の判断を検討する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第125回】環境社会配慮をめぐる最近の国際動向
辻 昌美(明治大学 公共政策大学院 ガバナンス研究科 特任教授)
▼概要文表示2022年7月号

世界銀行やアジア開発銀行(ADB)をはじめとする国際開発援助機関では、環境影響評価や住民移転計画など、個別プロジェクトによる負の影響を回避・緩和するための政策を策定・実施している。世界銀行では2016年に政策の大幅な見直しが行われ、2018年から運用が始まった。他の機関でも同様の見直しの動きがある。これらについて、見直しの状況、背景となる内外の要因、既存政策の運用上の課題を見てみることとする。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第124回】洋上風力における水中音の国際規制に関する最近の動向 ─ 海洋哺乳類等の騒音暴露基準について─
塩田 正純(元 工学院大学大学院 教授)
▼概要文表示2022年6月号

洋上風力発電の建設時に杭打ち等から発生する水中音が、海洋環境を住処としている哺乳類や魚類等に潜在的な影響を与える可能性を示唆している海外の論文・技術報告等により公表されてきている。だが、我が国ではまだその影響等についての研究や調査等は数少ない。本報告は、それらの文献レビュー等を主体にした「国際規制の対象となっている海洋哺乳類等の水中音における騒音暴露基準」について、最近の動向や課題も含めて紹介するものである。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第123回】ナノテクノロジー規制の近年の国際的動向 ─ 2014年以降のアメリカとEUの規制比較を中心に─
中山 敬太(早稲田大学社会科学総合学術院 助手)
▼概要文表示2022年5月号

本稿は、萌芽的科学技術であるナノテクノロジーの科学的不確実性をともなうリスクに対する法的予防措置に関する近年の国際的動向を概観し、日本における規制状況や今後の立法政策上の課題等を示した内容である。具体的に、関連する先行研究を踏まえ、2014年以降のアメリカとEUの規制動向を比較検討した結果、2013年までの当該法的予防措置に対する規制アプローチの構造に関して大きな方針転換がなかったことおよびアメリカにおいて「予防原則」の制度趣旨や考え方をより援用した動きが一部見受けられることが明らかとなった。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第122回】地方自治体のいわゆる「盛土条例」の考察 ─ 2021年7月静岡県熱海市の土石流災害をとおして─
宇野雄一郎(総務省消防庁国民保護・防災部防災課国民保護室企画係長(兼)計画係長)
▼概要文表示2022年4月号

2021年7月に発生した静岡県熱海市の土石流災害は、梅雨前線の影響による大雨が直接的な引き金となっていると考えられるが、災害が発生した地域の上流部に人為的に盛土が形成され、この盛土の崩落が被害の甚大化につながったと推測されている。
本稿では、熱海市での土石流災害に対する対応状況に触れつつ、盛土に対する全国的な規制状況や、静岡県における規制状況、さらに新たな法案を次期通常国会へ提出をめざす国の動向についても紹介し、若干の課題の整理を行うこととする。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第121回】2021EU戦略と規制アセスメント
柳 憲一郎(明治大学 名誉教授・研究知財戦略機構研究推進員)
▼概要文表示2022年3月号

欧州連合(EU)の気候変動適応対策は、これまで2013EU適応戦略にもとづき、プラットフォームであるClimate-ADAPT(本誌2021年6月号参照)を運用することで実施されてきた。この戦略を改定し、新たに策定されたのが、「気候変動への適応に関する新しいEU戦略」(2021EU strategy on Adaptation to climate change、以下、「2021EU 気候変動適応戦略」という)である。この新たな戦略は、2050年までに気候変動の不可避的な影響に適応し、ヨーロッパが気候に強い社会になるための長期的なビジョンを提唱している。そこで本稿では、2021EU 気候変動適応戦略と、その策定時に実施された規制アセスメントの一部について紹介する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第120回】ベルギーの脱原発をめぐって
長谷 敏夫(ヘント大学PhD 研究員)
▼概要文表示2022年2月号

ベルギーでは、40年を越える老朽原発は2003年の脱原発法により廃炉にすると規定されている。ところが、7基の原発による発電量は全電気生産量の50%を占めてきた。2015年に2基の原発が廃炉になるとき、電気供給が不安定になり危機を招くとの政府判断により、脱原発法を改正して、廃炉にすべき2 基の原発の10 年の稼働延長を決めた。
 この措置に対し、二つの環境保護団体がベルギー憲法裁判所に訴を提起、2020年3月の判決で稼働延長は違法と認定され、政府は環境影響評価、意見の聴取、下院での再審議を命じられた。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第119 回】福島原発避難者訴訟の現状と課題 ─ 四つの高裁判決をふまえて─
長島 光一(帝京大学法学部 講師)
▼概要文表示2022年1月号

生態系サービスへの支払い(PES:payments for ecosystem service)とは、生態系サービスの恵みを享受している人々(受益者)が、その利用内容と規模に応じて適正な対価を支払うことである。生態系サービスへの支払いは、受益者負担原則に基づくものと解されている。本稿においては、イギリス政府が公表する各種の報告書を題材として、生態系サービスへの支払いにおいて受益者負担原則がどのように反映されているかを明らかにし、受益者負担原則をめぐる今後の検討課題を指摘する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第118 回】生態系サービスへの支払いと受益者負担原則における「受益」
二見 絵里子(朝日大学法学部 講師)
▼概要文表示2021年12月号

生態系サービスへの支払い(PES:payments for ecosystem service)とは、生態系サービスの恵みを享受している人々(受益者)が、その利用内容と規模に応じて適正な対価を支払うことである。生態系サービスへの支払いは、受益者負担原則に基づくものと解されている。本稿においては、イギリス政府が公表する各種の報告書を題材として、生態系サービスへの支払いにおいて受益者負担原則がどのように反映されているかを明らかにし、受益者負担原則をめぐる今後の検討課題を指摘する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第117 回】ベトナムにおける気候変動政策を巡る動向
トアン・テ・ディン(ベトナム中部社会科学院(ISSCR)/地球環境研究センター 研究員)/中村 明寛(PhD/タスマニア大学 研究員)
▼概要文表示2021年11月号

世界の地球温暖化問題の解決に向けアジア太平洋における気候変動対策は重要な役割を担う。本稿では、ベトナムにおける気候変動に対する国内政策に着目し、その動向を考察した。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第116 回】有害鳥獣駆除─ 第一次産業との調整 ─ 有害鳥獣駆除に係る鳥獣保護管理と農林水産業被害防止の二元法制のこれまで─
小幡 雅男(元・大阪学院大学 教授)
▼概要文表示2021年10月号

野生動物(シカ・イノシシ・ニホンザル等)の個体群存続にとって、避けがたいのが一次産業との調整である。市町村長に許可権限が委譲され、農林業の被害に対して行われてきた捕獲等(有害鳥獣駆除)は、無計画で被害解消まで惰性で続けられ、研究者・自然保護団体から批判されてきた。その一方で鳥獣による農林業被害は、個体数や密度が少なくなっても絶滅させない限り被害はなくならず、生産意欲どころか定住意欲さえ奪う深刻な事態と訴えられている。
 北海道のエゾシカによる食害を契機に、米国や欧州のWildlife Managementに倣った特定鳥獣管理計画が1999(平成11)年に鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(当時)を改正して導入され、個体数調整が進められた。しかし農林業等の被害を減少する上で十分な成果につながってこなかったとして、2007(平成19)年に衆議院の農林水産委員会提出による「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(鳥獣被害防止特措法)」が制定され、被害防止計画作成市町村の長の許可による捕獲等(有害鳥獣駆除)が行われている。しかも、2021(令和3)年改正では都道府県知事が乗り出せるようにした。このようなこれまでの流れを紹介する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第115 回】建設アスベスト訴訟最高裁判決の概要
北河 隆之(弁護士・琉球大学 名誉教授)
▼概要文表示2021年9月号

最高裁判所第一小法廷は、令和3 年5月17日、建設アスベスト訴訟に関する4 件の判決を言い渡した。横浜訴訟、大阪訴訟、東京訴訟、京都訴訟の各上告審判決である。これにより、①国と建材メーカーの損害賠償責任が肯定され、②国の責任期間は昭和50年10月1日~平成16 年9月30日までとされ(石綿吹付作業との関係では昭和47年10月1日から昭和50年9月30日まで)、③一人親方(個人事業主)に対する責任も肯定された一方で、④屋外作業者に対しては国及び建材メーカー双方について責任が否定された。これら4判決の重要ポイントを本稿で整理する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第114 回】2050 年カーボンニュートラルをめぐる日欧米の法状況
中村 健太郎(一般社団法人 産業環境管理協会)
▼概要文表示2021年8月号

2020年10月に菅総理が宣言した2050年カーボンニュートラルは、地球温暖化対策推進法の基本理念として法制度化されるとともに、政府の経済成長戦略の目標になった。EUや米国においても、パリ協定に基づく長期目標及び中期目標の見直しが行われ、その達成は経済成長戦略と一体化している。しかし、具体的な削減手法やそのための法制度については日欧米とも今後の検討課題である。特に、カーボンニュートラルの吸収源として重要な技術となる炭素回収・利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CCUS)については、輸送や貯留の整備が課題である。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第113回】J-POWERにおけるCCUSへの取組み
水本 明彦(電源開発株式会社 技術開発部)
▼概要文表示2021年7月号
 カーボンニュートラル社会の実現には、大気中に排出されるCO2を分離・回収し、利用または固定化するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)は欠かせない手段である。J-POWERは長年CCUS技術の開発に幅広く取り組んでおり、本年2月に発表した目標「2050年カーボンニュートラルと水素社会の実現:J-POWER BLUE MISSION 2050」はそれを技術的な基盤としている。J-POWRが取り組む石炭火力からのCO2回収、CO2貯留技術、CO2利用技術とカーボンリサイクルなど多岐にわたる技術開発を見ていくことで、CCUS技術の全容を概観することができる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第112回】EUにおける気候変動への適応法制
柳 憲一郎(明治大学 名誉教授/研究・知財戦略機構研究推進員)朝賀 広伸(創価大学 法学部 教授)
▼概要文表示2021年6月号
 EUにおいて、加盟国の適応政策はEU適応政策サイクルに基づいて策定される。すなわち、適応のための基盤構築、気候変動のリスクと脆弱性の評価、適応オプションの特定、適応オプションの評価、適応の実施、適応の監視と評価という一連の手続を経ている。その策定手続において、気候変動の影響・脆弱性・リスクアセスメント(CCIVA)は、適応政策を策定するための重要な情報源となっており、気候変動に対する適応だけでなく生物多様性の保全や災害リスクの軽減などの他の社会目的とも関係する多様な政策立案に貢献しうる重要な役割を果たしている。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第111回】イギリスにおける気候変動への適応法制
朝賀 広伸(創価大学 法学部 教授)柳 憲一郎(明治大学 名誉教授/研究・知財戦略機構研究推進員)
▼概要文表示2021年5月号
 イギリス気候変動適応計画は、気候変動リスクアセスメントによって特定した最も緊急性の高いリスクに対処するために、2018年から2023年までの5年間に実施する適応行動とその適応の結果に対する評価とモニタリングなどを求めている。地方自治体にあっては、将来リスクに対して回復力を有し気候変動に備えるために、地域を導き支援する中心的役割を果たすことを目標とし、立法及び政策を通じて、多岐にわたる地域の適応行動に取り組んでいる。また、洪水及び海岸侵食管理の適応に係るケーススタディについて紹介する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第110回】地方自治体における再生土の取扱いについて―千葉県条例を手掛かりとして
宇野 雄一郎(総務省 消防庁 国民保護・防災部 防災課 広域応援室 航空調整係長)
▼概要文表示2021年4月号
 再生可能エネルギーとして注目される太陽光発電について、太陽光パネルを設置する際の土台に「再生土」と呼ばれるものが用いられるケースがあり、不適切な盛土や溶出物により周辺環境へ悪影響が生じている。このような影響に対応するため、千葉県では2018年に「千葉県再生土の埋立て等の適正の確保に関する条例」を制定した。本稿では、同条例の制定経緯となる再生土の特徴や問題となった事案、既存の制度での対応の困難性、条例制定に向けての方向性(論点整理)、他の都道府県の動向、条例制定後の状況等について解説する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第109回】アジア域におけるポリセントリック( 多中心的)な気候変動対応策と炭素市場の役割
中村 明寛(タスマニア大学 Adjunct Researcher)/ケイト・クロウリィ(タスマニア大学 Associate Professor)
▼概要文表示2021年3月号
 パリ協定に基づく世界全体の温室効果ガス排出の削減目標を達成するには、従来通りの各国の独自な取組みだけでは不十分と指摘されており、よりグローバル―地域―国家行動の推
進力が求められている。アジア諸国の多くは、依然として化石燃料ベースの電力供給に強く依存しているため、抜本的な地域改革が必要である。一方で、アジアには欧州共同体のよ
うに統一された制度構造が存在しないため、地域ガバナンスに乏しく、地域連携した気候変動行動が進んでいない。本稿では、アジア域におけるポリセントリック(多中心的)な気候変動対応策と炭素市場の役割とその課題について考察した。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第108回】苫小牧におけるCCS大規模実証試験
中山 徹(日本CCS調査株式会社 技術企画部 部長)
▼概要文表示2021年2月号
 2012年度から北海道苫小牧市において開始されたCCS大規模実証試験において、2019年11月に目標である二酸化炭素(CO2)の累計圧入量30万tを達成した。CO2の圧入は停止したが、貯留地点周辺地域における微小振動観測や海洋環境調査、圧入したCO2の挙動等の監視(モニタリング)等を現在も引き続き実施中である。2020年5月、幅広い分野の専門家による議論も踏まえて、30万t圧入時点での成果と課題を「苫小牧におけるCCS大規模実証試験30万トン圧入時点報告書」として取りまとめ、公表した。この報告書を基にして、苫小牧におけるCCS 大規模実証試験の概要と成果概要、そして現況を紹介する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第107回】佐賀市のバイオマス産業における CCU(カーボンリサイクル)の取組
江島 英文(佐賀市 企画調整部 バイオマス産業推進課 課長)
▼概要文表示2021年1月号
 佐賀市は、清掃工場のごみ焼却時に発生する排ガスから二酸化炭素を取り出し、光合成で成長する野菜や藻類の成長促進に活用する世界初の取組により、経済と環境が両立する資源循環社会を目指している。
 二酸化炭素の利活用をはじめ、食品ロスの削減や未利用バイオマスの活用、再生可能エネルギーの普及などに取り組み、「廃棄物であったものがエネルギーや資源として価値を生み出しながら循環するまち」を市民や多くの事業者とともに推進している。
 こうした取組は海外からも共感を得ており、様々な資源の活用・循環によって新たな産業と価値を創出することで、豊かな地球環境を次世代に繋ぐよう取り組んでいる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第106回】ダニエル・ファーバー著『アメリカ環境法』
阿部 満(明治学院大学 法学部 グローバル法学科 教授)
▼概要文表示2020年12月号
 最新のアメリカ環境法の全体像と問題の構造を日本語でつかめるダニエル・ファーバー著『アメリカ環境法』(勁草書房)。原著は、1983年から10版を重ねている。アメリカ各法分野の概要を示すものとして定評があるWest Academic社のNutshellシリーズの1冊。現在の環境立法の大枠が90年代に固定した後今世紀にはほぼ新たな立法・改正がない状況で、行政府による規則制定による政策実施と裁判所での規則の司法審査のダイナミズムでアメリカ環境法政策が動いていることを個別分野の解説の中で知ることができる。大統領選挙の争点ともなった気候変動政策の方向も示す第一人者による概説書の決定版。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第105回】名古屋議定書の履行に関する中国の実践――雲南省を例として
何 劼(西南学院大学 大学院法学研究科 博士研究員)
▼概要文表示2020年11月号
 中国は、名古屋議定書の国内履行として、2015年からABSプロジェクトを実施してきた。同プロジェクトの中で、一つの重要な部分は、日本の都道府県に相当する一部の省等の地方行政区域における遺伝資源・関連伝統的知識の利用と保護に関する法システムの構築作業である。本稿の執筆時点では、3か所でABSプロジェクトが実施されているが、その中で雲
南省だけが省の生物多様性保護条例を制定・実施しており、省より下位の地方行政区域の地方性法規又は地方性規章も省条例によりある程度整備されている。本稿では、中国の当該プロジェクト、プロジェクト実施地である雲南省の二つのパイロット事業及び雲南省の関連法政策の整備状況を紹介し、次に中国のABS立法の難航の原因を探り、最後に関連立法の
外国の利用者に対する影響を検討することにする。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第104回】気候変動枠組条約における「気候資金」の展開と金融のグリーン化
佐藤 勉(株式会社 国際協力銀行)
▼概要文表示2020年10月号
 ここ数年、ESG投資が注目されている。気候変動に関する国際条約では、京都議定書が金融やビジネスに対して影響を与えたことが知られているが、その上位の国際法規である気候変動枠組条約(1992年採択)における「気候資金」も、金融のグリーン化に関し先駆的な役割を果たしてきた。気候資金は、長年にわたるCOPや先進国間における交渉・検討を経て、多国間及び二国間の公的金融機関等の業務展開、さらには民間資金の動員により、一定の成果を上げることに成功し、気候変動と金融との具体的な関係のプロトタイプとして、パリ協定の実施やESG 投資のさらなる拡大に重要な影響を有している。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第103回】モンゴルにおける環境公益訴訟の法制度と今後の課題
スフバータル・スフチョローン(名古屋大学 大学院 法学研究科 博士後期課程3年)
▼概要文表示2020年9月号
 現在のモンゴルにおいて、環境公益訴訟制度は、民事訴訟方式と行政訴訟方式の両方の方式で設けられている。モンゴルの環境公益訴訟制度は、司法を通じて環境公益を保護することを狙いとするものであるが、いくつかの問題を抱えており、その機能を十分に発揮できないケースが少なくない。本稿は、モンゴルにおける環境公益訴訟を、①環境公益民事訴訟と②環境公益行政訴訟の二つに分けて、それぞれの法制度と課題について検討するものである。ただし、本稿ではモンゴルの環境公益訴訟に関する個別の裁判例の分析には深く立ち入らないこととする。また、モンゴルの環境公益訴訟においては、①市民、②環境NGO、③当該地域の地方知事(郡・区の長)、④検察機関が出訴する資格を有するが、紙幅の関係上、主に市民と環境NGOが原告となる法制度を中心に取り上げる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第102回】米国カルフォルニア州二酸化炭素回収貯留(CCS)に関する低炭素燃料基準法(LCFS)の概要と課題
柳 憲一郎(明治大学 法学部 教授)/中村 明寛(IOM Law弁護士事務所/University of Tasmania)
▼概要文表示2020年8月号
 カリフォルニア州の大気資源局(CARB)は、2018年に同州の低炭素燃料基準(LCFS)法を改正し、既存のクレジットシステムにCCS(二酸化炭素回収貯留)プロジェクトを追加した。同規定は、カルフォルニアの輸送燃料の多様化、将来の石油への依存度の低減、GHG排出と他の大気汚染物質の大幅な削減の強化を目的としている。本稿では、改正されたLCFS法およびそのCCSプロトコルの概要と課題について考察する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第101回】米国におけるCCUS に関する内国歳入法45Q条の概要
柳 憲一郎(明治大学 法学部 教授)/中村 明寛(IOM Law/AJGP PhD)
▼概要文表示2020年7月号
 2018年2月9日に施行された2018年超党派予算法により二酸化炭素(CO2)隔離を目的とした26 U. S. C. 45Q条に基づく税額控除制度を大幅に変更し、より多くの納税者が利用可能となった。2020年2月19日、内国歳入庁は、2018年に可決した法律がCO2回収税額控除の請求者にどのような便益をもたらし、どのような方法により税額控除が適用されるか、事業者や投資家に向けて最初のガイダンスを発行した。本稿では、改訂された45Q条税額控除の要点およびガイダンスに示された主要な規定に係る概要を述べる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第100回】軍事基地を維持する試みと環境への 配慮――米国ノースカロライナ州の実例
鈴木 滋(国立国会図書館調査及び立法考査局専門調査員・外交防衛調査室)
▼概要文表示2020年6月号
 米国本土では、基地経済のメリットを背景として、基地の存続が地域社会の重要な関心事項となっている。基地がもたらす環境被害については、周辺土地の用途を訓練活動と適合的な内容に管理することで、周辺住民への影響を緩和しようとする発想が採られており、その背景には、エンクローチメントという事象がある。連邦政府と州や地方自治体はエンクローチメント対策に取り組んでおり、本稿で事例として取り上げたノースカロライナ州では、地方自治体が基地の存続と環境への配慮を両立させる観点から、ゾーニングによる土地利用規制などを行っている。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第99回】CCSと社会的受容性―事例分析を通じた協議システムの検討
村山 武彦(東京工業大学 環境・社会理工学院 教授)/長岡 篤(東京工業大学 環境・社会理工学院)
▼概要文表示2020年5月号

 CCS実証試験が行われている北海道苫小牧市に居住する地域住民を対象とした質問紙調査により、CCS実証試験の認知状況とCCSを普及する際に必要な情報や事業主体を把握するとともに、これらの結果に基づく回答者の分類から、住民のCCSに対する認識を明らかにした。さらに、CCSに関係する地方自治体や漁業組合、NPO等を対象とした面接調査を実施し、CCSに対する認識やCCSを実施する際のスキーム、協議プロセスと各主体の関わり等について把握したうえで、今後求められる協議システムのモデルを検討した。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第98回】炭素回収貯留(CCS)における責任
大塚 直(早稲田大学 法学部 教授)
▼概要文表示2020年4月号
 第5次環境基本計画、地球温暖化対策計画、長期戦略のGHG削減目標を達成するためには、CCSに対する検討は必須である。もっとも、CCSの責任について考察するときには、第一に、汚染物の長期的な管理という点で、高レベル放射性廃棄物の処分を扱う、特定放
射性廃棄物の最終処分に関する法制が参考になること、第二に、CCSに関する諸外国の立法では、圧入完了後、一定要件を満たした場合に管理責任を国に移転する制度が存在することに留意すべきである。本稿では、途中で責任主体を変える先例がないことから、法制的に責任移転についてはハードルが高く、包括的なCCS法を構想する際に、規制型だけでなく、事業型の導入も一考に値することを主張する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第97回】豪州における気候変動法政策――パリ協定の目標達成に向けて
中村 明寛(タスマニア大学 Adjunct Researcher)/ケイト・クロウリィ(タスマニア大学Associate Professor)
▼概要文表示2020年3月号
 世界では、パリ協定の2030年目標に向け各国の加盟国が動き始めている。資源大国である豪州では、近年、自然災害(例:山火事、洪水、干ばつなど)が深刻化しており、国の気候変動政策に対する国民の関心が高くなってきている。一方で、豪州は一人当たりのCO2排出量は米国に次ぎ世界で2番目に多く、石炭と液体天然ガス(LNG)の主要輸出国であり、国内の電力供給は安価な化石燃料に大きく依存しているため、抜本的な温室効果ガスの削減といっても一筋縄ではいかないという政治的背景をもつ国である。本稿では、パリ協定の目標達成に向けた豪州の気候変動法政策の取組みとその課題について考察した。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第96回】CCS実施政策の経済評価
板岡 健之(九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 教授)
▼概要文表示2020年2月号
 CCS(二酸化炭素回収貯留技術)は温暖化対策の有望な選択肢と考えられているが、設置者にとっては温暖化対策のみに効果をもたらすコスト増の技術であるため、その推進には何らかの政策的措置が必要となる。CCSはエネルギーインフラに影響を与えうる大規模事業であり、そのような社会に大きな影響を与える事業にかかわる法規制の実施においては、事前評価を行ことが必要となっている。CCS実施政策の経済評価のための、規制影響経済評価手法の日本における適用の可能性について、CCS実施政策によるCCS普及シナリオを想定し、温暖化対策の便益評価の不確実性を考慮ながら、費用便益分析、費用対効果分析を実施するとともに、現状のCCS 関連法規制の改正の方向性について、CCS 事業への影響をキャッシュフローの分析により分析した。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第95回】CCS普及・導入の社会的制度・戦略の研究
柳 憲一郎(明治大学 法学部 教授)/小松 英司(明治大学 環境法センター 専門研究員)
▼概要文表示2020年1月号
 わが国は、2050年までに80%のGHG排出削減を目指しており、2016年11月に発効したパリ協定を踏まえ、2020年までに26%の削減を公約している。この実現のためには、二酸化炭素回収・貯留(以下、CCSという)の社会実装が必要であり、今まで環境行政ではほとんど前例のない超長期管理を含めたCCSの包括的な法規制や政策の整備が喫緊の課題となっている。本研究ではIEA(国際エネルギー機関)により提示されたCCSの特定課題である「異常時の監視・措置」や、現状では法制化されていない「長期貯留、閉鎖、閉鎖後の長期の維持管理規定」も規定したCCSの法規制・政策の枠組みモデルを提示したい。2050年目標の達成には、火力発電の約70%、産業部門の約80%にCCSが実装されることを要する。この導入シナリオは実現可能なものであるが、実現に向けてCCS-Ready 法の策定・早期施行が必要となることから、CCS-Ready 法に必要となる規定を提示するものである。
 また、大規模なCCSの普及・導入には地域開発計画や社会インフラの構造改革を伴うCCS 事業推進のための政策が必須であるから、上位計画との連携を図りつつ、CCSの導入・普及段階ごとに必要となる関連技術及びインフラの網羅的な導入を図る適切なポリシーミックス、それを実現する法的枠組みを見出すという重要な政策課題に取り組む必要があることを指摘したい。なお、本稿は、環境研究総合推進費「二酸化炭素回収・貯留(CCS)の導入・普及の法的枠組みと政策戦略に関する研究」(2-1603)の成果であり、次号以降、各分担者がそれぞれの成果を連載する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第94回】アジア域のCCUS法政策のプラットフォームの構築に向けて
柳 憲一郎(明治大学 法学部 教授)/小松 英司(明治大学 環境法センター 専門研究員)
▼概要文表示2019年12月号
 インドネシアをはじめとするJCMパートナー国は経済の急成長を遂げているが、同時に石炭依存度が高い国が少なくないことから、地球温暖化や大気・水質汚染に伴う環境悪化が増大している。このことは温室効果ガス(GHG)の大規模削減を実現する二酸化炭素回収・貯留(CCS)の導入・普及が暫定的手段としても有用であることを示唆している。
 しかし、多くの国は、CCSの包括的な法律及び関連法規が未整備の状況にあり、CCSの技術や貯留地域特性を考慮したサイトの長期管理、責任移転などの長期責任及びその財政措置に係る法律等が整備されていないことから、CCSの実用化を困難とする要因となっている。こうした背景から、本稿では、JCMパートナー国における地域特性・貯留特性を考慮する地域CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)システムの構築に向けて、わが国の技術を活用した地域のエネルギー供給及び大規模GHG削減を可能とするCCS-EOR(石油増産回収)を中核技術とした炭素循環システムの社会実装を支援する政策、制度の構築に資するための課題等について、論ずることにしたい。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第93回】スウェーデンの議会オンブズマンの環境分野における活動
進藤 眞人(早稲田大学 比較法研究所)
▼概要文表示2019年11月号
 近年、議会オンブズマンを頂点とする公的オンブズマンが環境行政意思決定のアカウンタビリティを確保するために果たす役割への注目が高まっている。とはいえ、公的オンブズマンの多数を占める総合オンブズマンが果たす役割に対する学術的知見の蓄積は、いまだに極めて不十分である。そこで本研究は、議会オンブズマンの母国であるスウェーデンを対象に、この課題の解明に取り組む。具体的にはまず、多層構造からなるアカウンタビリティ確保のための審査機関の構成の中での総合オンブズマンの位置付けを明らかにする。次に、オーフス条約の枠組の内外で、総合オンブズマンが果たしている役割を同定する。最後に、他の審査機関との関係性を軸に総合オンブズマンが果たす役割の意義を考察する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第92回】ノルウェーにおける今後のCCS(二酸化炭素・回収・貯留)プロジェクトの機会と課題――ノルウェープロジェクトからの学びと今後に向けて
ストール・アーケネス(ガスノヴァSF)/イングビルド・オムバステプト(IOM 弁護士事務所・明治大学環境法センター客員研究員)/マリア・エリングセン・グランアダ(IOM 弁護士事務所)/柳 憲一郎(明治大学 法学部 教授)/中村 明寛(タスマニア大学 研究員)
▼概要文表示2019年10月号
 ノルウェーは、過去20年以上にわたり二酸化炭素・回収・貯留(CCS)の分野でパイオニア的な存在であり、また、CCS開発・導入を目的とする国家戦略の策定に熱心に取り組む国の一つである。その一方で、諸外国と比べノルウェーでは二酸化炭素の排出量は少ない。電力供給はほぼ100%再生可能エネルギーから賄まかなっており、装置産業は他国に比べ環境影響が低く、石油化学工場等による大規模な排出源も多いとはいえない。本稿では、CCSに関するノルウェーにおけるこれまでの取組みや国内戦略、さらに今後の技術導入に向けた機会と課題について述べることにしたい。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第91回】二酸化炭素回収・貯留・有効利用(CCUS)のための国際標準化
 イングビルド・オムバステプト(IOM 弁護士事務所・明治大学環境法センター客員研究員)/アダ・ジンニス・ジャロー(IOM 弁護士事務所)/トレ・ハトレン(ガスノヴァ)/マイケル・カーペンター(ガスノヴァ)/柳 憲一郎(明治大学 法学部 教授)/中村 明寛(タスマニア大学 研究員)
▼概要文表示2019年9月号
 本稿では、二酸化炭素回収・貯留・有効利用(CCUS)のための国際標準化に関するノルウェーの取り組みについて述べる。CCUSに係る包括的かつ具体的な法・規制の枠組みの欠如により、ステークホルダーにとって不確実性が増大し、期待感の低下等が懸念されている。本稿では、CCSおよびCO2-EORの技術規格を開発した背景と経験、およびこのプロセスにノルウェーが参加した理由について説明するとともに、CCSおよびCO2-EORの分野で規格を使用することの利点についても詳細な説明を行うものである。また、規格開発とその活用には多くの利点があるものの、それらの課題や障壁の改善なしでは実現は難しいため、その課題についても指摘する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第90回】インドネシア廃棄物発電プロジェクトの進展と日本の支援のあり方
辻 景太郎(JICA環境政策アドバイザー(日本環境省よりインドネシア環境林業省に派遣))
▼概要文表示2019年8月号
○日本で1960年代以降に廃棄物焼却施設の導入が急速に進んだ要因として、中央政府内の責任省庁が明確だったことと、事業実施主体である市町村等の強い責任感の2 点が挙げられる。
○インドネシアでは、2000 年代より日本環境省を中心に廃棄物発電を支援してきたが、この2 点が欠けた状態が続く中、思うような進展がみられなかった。
○2017 年になって廃棄物発電が両国首脳級のアジェンダとなり、2018 年には12 都市における廃棄物発電を促進する大統領令が発出された。この二つの条件を満たした状況になり、大きな進展をみせている。
○日本は、環境省・JICAが協働して西ジャワ州政府によるレゴック・ナンカ廃棄物発電PPPプロジェクトを支援している。JICAがTransaction AdvisoryとしてPPP調達の発注者である公共機関サイドを支援する初のケースで、今後の国際協力のモデルとなる可能性を秘めている。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第89回】ノルウェーにおける二酸化炭素回収・貯留(CCS)政策と法規制枠組み
スベン・モホスバケ(ガスノヴァSF)/イングビルド・オムバステブト(IOM弁護士事務所)/マリア・エリングセン・グラン(IOM弁護士事務所)/柳 憲一郎(明治大学 法学部 教授)/中村 明寛(タスマニア大学 研究員)
▼概要文表示2019年7月号
 本稿では、ノルウェー国内のCCSプロジェクトを支える政策と法規制の概要について述べる。CCS開発・導入に向け、ノルウェーは世界を代表するCCS先進国として貢献している。一方で、世界有数の資源大国でもあるノルウェーが、温室効果ガス削減への社会的責任、役割及び未来の国益を十分に理解し、資源活動と低・脱炭素社会をパラレルに取り組んでいる現状を紹介する。ノルウェーと欧州の相互関係から理解できるように、世界的な低炭素技術の普及・導入拡大に向け、政策・法律・規制改革には地域的取り組みが必要不可欠である。これら各国のイニシアティブは諸外国に影響を及ぼすと考えられる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第88回】ラムサール条約における迅速評価と法的課題
鈴木 詩衣菜(上智大学 地球環境学研究科 特別研究員)
▼概要文表示2019年6月号
 湿地保全に関するラムサール条約は、締約国に対し、第3条2項に基づく登録湿地の管理を義務付けている。しかしながら、第3条2項は十分に遵守されていないのが現状である。このような事態に対応するために、ラムサール条約は締約国に対し、当該義務を果たせるよう登録湿地の評価方法やそのための指針などを採択しており、迅速評価を用いた登録湿地の管理の奨励はその一つである。本稿では、ラムサール条約における迅速評価を概観しつつ、締約国が同条約上の湿地保全に関わる義務をどのように果たしていくかについて、法的側面から検討する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第87回】マレーシアの環境法の改正動向と民主化
作本 直行(独立行政法人 日本貿易振興機構 環境社会配慮審査役)
▼概要文表示2019年5月号
 マレーシア(以下「マ」国)は、アジアの民主化の流れに乗り遅れてしまったかにみえる。これまで、政府主導による環境問題解決あるいは規制命令に立った解決手法優先の下で、環境民主化への配慮はほとんど実施されてこなかった。1974年の環境質法(Environmental Quality Act, EQA)に大規模改正が見込まれている。法案自体の公表は遅れているが、伝統的な規制命令的手法を引き継ぎ、企業による自主規制(self-regulation)をさらに推し進めることが予定されている。環境問題の多様化と紛争増加がみられ、政府による積極姿勢には一定の成果も期待できるが、同時に、伝統的な取り組み手法に対する限界もみえ始めてきた点を否定できない。同国における環境法改正の議論動向を、民主化への対応の点から検討する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第86回】中小企業と環境――環境対策と中小企業の取り組み
小祝 慶紀(東北工業大学 ライフデザイン学部 経営コミュニケーション学科 教授)
▼概要文表示2019年4月号
 これまでわが国では、企業の環境対策といえばその多くが大企業によるものであった。それは、中小企業には、環境に配慮した経営を実践すると費用負担が多大となり、企業経営を圧迫するという認識が少なからずあったからだと推察される。しかし、地球規模での環境問題により、中小企業も持続可能な社会の構築を意識せざるをえなくなった。同時に、環境に配慮する経営を行うことは、経営の効率化をもたらし収益にも貢献することも認識されてきた。このような背景から本稿では、環境配慮を行う経営で企業革新を目指し、持続可能な社会の構築に取り組んでいる中小企業家同友会全国協議会と宮城県中小企業家同友会の取り組み
を紹介する。これらの団体の取り組みを紹介することで、今後の中小企業の環境経営の参考になることを期待したい。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第85回】不法行為訴訟と環境ADRとの役割分担――公害調停に注目して
二見 絵里子(早稲田大学大学院 法学研究科 研究生)
▼概要文表示2019年3月号

 裁判外紛争解決手続(ADR)は、現在、様々な分野で活用されている。環境分野におけるADR(環境ADR)としては、公害紛争処理制度がある。その中でも特に、調停が用いられることが多い。しかし、不法行為に基づく環境民事訴訟と、公害紛争処理制度の中の調停(公害調停)とを比較して捉え、両者の相違や、その相違に照らした役割分担を論じることは十分に行われていないように感じられる。そこで、公害・環境紛争における環境民事訴訟と公害調停のそれぞれの意義を確認し、両者の相互関係と両者に望まれる役割について検討した。

 

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第84回】環境省のCCUS施策について
相澤 寛史/日坂 仁/岸本 拓也/伊藤 栄俊/寺田 林太郎(環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 地球温暖化対策事業室)
▼概要文表示2019年2月号
 日本においては、地球温暖化対策のための長期的な温室効果ガスの削減目標として2050年80%削減(2013年比)を掲げている。本目標を達成する上で各種二酸化炭素(CO2)削減対策技術の実用化は重要であり、2018年7月に閣議決定された「エネルギー基本計画」等においても、2020 年頃のCO2回収・有効利用・貯蔵技術(CCUS, Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage)の実用化を目指した研究開発、一連のCCS(Carbon dioxide Captureand Storage)プロセスの実証及び貯留適地調査などを着実に進めることとされている。本稿では、国内外の政策的な背景の概説のあとに、環境省のCCUS 関係の取組みを紹介する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第83回】気候訴訟の一事例―アメリカ
松村 弓彦(弁護士)
▼概要文表示2019年1月号

 気候損害の救済・未然防止等を目的とする訴訟は多様だが、法システム・訴訟システムが国によって異なるという問題はあるものの、訴訟の適法性、請求の根拠となる権利関係とその根拠法等に関するハードルは高い。アメリカ連邦最高裁判所の1判決例を素材としつつ、法的な気候責任と気候損害救済の方策について問題点を一般的な形で指摘する。気候損害の救済を気候訴訟による個別解決に委ねる方法は公平性・実効性・社会全体の効率性等の点で問題点が多く、原因者負担、被害者負担、社会全体による共同負担(団体的解決)の考え方を組み合わせる方向が提案されている。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第82回】アイスランド・ヘリシェイデイ地熱発電所探訪
柳 憲一郎(明治大学 法学部 教授)/小松 英司(明治大学 環境法センター 専門研究員)、岡松 暁子(法政大学 人間環境学部 教授)
▼概要文表示2018年12月号
 アイスランドの首都レイキャビックから東南に32kmに位置するヘリシェイデイ(Hellsheidi)地熱発電所では、EUのプログラムによって、CarbFixプロジェクトを実施している。これは、アイスランドのReykjavik Energy社、アイスランド大学、フトゥールーズ国立科学センターとコロンビア大学などの共同研究チームにより、地熱発電所から出る二酸化炭素を玄武岩層に注入し、炭酸塩鉱物(carbonate mineral)化を意図する実践的かつ経済効率化に向けたCCS実証実験プロジェクトであり、2012 年から開始されたものである。2018 年9月17日にヘリシェイデイ地熱発電所を訪問する機会を得たため、現在取り組まれているCarbFixプロジェクトを紹介しつつ、欧州のCCS導入に関する法制度に焦点を当て、将来の玄武岩への炭酸塩鉱物化貯留技術の実用化に向け、関連規制についても考察するものである。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第81回】コミュニティ再生可能エネルギー(CRE)戦略の構想――日本に向けた課題
ケイト・クラウリィ(タスマニア大学Social Science Associate Prof)/バーヤン・ハン(タスマニア大学 Social Science PhD Candidate/中村 明寛(明治大学 研究知財研究推進員(専門研究員)・タスマニア大学 客員研究員)
▼概要文表示2018年11月号
 近年、エネルギーセクターの転換は諸外国において著しく変化を遂げている、その理由として、技術の進歩、消費者需要及び気候変動対策への実施がある。このような背景から、新しいエネルギーミックスの一部として、コミュニティ再利用エネルギー(Community Renewable
Energy:CRE)による分散型のエネルギーシステムが検討されている。本稿では、地域レベルのコミュニティが実施するプロジェクトに着目したCREの政策基盤を提言する。我々は、地域のコミュニティにおけるエネルギー転換を実現できるか否かは、政策を運用する上での弊害によって、その可能性は変わってくることを見出したとの結論に至った。本研究ではCRE戦略について、中央集権型と地方分散型のエネルギー、コミュニティ参加、地方自治体との取組み、及び次世代のエネルギーの民主化に向け地域の電力インフラ等といった運用上の課題を検討し、より円滑な運用を可能とする戦略を提言している。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第80回】東アジア・太平洋地域の気候変動に関する地域リーダーシップ論――日本とオーストラリアを事例として
ケイト・クラウリィ(タスマニア大学Social Science Associate Prof・明治大学Adjunct Researcher)/中村 明寛(明治大学 研究知財研究推進員(専門研究員)・タスマニア大学 客員研究員)
▼概要文表示2018年10月号
 2015 年12月、気候変動枠組条約第21回(COP21)、京都議定書第11回締約国会議(CMP11)がパリで開催され、新たな法的枠組みとなる「パリ協定」を含むCOP 決定が採択された。一方、その具体的な取組みは依然として明らかではない。気候変動に関する新たな国際的枠組みや政策を考える上で、地域的/地理的(特定の地理的近隣国)リーダーシップが重要である。本稿では、我が国を含む東アジア・太平洋地域の気候変動に関する地域リーダーシップを分析する評価基準を示した。また事例研究として、同地域の先進国である日本とオーストラリアのこれまでの気候変動政策及び取組みに着目し、本稿が提案した評価基準を利用し、日本とオーストラリアの地域リーダーシップの役割と実態を検証した。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第79回】台湾におけるマイクロプラスチック規制――2017年8月公布「マイクロビーズ含有化粧品及び個人清潔用品の製造、輸入及び販売を制限」する告示(法規命令)について
頼 宇松(台湾・国立東華大学 財経法律研究所)/鶴田 順(明治学院大学 法学部)
▼概要文表示2018年9月号
 本稿では、2017年8月に公布された台湾の「マイクロビーズ含有化粧品及び個人清潔用品の製造、輸入及び販売を制限する」告示を紹介する。化粧品、洗顔料、入浴剤、歯磨き粉などのマイクロビーズ含有製品の使用が海洋環境にもたらしている問題状況を受けて、近年、米国や欧州ではマイクロビーズの製造などが規制されはじめている。台湾の告示はアジア地域で初めての法的規制である。マイクロプラスチックをめぐる問題状況、欧米での規制動向を確認したうえで、台湾でのマイクロビーズの法的規制の概要を紹介する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第78回】化学物質による環境破壊、いわゆる「香害」について
川上 陽子(フランス・トゥールーズ第1大学 法学博士)
▼概要文表示2018年8月号
 環境問題は世界のグローバル化に伴い、被害者と加害者が特定できない問題が増えてきている。アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患は、原因不明の慢性疾患、あるいは、個人の体質の問題として片付けられているが、日本のみの近年の患者の激増の減少は現代人の体質だけでは説明できない。本稿では、要因の分析を科学的に行うのではなく、要因を減らすための法政策、つまり、ヨーロッパ(主にフランス)と日本との化学物質のリスク管理の法制度の考察を行い、問題点を明らかにする。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第77回】ドイツ脱原発加速法憲法異議事件判決の要点
松村 弓彦(弁護士)
▼概要文表示2018年7月号
 ドイツにおける脱原発に向けた法政策は2000年脱原発協定と2002年脱原発法によって既定のものであったが、福島原発事故を契機としてその直後に改正された各原発に操業確定期限を定めて脱原発を加速すること等を目的とするドイツ2011年脱原発加速法に対する憲法異議事件判決(2016年12月6日)は、基本的には合憲であるが、比例性と平等原則に照らして、部分的に所有権保障に反する違憲部分があるとし、国に対して2018 年6月30日までにそ
の違憲部分の立法措置による解消を命じた。我が国と裁判制度は違うが、右判決と判決理由の要旨を分析する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第76回】CCSの政策的位置づけと経済産業省の取り組み
経済産業省 産業技術環境局 地球環境連携室
▼概要文表示2018年6月号
 CCS(二酸化炭素回収・貯留)は、大規模なCO2削減を可能とする技術として、海外各国の産業政策、環境政策の重要な選択肢の一つとなっている。我が国では、パリ協定を踏まえた地球温暖化対策計画に従い、CCS技術の実用化を目指した研究開発や実証試験を行うとともに、CCSに係る二国間および多国間の連携を進めている。他方で、CCSの社会実装に向けては、CO2貯留適地の確保、事業コストの低減、事業法やインセンティブの付与等の事業環境の整備、社会の理解の獲得などの課題がある。これらの課題の解決に向け、今後も実証・開発や国際連携に着実に取り組むことが重要である。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第75回】長期的責任と二酸化炭素回収・貯留
イアン・ヘイヴァクロフト(グローバルCCS 研究所 シニア・コンサルタント)/柳 憲一郎(明治大学法学部 教授・明治大学環境法センター長)/中村 明寛(明治大学環境法センター 専門研究員)/小松 英司(明治大学環境法センター 専門研究員)
▼概要文表示2018年5月号
 

従来、貯留された二酸化炭素の管理責任について初期に構築された法モデルでは、想定される事業期間を超えた管理規制の検討が必要と考えられてきた。また、政策立案者、規制当局及び企業が指摘する法規制の課題に責任規定のあり方が問題であった。これらは、CCS稼働時期及び二酸化炭素圧入停止後を含む事業期間における国、管理者及び事業者(operator)のそれぞれの責任の範囲及び負担の定義に係るものである。それは公共機関、投資家及び事業者による技術導入に向けての信頼性を高める重要な側面でもある。本稿では、公衆に対する責任に関する制度、事業者及び投資家に係る責任など、これまでの規制当局によるCCS特有の責任に対するアプローチ及び制度を考察し、今後のCCS技術開発・導入の拡大・増進に向けての制約及び課題に対して検討するものである。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第74回】日本の長期低排出型発展戦略検討の動向と展望
苦瀬 雅仁(環境省大臣官房 総合環境政策統括官 グループ分析官)
▼概要文表示2018年4月号

 パリ協定に基づき我が国も長期低排出型発展戦略の策定提出が求められている。昨年春、環境省は長期低炭素ビジョンを公表し、その直後経済産業省が公表したプラットフォーム報告書ではそれに対する懸念の指摘等がなされた。両者にはかなり明確な視点の相違等があるが、共有される基盤もある。その後さらに関係省による検討が進められており、今後関係省が連携して具体的な検討を進める中で適切な戦略が策定されることが期待される。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第73回】CCSの社会的受容性に関する動向とメディアにおける社会的反応
村山 武彦(東京工業大学 環境・社会理工学院 教授)
▼概要文表示2018年3月号

 本稿では国内外におけるCCSに関連した政策動向を整理する。主体別の見解では、国レベルとともに国際機関においても徐々に具体的な取り組みが進んでおり、こうした動きに金融機関も歩調を合わせつつある。さらに環境NGOにおいても条件付きながらCCSの必要性について一部認める動きが現れてきているが、見解に幅がある。国内の動きは、政策レベルでは主として地球温暖化対策やエネルギー基本計画等の関連施策を通じて制度的枠組みが徐々に形成されつつあり、CCS関連施設の実証事業も進みつつあるが、関係主体の動きが明確に表れているという状況にはないといえる。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第72回】スコットランド・エネルギー戦略から学ぶCCS(二酸化炭素回収・貯留)の役割
中村 明寛(明治大学環境法センター 研究推進員)/柳 憲一郎(明治大学法科大学院 教授・環境法センター長)/小松 英司(明治大学環境法センター 専門研究員)
▼概要文表示2018年2月号

 2017 年12月、スコットランド政府は2050 年を見据えたエネルギー戦略を公表した。同戦略では、特に、熱源、電力及び輸送の低炭素化を重要な分野としている。この戦略には六つの優先事項が掲げられており、二酸化炭素回収・貯留(以下、CCSという)技術の開発・導入もその一つである。CCSは、化石燃料依存とゼロエミッション炭素との将来の溝を埋めるために重要な役割をもち、この技術による経済効果及び雇用増加がスコットランドでは期待されている。CCSの導入は、スコットランドの石油・ガス産業における二酸化炭素の輸送・貯留の普及を促し、その技術と経験により将来の経済成長の機会の最大化が図られると考えられている。また、CCS技術による二酸化炭素の回収及び貯留を含んだ電力システムの長期的ビジョン及びアクションを明らかにしている。
 本稿では、スコットランドにおける最新のエネルギー戦略を紹介することで、同国のエネルギー戦略におけるCCSの位置づけを明らかにし、併せて、同戦略で示された低炭素・水素化のシナリオにCCSを組み込みつつ、どのようにゼロエミション社会の構築を目指すかを鳥瞰する。さらに、同戦略を踏まえて、CCSの役割について検討する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第71回】CCSの規制影響経済評価事例と日本への評価手法適用の可能性
板岡 健之(九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 教授)
▼概要文表示2018年1月号

 CCSは温暖化対策の有望な選択肢と考えられているが、設置者にとっては温暖化対策のみに効果をもたらす、コスト増の技術であるため、その推進には何らかの政策的措置が必要である。CCSはエネルギーインフラに影響を与えうる大規模事業であり、そのような社会に大きな影響を与える事業に関わる法規制の実施においては、事前評価を行ことが必要となっている。CCSに関わる欧米の規制影響の事前評価事例をもとに、温暖化対策の便益評価の不確実性を考慮した上での、影響評価の中心となる規制影響経済評価手法の日本における適用の可能性について検討した。費用便益分析に関してはCO2排出削減便益(social cost of carbon)の値の選択によって評価結果が異なってくることが確認され、高い値を採用する場合、CCS推進法規制は支持されるが、不確実性分析結果とともに結果を解釈すべきことが示された。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第70回】CCS(炭素貯留)の法・規制の枠組みの構築―CCSに関する海洋汚染防止法の問題点を中心として
大塚 直(早稲田大学 法学部 教授)
▼概要文表示2017年12月号

 わが国は、2050年までに80%のGHG排出削減を目指しており、一昨年採択されたパリ協定を踏まえ2020 年までに26%の削減を公約した。この実現のためには、二酸化炭素回収・貯留(以下、CCSという)の社会実装が必要であり、今まで環境行政ではほとんど事例のない超長期管理を含めたCCSの包括的な法規制や政策の整備が喫緊の課題となっている。
 本稿では、欧米のCCSの法規制、CCS Ready等制度・政策について、IEA(国際エネルギー機関)等で示された検討課題項目を中心に欧米法の比較研究を行う。その結果に基づき、現状のCCSの技術水準や適用可能性などの観点から我が国での法の適格性や立法可能性を研究する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第69回】CCSの総合政策研究
柳 憲一郎(明治大学法科大学院 教授・環境法センター長)/小松 英司(明治大学環境法センター 専門研究員)/中村 明寛(明治大学環境法センター 研究推進員)
▼概要文表示2017年11月号
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第68回】持続可能な開発目標(SDGs)における「統合的解決」の考え方について
奥主 喜美(環境省 参与)
▼概要文表示2017年10月号

 「持続可能な開発目標(SDGs)」における「統合的解決」の考え方は、環境政策の重要な考え方である「環境と経済の統合的向上」や「環境問題と経済・社会的諸課題の同時解決」という考え方と親和性がある。新たな環境基本計画の見直しでも、この考え方を活用した議論が行われている。また、地方公共団体や民間セクターにおける取組も、この原則の活用や自らの取組をSDGsと関連付けるマッピングにより、モチベーションの向上等取組の促進の契機となる。環境政策を考えていく上で「統合的解決」を含むSDGsは重要な要素となっている。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第67回】環境法制における放射性物質適用除外規定の削除について
奥主 喜美(環境省 参与)
▼概要文表示2017年9月号

 東日本大震災による福島第一原発事故は広範な環境汚染を引き起こした。環境汚染への対応は放射性物質汚染対処特措法に基づき実施されることとなったが、これは、従来原子力基本法等に委ねられていた放射性物質による環境汚染対策を環境法の体系の下で行うという環境法制にとって大きな転換を意味する。これを受けて環境基本法をはじめ放射性物質適用除外規定を削除する改正が進められたが、適用除外規定の削除の議論は、放射性物質による環境汚染対策の一般的な仕組みのあり方議論に直結するなど、大きな課題を含んでいる。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第66回】環境アセスメント報告書の質の向上――代替案協議と環境社会配慮意識の向上
上條 哲也(国際協力機構研究所 研究員)
▼概要文表示2017年8月号

 本稿の目的は、代替案の協議が環境アセスメント報告書の質に対する主要因である根拠を定量的に示すことである。代替案の協議は環境アセスメント報告書の核心であるといわれているが、根拠は示されておらず定性的な指摘に留まっている。その根拠を示すことができれば、報告書の質の向上に対する有益な示唆が得られる。2001年から2012年の間に(独)国際協力機構が作成した120冊の環境アセスメント報告書を分析対象とし、報告書の質の評価には、リー・コリー評価手法を用いた。また、統計検定と共分散構造分析を用いて報告書の質に対する主要因を特定した。その結果、代替案を利害関係者と協議することが報告書の質に対して大変有効であることが示された。その理由としては、利害関係者との協議が、事業者の環境社会配慮意識を向上させるためであることが示唆された。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第65回】モントリオール議定書のキガリ改正(HFC改正)とフロン対策
木村 ひとみ(大妻女子大学 准教授)
▼概要文表示2017年7月号

 2016 年に開催されたモントリオール議定書第28回締約国会合(MOP28)でハイドロフルオロカーボン(HFC)の生産及び消費量の段階的削減義務等を定めるモントリオール議定書のキガリ改正が採択され、HFCについても同議定書の規制対象となった。キガリ改正は、締約国を3グループに分類し、途上国についても中長期の生産及び消費量の段階的削減を義務化したほか、パリ協定を補完し、国際環境条約間の整合性を図る取組みとして評価できる。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第64回】 日中漁業協定の暫定措置水域等における海洋生物資源管理の現状と課題(下)
鶴田 順(明治学院大学 法学部 准教授)
▼概要文表示2017年6月号

 本稿は、東シナ海における海洋生物資源管理の現状と課題を、日本と中国の間の漁業秩序に焦点をあてて、日中漁業協定の解釈およびそれにもとづく実行等によって把握し、検討し、課題の克服策を提示するものである。第1 節では日中漁業協定の締結にいたる経緯を整理する。第2節では日中漁業協定を主要な条文に即してその内容を把握する。第3節では日中漁業協定によって設定された「暫定措置水域」と「北緯27度以南水域」という二つの海域における問題状況を把握する(以上前号)。第4節では暫定措置水域における海洋生物資源管理の問題状況の克服策を検討し提示する。第5節では暫定措置水域における海洋生物資源管理の問題状況の克服策を検討し提示する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第63回】日中漁業協定の暫定措置水域等における海洋生物資源管理の現状と課題(上)
鶴田 順(明治学院大学 法学部 准教授)
▼概要文表示2017年5月号

 本稿は、東シナ海における海洋生物資源管理の現状と課題を、日本と中国の間の漁業秩序に焦点をあてて、日中漁業協定の解釈およびそれにもとづく実行等によって把握し、検討し、課題の克服策を提示するものである。第1 章では日中漁業協定の締結にいたる経緯を整理する。第2章では日中漁業協定を主要な条文に即してその内容を把握する。第3章では日中漁業協定によって設定された「暫定措置水域」と「北緯27度以南水域」という二つの海域における問題状況を把握する(以上本号)。第4章では暫定措置水域における海洋生物資源管理の問題状況の克服策を検討し提示する。第5章では暫定措置水域における海洋生物資源管理の問題状況の克服策を検討し提示する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第62回】環境アセスメントに関する参加指標の可能性――国際的参加ガイドラインからの示唆
大久保 規子(大阪大学 教授)
▼概要文表示2017年4月号
 環境分野の参加原則を促進するためには、その内容を具体化する条約、ガイドラインに加え、各国の進捗状況を評価するための指標の開発が重要である。本稿では、地域特性を考慮したアセスに関する参加の指標を開発する一環として、参加の国際的基準であるオーフス条約やバリガイドラインの中から主要な要素を抽出するとともに、メコン地域におけるアセス
に係る参加ガイドラインの取組みを参考に、指標開発への示唆と課題を探る。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第61回】持続可能性アセスメントと指標
柳 憲一郎(明治大学法科大学院 教授/明治大学環境法センター長)/高橋 恵佑(明治大学環境法センター リサーチ・アシスタント)
▼概要文表示2017年3月号

 本稿は、持続可能性アセスメント(Sustainability Impact Assessment:SIA)によって、主要な公共事業の決定過程に適用する指標の有効性を検討した論文の紹介しつつ、SIAの参加指標に言及したものである。これまでSIAを制度構築する際、諸類型を識別するための関係性を特定し、情報を集めるという制度的な知見が開発されている。この知見の収集、伝達に関するアプローチは、指標の活用を通じてなされる。これらの指標は、事実の骨子や要素(制度の骨格や制度の態様における専門的な特徴を説明するために選択される変数)を表現し、その効能として、複雑な現象を単純化して伝達するために用いられている。
 Ola Laedreらは、どの指標が実際に最も重大な指標として選択されるか、また評価者はそれらの指標をどのように選択するのかを検討している。そのため、121のグループに分けた538名の学生達に主要な道路事業のSIAに関する指標を決定させ、SIAパターンの傾向性を分析する。その結果、学生の指標選択には予測可能性が欠如していたこと、また、SIAパターンは同様の特徴を備えていたことを指摘する。この予測可能性の欠如は、透明性、ガバナンス、ステークホルダーの参加及びその操業時の課題を包含するものとなっている。
SIA指標の選択に関する議論は、それらの指標の均衡性と、それらに価額を設定することが可能か否かという問題にも関連している。そこで、すべての関連する指標の検討を確実にすることを手始めに、そのあとに評価者が網羅的な指標リストを決定することを求めた。それらの支援として、九つの分類項目を提示し、経済的、社会的、環境的側面の評価を行い、指標もまた戦略、戦術又は操業の各段階での当てはめが必要であることを指摘する。なお、紹介論文では触れていないが、SIAに不可欠な参加指標との関連で参加の各要素について言及しておきたい。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第60回】国連人権指標と持続可能な発展目標指標――リオ宣言原則10の実施とその進捗をはかる指標づくりの観点からの検討
高村 ゆかり(名古屋大学 教授)
▼概要文表示2017年2月号

 1992 年ブラジルでの地球サミット(環境と開発に関する国連会議)で採択されたリオ宣言原則10を具体化する国内法の整備が各国において着実に進んでいる中、近年では、事業や活動、政策の進捗を評価する際に、あらかじめ設定した指標に照らしてその評価をできるだけ定量的に行う実践が広くみられている。本稿では、各国の法制度、法文化、法的伝統の違いを前提にしつつ、その進展と到達の度合いを測る国際的な指標づくりに取り組む「国連人権指標」と「持続可能な発展目標指標」(SDG 指標)の二つの事例を取り上げ、検討する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第59回】SEAと参加――指標による参加の促進のために
礒野 弥生(東京経済大学 教授)
▼概要文表示2017年1月号
 戦略的環境アセスメント(SEA)は、2001年のSEAに関するEU指令に基づき各国で制度化が始まり、一気に広がった。EU各国では既に10年が経過し、具体的事例の検証も行われている。
 ところで、SEAはできる限り早期の段階で環境影響を回避し、持続可能な社会の形成のためのツールであるが、その実現のために一般の人々および利害関係人の参加を重視している。SEAは環境分野での決定への参加を実現する重要な機会である。本稿ではSEAにおける参加指標をつくることで参加を推進するために、SEAの各段階での参加の在り方を、EUの例から検討する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第58回】二酸化炭素回収・貯留(CCS)に関する法政策研究 その4――中国におけるCCS/CCUSの取り組み
柳 憲一郎(明治大学法科大学院 教授・明治大学環境法センター長)/小松 英司(明治大学環境法センター 共同研究員)/中村 明寛(明治大学環境法センター 研究推進員)
▼概要文表示2016年12月号
 近年、中国によるCarbon Capture and Storage(CCS)/Carbon Capture, Utilization and Storage(CCUS)(以下、CCS/CCUSという)の導入・普及に向けた著しい取組みが世界で注目されている。しかしその一方で、中国には包括的なCCS/CCUSの法規制が確立されていない。ここでは、中国によるCCS/CCUSの普及・促進の動向、CCS/CCUSに関する法政策の歴史的背景及び法制度の動向を概観しつつ、CCS/CCUSに特化した具体的な課題を検討する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第57回】二酸化炭素回収・貯留(CCS)に関する法政策研究 その3
柳 憲一郎(明治大学法科大学院 教授・明治大学環境法センター長)/小松 英司(明治大学環境法センター 共同研究員)/中村 明寛(明治大学環境法センター 研究推進員)
▼概要文表示2016年11月号
 二酸化炭素の回収・貯留技術(CCS)の導入・普及は、地球上の人類社会による二酸化炭素排出に対する大幅削減策として重要な役割があると広く議論されるようになった。一方、CCSの社会的実装にあたっては、各国の政治的・経済的状況、環境的背景及びCCSに対する社会的受容性等を考慮した包括的な法制度の枠組みが不可欠となる。特に、同技術の導入にはエネルギー改革やインフラ整備の開発など多額の社会費用を要するため、開発・導入コストの削減、普及に向け適切な政策手法の選択が求められる。近年、我が国では、温室効果ガスの長期排出削減目標を達成するためCCS技術の商業化に向けた動きがある。本稿では、我が国のCCS技術の商業化に向けて、どのような政策手法が、特に導入の初期段階の政策として諸外国で議論されているのかを概観するとともに、我が国においてCCS 導入の初期段階の政策手法を選択する場合における配慮事項を考察した。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第56回】 二酸化炭素回収・貯留(CCS)に関する法政策研究 その2
柳 憲一郎(明治大学法科大学院 教授・明治大学環境法センター長)/小松 英司(明治大学環境法センター 共同研究員)/中村 明寛(明治大学環境法センター 研究推進員)
▼概要文表示2016年10月号
 本稿では、CO2の貯留方法の一つの鉱物化手法を取り上げる。将来、玄武岩への炭酸塩鉱物貯留技術が世界的なCCS技術の導入・普及に向けての有効な手段の一つと考えられ、実例として、アイスランドのCarbfi x 実証プロジェクトを紹介する。一方、玄武岩への炭酸塩鉱物貯留に関する法制度については、いまだ広く議論されていない。そこで、欧州のCCS 導入に関する法制度に焦点を当て、将来の玄武岩への炭酸塩鉱物貯留技術の実用化に向けての関連規制について考察した。CCS 技術による玄武岩層への炭酸塩鉱物貯留については、CCS指令による地下層貯留の定義によると、将来的に利用可能な貯留サイトとして位置づけており、特定の禁止や排除の要件はなく、実用化へのプロセスは他の地下層貯留と同様である。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第55回】 「廃棄物」ではなく「資源」に~天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用のために~
循環資源法制研究会
▼概要文表示2016年9月号
 循環型社会形成元年から早16年が経過した。この16年の間に国内では、新たな個別リサイクル法等の制定・改正等や、企業や家庭での意識の高まり等、循環型社会形成への取り組みが一歩ずつ進んできた。一方、海外に目を向けると、人口の増加や新興国の成長等、資源問題は以前にも増して重要な問題となり、その解決に向けて大きく世界の動向は変わりつつある。経済・社会のグローバル化が進む中で、資源問題もよりグローバルに考えていく必要もある。本稿は、「むだなく資源を利用していく」という観点から検討し、公表したブックレット「「廃棄物」ではなく「資源」に~天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用のために~Turning “Waste” into “Resource”~Towards the sustainable managementand effi cient use of natural resources~」(2015 年10月1日、「循環資源法制研究会」編著、みずほ情報総研(株)発行)を一部編集した上で、転載したものである。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第54回】二酸化炭素回収貯留(CCS)に関する法政策研究 その1
柳 憲一郎(明治大学法科大学院 教授)/小松 栄司(明治大学 環境法センター 研究推進員)/中村 明寛(明治大学 環境法センター 研究推進員)
▼概要文表示2016年8月号

 パリ協定で採択された2℃以下への目標を達成するにはCCS技術の導入率が今後さらに
上昇することが前提となるが、現状をみるとその導入傾向は低く、早急な対応が求められる。とりわけ、諸外国によるCCS技術の理解に基づき、各国政府及び投資家による経済的サポートとそれに対応する各国の政策改革が緊要となっている。今後わが国がCCSを導入し、商業運転を前提に普及を行うには、温暖化政策上CCSが必須であり、将来CCSでどの程度削
減を担うのかを明示した上で、費用便益が高く、CCSの社会的受容性が得られる法・規制を
及び費用分担の枠組みを見出し、関連法を含めて法制度を整備することが求められる。まず
は、そのための法政策フレームを提示し、研究の道筋を示すことにしたい。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第53回】 災害時の被災者に対する支援制度の現状と課題―被災者生活再建支援法を中心に
小林 寛(信州大学 教授)
▼概要文表示2016年7月号

 2016 年4月14日(以降)、平成28(2016)年熊本地震が発生した。同年5月27日14時現在、49 名の死者、1,663名の重軽傷者、全壊住宅8,309棟・半壊住宅1 万8,724棟等の住宅被害が発生した。災害が発生した場合に最も重要なのは被災者の保護であり、その保護の方法は多様であるところ、地震の場合には生活の基盤をなす家屋が損壊するため、被災者の生活の再建を支援することが重要である。そこで本稿においては、災害時の被災者に対する支援制度の現状と課題について被災者生活再建支援法を中心に検討を行う。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第52回】  災害廃棄物の迅速な処理に向けた取り組みについて
藤原 崇(丸山国際法律事務所 弁護士)
▼概要文表示2016年6月号

 東日本大震災における膨大な災害廃棄物の処理経験を契機として、廃棄物処理法・災害
対策基本法が改正された。またそれと同時に、我が国の災害廃棄物処理への取り組みが、広域連携と事前の備えを重視した形へと変化をしてきた。これらの取り組みはまだスタートし
たばかりである。しかしそのような中でも、平成27年9月に発生した関東東北豪雨災害では、新たな取り組みや法改正が効果を発揮した場面がみられた。東日本大震災以降の災害廃棄物の迅速な処理に向けた取り組みについて述べる。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第50回】 鉱物資源開発の最近の動向
黒坂 則子 同志社大学 法学部 教授
▼概要文表示2016年4月号
 鉱物資源はわれわれの日常生活に欠かせないものである。しかし先進工業国の発展とともに鉱物資源の枯渇が懸念されており、鉱物資源の恒久的確保は国家の枠を超えた全人類共通の喫緊の課題となっている。また、開発途上国における鉱物資源による環境汚染が深刻化しており、資源ナショナリズム及び紛争鉱物問題の影響も懸念される。本稿は、このような鉱物資源をめぐる諸問題と開発の動向について包括的に概観するものである。鉱物資源開発をめぐる諸問題とその対応策の検討は、環境法の基本理念たる持続可能な社会の構築を模索するうえで、今後の重要な課題となるものと思われる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ49】スコットランド土地利用戦略と エコシステムアプローチ
古川 勉 東京都市大学 環境学部 准教授
▼概要文表示2016年3月号

 生物多様性条約のもとで採用された行動指針であるエコシステムアプローチは、行政界とは異なる生態系の範囲内の生物多様性の保全と利用について、利害関係者等が意思決定を行っていく制度の構築を求めている。法的拘束力を有しないこのアプローチを、スコットランド政府は、気候変動法に基づく土地利用戦略において積極的に導入している。本稿では、この導入のあり方を具体的に検証した。スコットランド土地利用戦略が、エコシステムアプローチの求める制度構築に向かいつつあることを確認した上で、その一層の実施に向けての課題について展望した。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ48】フランス・環境保護のための指定施設 (ICPE)について
川上 ようこ トゥールーズ第1大学(フランス)法学博士
▼概要文表示2016年2月号

 フランスの土壌管理は主にICPE(Installation classée pour la protection de l’environnement)、「環境保護のための指定施設」と呼ばれる行政によるリスク管理によって行われている。工業、農業、手工業などすべての産業開発には有害なリスクが生じる可能性がある。産業施設をカテゴリーに分け有害性の種類や施設の種類などを記号や番号で分類し、国が管理を行っている。国は分類に応じて、届出、登録、承認を行う。フランスのICPEの制度は、環境や自然、人体の健康を守るうえで重要なものとなっている。最近、環境管理のツールとしてより有用なものにするために、ICPE 手続きの簡略化、電子化を定めた行政命令(デクレ)が発表された。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ47】景観をめぐる最近の裁判例
谷口 聡 高崎経済大学経済学部 教授
▼概要文表示2016年1月号
 本稿は、2008年から2014年までの29件の「景観訴訟」を概観して、その状況を分析し、若干の検討を加えることを目的とする。最高裁判所が平成18年に私法上の法益としての「景観利益」を民事裁判において認定したが、最近の景観訴訟の大多数は行政事件訴訟である。景観保護を訴える原告が勝訴する判決は1件のみしかみられない。原告が敗訴する判決の理論構成のパターンは明確になっている。景観保護は第一義的には行政の施策によるべきであるが、司法的手段も確保しなくてはならない。とりわけ、民事訴訟による景観利益の保護の意義を見直す必要もあると考える。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ46】原子力リスクと原子力安全規制の 新たなアプローチ
斉藤 照夫 損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社
▼概要文表示2015年12月号
 原子力リスクは放射線による人と環境への有害な影響のリスクであり、福島第一原子力発電所事故を受けて安全規制の大幅な強化が求められている。事故後に発足した原子力規制委員会は、新たなアプローチを採用して原子力安全規制の強化を進めてきた。この新たなアプローチは、①リスク抑制のための安全目標の設定、②最新の知見に基づく規制の強化、③シビアアクシデント対策の規制要件化、④規制機関のミッションの明確化を特徴としており、環境リスクを管理する環境規制の手法と多くの共通性がある。
 そこで本稿では、原子力安全規制の新たなアプローチについて、環境規制のアプローチと対比しつつ、その特徴を考察する。その上で、国民とのリスクコミュニケーションや国際的な原子力安全への取組みについても、環境分野の経験を参考にした一層の推進への期待を述べる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ45】EU大気質指令の国内法化をめぐるEU法とイギリス国内法の関係 ─ EU司法裁判所先決裁定手続および差戻後のイギリス最高裁判決
兼平 裕子 愛媛大学 法文学部 教授
▼概要文表示2015年11月号
 EU大気質指令(Directive 2008/50/EC)は、NO2等さまざまな大気汚染物質の削減を義務付ける指令である。本稿は、その目標値達成のための国内法化ができなかった場合の、加盟国およびEUの法的対応につき、イギリス国内裁判所判決、指令の解釈および遵守義務に関するEU司法裁判所の先決裁定、さらには当該先決裁定を受けた差戻後のイギリス最高裁判決における「職務執行命令」につき検討したものである。
 日本への示唆としては、①環境公益訴訟について環境NGOの原告適格が所与のものとして認められていること、②国会主権原則に縛られていた裁判所が行政統制機能につき積極的な司法判断を行ったことが挙げられる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ44】ロンドン海洋投棄条約・議定書の現状と 今後の課題
岡松 暁子 法政大学 人間環境学部 教授
▼概要文表示2015年10月号
 海洋投棄による海洋汚染を防止することを目的として、1972 年にロンドン海洋投棄条約が採択された。本条約は附属書に掲げられた廃棄物等に該当しないものは海洋投棄ができる仕組みであったが、本条約の規制を強化することを目的として採択された1996年議定書は海洋投棄を原則禁止とし、附属書に掲げられている廃棄物等についてのみ、環境汚染物質の除去及び漁ろう・航行の重大な障害防止をした上で廃棄を「検討可能」なものとし、事業者が環境影響等を予測・評価し、規制当局がその結果を審査する仕組みを設けることを求めている。そして現在、海洋汚染をさらに厳格に防止することを目指し、これらの条約及び議定書の適用範囲の拡大についての議論がされているところである。今後の対応として、ロンドン条約・96年議定書の締約国のうち途上国の報告義務の履行確保を進めていく必要がある。また、これらの条約の適用対象の拡大については、なお一層慎重な検討が必要であり、特に二酸化炭素の海底下地層貯留に伴う輸出入に関しては、汚染者の特定とともに移動によって生じる環境損害に対する責任の帰属が問題となろう。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ43】世界遺産条約における産業遺産の位置づけ ─「明治日本の産業革命遺産製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の登録をめぐって
木村 ひとみ 大妻女子大学 准教授
▼概要文表示2015年9月号
 2015 年に開催されたユネスコの第39回世界遺産委員会で「明治日本の産業革命遺産製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の世界遺産(文化遺産)登録が決定した。日本で初めてとなるシリアル・ノミネーション(遺産群)の採用、内閣官房の主導による景観法、港湾法、公有水面埋立法を組み合わせた形での国内法による保護など、従来の文化遺産とは異なる様相を呈した、稼働遺産を含む産業遺産の登録となった。産業遺産については、1994年の世界遺産委員会でその強化方針が示されて以来、世界的に増加傾向にある。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ42】イギリスにおける生物多様性ノーネットロス実現 に向けた取組み
二見 絵里子 早稲田大学大学院 法学研究科 博士後期課程
▼概要文表示2015年8月号
 イギリスでは、生物多様性ノーネットロス政策が導入され、その一方でそれを実現する手段として生物多様性オフセットが注目を集めている。生物多様性オフセットの活用は、生息地指令の下でのナチューラ2000 への代償措置がその一例として挙げられるが、イギリスでは個別分野での活用のほかに、2011 年に生物多様性オフセットガイドラインが作成された。
 本稿は、ノーネットロス政策の導入、生物多様性オフセット活用の展開、ガイドラインの概要を確認する。その上で、ノーネットロスの実現に向けた取組みとして生物多様性オフセットを活用することによる生物多様性保全への意義を検討する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ41】土壌汚染の「制度的管理」
赤渕芳宏 名古屋大学大学院 環境学研究科 准教授
▼概要文表示2015年6月号

 2009 年の土壌汚染対策法改正に係る議論では、土壌汚染の「制度的管理」が関心を集めた。しかし、それが何か、また土壌汚染のリスク管理においてどのような役割を果たすかについては必ずしも明らかにされていない。本稿は、1990年代より議論がみられるアメリカ法をよすがとし、連邦環境保護庁が公表している制度的管理に関する二つの指針をもとに、その定義や土壌汚染管理対策における位置づけにつき明らかにするとともに、登場の経緯や分類につき紹介することを試みた。そのうえで、土壌汚染対策法2009年改正で導入された「形質変更時要届出区域」の仕組みが制度的管理に相当することを指摘した。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ40】気候変動に関する地域リーダーシップの必要性 ─Regional Climate Leadership
Kate Crowley タスマニア大学 Social Science Associate Prof中村明寛 タスマニア大学PhD/明治大学環境法センター客員研究員
▼概要文表示2015年5月号
 ポスト京都における新しい国際的気候変動対策について様々な議論がされる今、改善点の一つとして先進国、途上国を含む地域レベルのガバナンス強化が求められている。地域的ガバナンスを構築するためには、地域に属する周辺国の責任共有や情報、技術等の協力が欠かせない。また、その地域における先進国の役割も当然問われるであろう。本稿では、地域レベルのガバナンスを強化するにあたり、先進国による地域的リーダーシップにその重要な役割があると着目した。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ39】OECD環境政策委員会及び化学品合同会合の動向について
相澤寛史 環境省 総合環境政策局 環境影響評価課(前OECD 環境局環境保健安全課アドミニストレーター)
▼概要文表示2015年4月号
 本稿では、経済協力開発機構(OECD)の最近の環境局の主要な取り組みについて紹介する。環境政策委員会では、ハイレベルでの気候変動やグリーン成長に関する積極的な発信や活動がなされている。政策分析としても、気候変動ファイナンスや環境と経済の相互影響を踏
まえた行動をしないことによる影響や、対策を講じることによる便益の分析が進められている。
化学品合同会合においては、データの相互受け入れをはじめとした既存の活動の加盟国以外へのアウトリーチ、工業用ナノ物質をはじめとする新たな課題への対応、欧州の動きを踏まえた活動方針の見直しといった動きがある。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ38】容器包装リサイクル法見直しに向けての検討
織 朱實 関東学院大学教授
▼概要文表示2015年3月号
 1999 年に制定された「容器包装リサイクル法」は、改正法の施行から10 年を迎え、2 回目の改正に向けての検討に入っている。2006年の法改正では、自治体が負担する分別収集の費用が、事業者が負担する再商品化費用をはるかに上回るという問題が生じ、自治体と事業者の「役割分担の見直し」が大きな争点となったが、議論を尽くせないまま、従来の法律の枠組みの中でより効率的なリサイクルを進めていくための「拠出金制度」などの諸改正が行われた。本稿では、「廃棄物政策から資源政策へ」という国際的な流れの中、次なる容器包装リサイクル法の見直しのうち、「連携強化」と「拠出金のあるべき姿」に焦点を当てて検討を行う。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ37】外航海運に対する環境規制の最近の動向
野村摂雄 明治学院大学法学部非常勤講師
▼概要文表示2015年2月号
 船舶によって国際的な海上輸送を行う外航海運は、世界単一の市場で営まれるため、国や地域ごとの規制よりも世界一律の規制が好まれ、それは国際海事機関で採択される。日本に
とっては、島国であるために国際貨物輸送の99. 7%を担う外航海運は不可欠なものであり、また、造船業など関連産業が発達していることから、外航海運に対する環境規制による影響は大きい。
 本稿では、外航海運に対する環境規制の基本となるMARPOL 条約・海洋汚染防止法とともに、特に進展が見られるCO2排出規制及びバラスト水規制について述べる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ36】国際水路非航行利用条約発効と今後の課題
鳥谷部壌 大阪大学大学院法学研究科博士後期課程
▼概要文表示2015年1月号
 国際水路非航行利用条約は、国連総会の補助機関である国際法委員会(ILC)での約20年にわたる起草作業を経て、1997 年に採択された国際水路に関する初の一般的・普遍的条約である。採択から17 年の時を経て、ようやく2014 年8月17日に発効したのを契機として、条約の今後の課題を検討しておく必要があると思われる。
 そこで本稿では、条約発効までの経緯、条約の内容、条約の運用上の諸課題、他の水路条約との関係、及び日本の役割について、国際水路法の視点から検討を試みることとする。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ35】地球環境条約レジームにおける報告制度の機能と役割に関する一考察
川本充 北九州市立大学法学部講師(2015年度)/前・龍谷大学地域公共人材政策開発リサーチセンターリサーチアシスタント
▼概要文表示2014年12月号
 地球公共財としての地球環境の保全を行うためには、地球環境条約レジームのような包括的な法システムは必要不可欠である。「地球益」とも称すべき公共的な利益を保護していくためには、国際法や国際政治の果たす役割は、国内的、地域的な取り組みと同時に、きわめて重要である。
 これまでは「国際的なルール、原則」という「概念的なもの」としての理解から、その実効性についての疑問は払拭されてきた感がある国際法だが、気候変動枠組条約や京都議定書といった気候変動条約レジーム、オゾン層条約レジーム、生物多様性条約レジーム等、数多くの地球環境条約が成立し、国際制度として機能している今日、地球環境問題の現実的な解決のための実効性については、国際環境法学は、政策的な意味も含めて相応の関心を払う必要がある。
 本稿ではこうした問題意識のもと、地球環境条約レジームの制度構造を整理した上で、実効性確保のため重要な機能と役割を担う報告制度に光を当て、地球環境条約レジームの報告制度の機能と役割について考察したい。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ34】オーストラリアの気候変動に関する政策動向─政策手段の歴史的変化とその要因
中村明寛 タスマニア大学PhD
▼概要文表示2014年11月号
 オーストラリアの気候変動政策は近年、著しく変化している。2012年の炭素税の導入では、従来の「参加型・インセンティブ型」の気候変動政策から「法的拘束型」への移行を目指したが、2014年の炭素税の廃止により従来の参加型へと回帰している。本稿では、オーストラリアにおける過去26年間の気候変動政策手段の変化とその要因を分析し、今後の政策課題について考察する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ33】海外投資活動における環境社会配慮の架け橋役を担う─日本貿易振興機構(ジェトロ)の事例を参考に
作本直行 明治大学兼任講師
▼概要文表示2014年10月号
 環境面だけでなく、社会配慮への関心が国際的に高まっている。ODA関連の環境社会配慮分野の取り組みで、これまで国際的に高い評価を受けてきた日本であるが、我が国中小企業の海外進出にともない、社会面の配慮をさらに一層強化する必要がある。これまで貿易投資活動分野で情報提供機関としての第一人者たるジェトロも、企業への環境社会配慮の情報提供に大きく貢献すべきことが期待される。特に中小企業が競って途上国に海外進出を行う段階にあり、最近改定されたジェトロの環境社会配慮ガイドラインを中心に、ジェトロの架け橋としての新しい役割を検討する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ32】ドイツ脱原発関連訴訟の動向─暫定的操業停止命令が違法とされた事例
松村弓彦 弁護士
▼概要文表示2014年8月号
 ドイツにおける脱原発法制の推移の過程で、福島原発事故を契機として、従来ドイツが想定していなかったシナリオによる原発の安全性評価改訂の要否を検証する目的で発せられた連邦政府の指示に基づいて、ヘッセン州(被告)が行った原発Biblis-AおよびBにかかわる暫定的操業停止命令・再稼働禁止命令について原発設置・操業者(原告)が命令の違法確認を求めて提起した訴訟事件で、裁判所は右命令を違法と判断し、原告の請求を認容した。本稿では右判決における違法性判断に関する実体法上の論点(リスク管理)について検討する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ31】売却土地所有会社と買取り会社間の土地売買契約上の特約により、土壌汚染土地の瑕疵担保責任についての商法526 条を排除した事例について
加藤了 弁護士/人間環境問題研究会監事
▼概要文表示2014年7月号
 被告会社所有の土地を売買契約により原告会社が取得し、その引渡しを受けて約8か月後にその土地に六価クロム・鉛等の有害物質が発見され、その土壌汚染*1による損害について、売主・被告会社と買主・原告会社間にて締結された土地売買*2の契約による売主・被告会社の瑕疵担保責任*3、商法526条の適用などをめぐる訴訟事案について検討する。なお、本稿の記載は、柳憲一郎先生の御配慮によるものであるため、改めて厚く御礼申し上げる次第である。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ30】2020 年東京オリンピック・パラリンピック環境アセスメントと持続可能性アセスメントへの道
柳憲一郎 明治大学法科大学院教授
▼概要文表示2014年6月号
 持続的発展には、自然のもつ再生能力を維持することによって、将来にわたって利用できる環境資源を残す、もしくは、環境を利用する場合、環境のもつ自然の浄化能力(環境容量)自体を将来的に維持できるような方法で利用することが不可欠な条件となる。それゆえ、持続可能な社会とは、その社会を成り立たせている生産基盤である生態系と、それを支えている自然の総体を健全に維持するように、現世代のニーズを成長管理する社会のことだといえる。それを実現するツールとして、持続可能性アセスメント(Sustainable Impact Assessment、以下、持続アセスという)と呼ばれるものがあり、その先駆けとして、欧州委員会で実施している規制アセスメントがある。また、我が国の2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に係る環境アセスメントも環境、社会経済項目を評価する戦略・持続アセスの試行として位置付けられる。本稿では、それらを紹介することにしたい。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ29】中国における微小粒子状物質(PM2. 5) 対策の最近の動き
柳憲一郎 明治大学法科大学院教授/YOU Sei 明治大学法科大学院環境法センター客員研究員・律師
▼概要文表示2014年5月号
 中国におけるPM2. 5対策は、2013年9月から本格的な取り組みが始められている。国務院は10 分野35 条にわたる「大気汚染防止改善行動計画」を発表し、環境保護部、国家発展改革委員会等の各部門が共同して「北京市、天津市、河北及び周辺地区の大気汚染防止改善行動計画実施細則」を公布している。また、大気汚染防止対策に関する法制度はたびたび改正されているが、大気汚染の悪化の抑制に有効な成果を上げているとはいい難く、大気汚染対策の整序には問題点や課題が山積しているといえる。
 大気汚染対策立法の課題を克服し改善するための規制的手法と、税などの誘導的手法とを統合的に活用するポリシーミックスが現下に求められている。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ28】廃棄物処理施設に係る 環境アセスメントの課題
川島省二 一般社団法人茨城県環境管理協会調査事業長兼公益事業長
▼概要文表示2014年4月号
 環境アセスメントとは、環境に影響を及ぼす可能性がある事業の計画について、事前に調査・予測・評価を行って対策を講じることを目的とする。
 現在、ほとんどの地方自治体では環境影響評価条例が設けられ、また廃棄物処理施設に対しては廃棄物処理法に基づき、「生活環境影響調査」の義務づけがなされている。しかし、同じ焼却施設の分類であっても、市町村の一般廃棄物処理施設と民間の廃棄物焼却施設とでは、実施する環境調査の内容に大きな差がみられるのが現状である。
 本稿では、特に焼却をともなう施設の大気環境調査を代表例として、いわゆる公共事業と民間事業の隔たりについて現状の問題点を述べる。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ27】欧州共通農業政策の更なる環境重視化に 関する諸論点─2014年度以降の枠組みを中心に
久米一世 早稲田大学法学学術院助手
▼概要文表示2014年3月号
 欧州における共通農業政策であるCAPは、次期EU多年度財政枠組み(2014~2020 年)に合わせて制度の枠組みを一新させた。2010年10月に出された欧州委員会文書「EU 予算見直し」は、今後EUが必要とする農業部門を、連帯、気候変動、環境保護と生物多様性、健康、競争力、食料安全保障に対して、「これまで以上に貢献するもの」と表現している。それに応じて、農業経営の維持等を目的とした助成措置である直接支払制度についても、その受給条件であった既存のクロス・コンプライアンス(環境遵守事項)に加え、同制度の更なる環境重視化が制度上は果たされたが、その評価はいまだ未知数である。本稿では欧州における農業環境政策の展開を概観しつつ、その論点を整理する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ26】地下水資源の保全と利用をめぐる 法規範の方向性
奥田進一 拓殖大学教授
▼概要文表示2014年2月号
 我が国の水資源利用量全体に占める地下水利用は約12%に過ぎないが、生活用水と工業用水になると約50%を占める。しかし我が国において、地下水資源を専門に規律する法律は現在のところ存在せず、過剰揚水や表層環境からの汚染問題に加え、土地所有権行使による水源地の買収問題等により、地下水資源対策の法規範の整備が急がれている。このような地下水資源の利用と保全をめぐる諸問題について、河川法等によって規律される地表水
の利用と保全との差異を明らかにしながら、地下水の法的性質をめぐる問題も含めて、その規範すべき方向性について紹介する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ25】近時の京都市における産業廃棄物行政 ─産廃処理・3R 等優良事業場認定制度(産廃チェック制度)を 中心に
黒坂則子 同志社大学法学部准教授
▼概要文表示2014年1月号
 2013 年3月、京都市は「京都市産業廃棄物の適正処理の確保等に向けた自己点検の推進等に関する要綱」を策定し、産廃処理・3R等優良事業場認定制度(産廃チェック制度)を開始した。同制度は産廃処理業者に対するものではなく、3Rや適正処理に取り組む排出事業者に対する認定制度であり注目される。本稿は、近時の京都市の産業廃棄物行政について、産廃処理・3R等優良事業場認定制度(産廃チェック制度)を中心に若干の検討を試みるものであ
る。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ24】ドイツとベルギーの脱原発政策
長谷敏夫 東京国際大学国際関係学部教授
▼概要文表示2013年12月号
 ドイツとベルギーでどのように脱原発が決定され進められているのかを政治的背景を中心に検討する。国民ほとんどが脱原発を望み、政党がその民意を汲み取り、政権を取って法律をつくり脱原発を実現しつつあるのがこの両国である。
 ドイツでは、2000 年の脱原発の合意(原発の廃止、使用済燃再処理禁止)以来、再生可能エネルギーの開発に邁進することにより2022年12月31日に原発を全廃する。
 ベルギーでは、2003年に緑の党が連立政権に参加し、脱原発法を成立させた。2025年に最後の原発が停止する見込みである。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第23回】国際環境法における環境影響評価
岡松暁子 法政大学人間環境学部教授
▼概要文表示2013年11月号
 環境影響評価は、国家の環境保護義務(実体的義務)を補完するための手続的義務として発展してきた。今日では多くの国家で国内法により実施が義務づけられ、さらには国際的にも様々な条約に取り込まれるようになってきた。他方で、条約に規定されていない場合や、条約の非締約国間においても、その実施が義務づけられるのか否かについては議論がある。そこで本稿では、EIA実施義務の理論的根拠を確認した上で、それが争点となった国際判例を検討し、その国際法上の位置づけを検討することとする。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第22回】グリーン経済推進のための法政策の展望
苦瀬 雅仁 環境省総合環境政策局分析官
▼概要文表示2013年9月号
 リオ+20での議論を経た今日に至るまでの内外の議論及び我が国の法政策を踏まえて、今後の法政策を展望すると、
① 今日の環境問題への取り組みに必要な、幅広い経済活動に関する法政策進展の必要性が高まり、その際ⓐグリーン経済の動きに対応できなければ市場から排除されるリスクが一層大きくなること、及びⓑ他方でグリーン経済の動きへの適切な対応は、中期短期の当該事業者の事業拡大、経営改善の好機となる可能性が高まること、に一層の留意が必要となること、
②「グリーン」が社会的視点等を含む広い意味になっていくこと、
③多様な主体の多様な形の取り組みに対応したものとなること、
が予想される。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第21回】ナノテクノロジーの予防的法規制に関する国際的動向と日本の現状・課題
中山 敬太 早稲田大学大学院 博士後期課程
▼概要文表示2013年8月号
 本稿では、科学的不確実性の伴う健康・環境リスクが指摘されているナノマテリアルを採り上げ、その予防的法規制を巡るアメリカやEUを中心にその規制体系を比較検討した上で一定の傾向を示し、その国際的動向を踏まえ日本の現状と課題を指摘する。このナノマテリアルの身体的悪影響は、当該物質が微小かつ高硬度で難分解であるがゆえ、様々な懸念が指摘されている。そこで、科学的不確実性を伴う問題に対して、後に深刻かつ不可逆的な悪影響を及ぼすことのないよう迅速かつ適切な対処をすべく、環境法の基本原則の一つとして位置付けられている「予防原則」の考え方を導入した予防的な法的制御の実態を問う。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第20回】ベトナム環境保護法の改正動向について
苦瀬雅仁 環境省 総合環境政策局 分析官
▼概要文表示2013年7月号
 ベトナムでは、環境保護のための規制の実効性の確保などを目指した環境保護法(1993 年制定、2005 年改正)の全面改正作業が行われている。本年3月に示された改正草案は、理念等を示す基本法としての性格を持つと同時に、横断的な施策及び公害、廃棄物、地球環境問題に関する分野別施策の実施法の性格も兼ね備えたものを目指している。現在、来年第二四半期の国会での成立を目指して我が国ほかの支援も得て立案作業が進められているところであるが、理念部分と実施法部分それぞれに応じた規定の明確化、定義や規定内容の本法内での整合、法律相互間の調整、担当機関の執行体系の明確化等実効性を持たせるための的確な改善等を今後の立案作業の中で進めていく必要がある。
<シリーズ>水銀に関する水俣条約の概要
早水 輝好 環境省 環境保健部 企画課長
▼概要文表示2013年6月号
 水銀による地球規模の環境汚染と健康被害を防止するための条約の制定に向けた国際交渉が2010年より開始され、5回にわたる政府間交渉委員会の結果、本年1月に「水銀に関する水俣条約」として条文案が合意された。この条約は、水銀の供給・使用から排出・廃棄に至るすべてのライフサイクルにわたって国際的に規制を進めようとするもので、本年10月に熊本市・水俣市で開催される外交会議で採択される予定である。日本は、水俣病の経験国として積極的に条約交渉に参加してきたところであり、条約の早期批准に向けた国内対応の検討、早期発効に向けた途上国支援などを進めていく。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第18回】銀行の融資とエクエーター原則
殖田 亮介 みずほコーポレート銀行グローバルストラクチャードファイナンス営業部グローバル環境室 室長
▼概要文表示2013年5月号
 エクエーター原則は、2003年6月に発足した民間金融機関の環境・社会配慮に関する自主ガイドライン。銀行はプロジェクトファイナンスでの融資を実施する際に、事業者が同原則の基準に則って自然環境と地域社会に配慮することを要求する。エクエーター原則は、「資金の流れが環境・社会に配慮したプロジェクトにのみ向かうことを実現する仕組みである」ともいえる。同原則は発足してまだ10年であるが、事実上プロジェクトファイナンスにおける民間金融機関の環境・社会リスク管理のグローバルスタンダードとなっている。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第17回】川崎市の環境アセスメント条例改正と技術指針変更について
坂 祥士郎 川崎市環境局環境評価室担当係長
▼概要文表示2013年4月号
 川崎市は、平成23年4月の環境影響評価法の改正など環境アセスメント制度を取巻く情勢の変化に対応するため、平成24年12月に、環境影響評価に関する条例を改正し、計画段階の環境配慮計画書制度の拡充、インターネットの利用による図書の公表、説明会の開催などを義務付け、対象事業の要件についても見直しを行った。あわせて、環境影響評価等技術指針については、新たに環境配慮計画書の作成手順等を盛込み、これまでの運用実績における課題を踏まえた、調査・予測評価手法についても明確化を図った。おわりに、今後の運用に向けた展望について考え方を整理した。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第16回】環境影響評価法をめぐる最近の動向
上杉哲郎 環境省 総合環境政策局 環境影響評価課長
▼概要文表示2013年3月号
 改正環境影響評価法(以下「改正法」という)の平成25年4月の完全施行に向けて、関係する政省令や主務省令、技術ガイド等の策定が進んでいる。風力発電所は平成24年10月から法対象事業となり、自主的に作成されていた評価書等に係る経過措置が講じられた。環境改善効果が期待できる火力発電所のリプレース等について、環境アセスメントの迅速化を図ることとされた。東日本大震災からの復旧・復興事業について、環境影響評価法の適用除外や特例措置が講じられた。放射性物質汚染について、環境影響評価法でも扱うこととすべく、法改正が検討されている。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ/第15回】中国の『環境保護法』修正案(草案)の動向と展望について
尤 セイ 中国律師/柳 憲一郎 明治大学法科大学院 教授
▼概要文表示2013年2月号
 1979年から試行され、1989年から正式に施行された現行の『環境保護法』は既に30年を経過した。そのため、現行法は経済高度成長中に生起したさまざまな環境保護問題に対応しきれないところが少なくなかった。そこで、2012年8月に現行環境保護法を修正すべく、『中華人民共和国環境保護法修正案(草案)』が公表された。修正案(草案)は全体で7章、47ヵ条で構成されている。草案では、環境保護法第21か条が改定され、新たに4か条が追加され、8か条が合併されている。本稿では、試行法から現行環境保護法までの法の改善を振り返るとともに、現在、提案されている修正案の内容を紹介するものである。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ14】EUにおける温室効果ガス排出量のモニタリング
大杉 麻美 明海大学 不動産学部 教授
▼概要文表示2013年1月号
 EU-ETSは、EUが京都議定書に規定する8%の温室効果ガス排出削減目標を達成するための排出権取引制度であり、2005年より制度が開始され、2013年度からは第3フェーズに入ることとなる。2012年以降は航空業界にも適用が始まっており、日本の航空会社でも、欧州に乗り入れる場合にはEU-ETSの適用を受けることとなる。
 本稿では、欧州委員会が2011年11月23日に提出した温室効果ガス排出量のモニタリング・レポートメカニズムに関する法案を紹介する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ13】COP18(ドーハ)に向けた2013年以降の京都メカニズム・新メカニズムの課題
木村 ひとみ 大妻女子大学 助教
▼概要文表示2012年12月号
 新メカニズムとは、京都議定書に基づく京都メカニズムに対する、2013年以降の将来枠組みにおける市場メカニズムを意味する。日本やロシアはCOP17(ダーバン)で京都議定書に基づく第2約束期間への不参加を表明したが、これらの国が2013年以降の新メカニズムに参加できるのか否かについても現時点では明確になっておらず、新メカニズムのあり方とともに2012年末のCOP18(ドーハ)で本格的な議論が開始される予定である。本稿では、CDMなどの従来の京都メカニズムの改革の議論とともに、セクトラル・クレデティング・メカニズム(SCM)など新メカニズムをめぐる近年の動向、交渉の論点、主要国の見解、COP18に向けた課題について検討する。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ12】地球温暖化と森林吸収源をめぐる最近の動向
小林紀之 日本大学法科大学院客員教授
▼概要文表示2012年11月号
 森林は地球温暖化に大きな役割を果たすことは広く知られている。京都議定書では各国の削減目標に森林による吸収量を算入することを認め、わが国は6%削減の内3.8%を森林吸収源が占めている。
 わが国のカーボン・オフセットのJ-VER制度では森林吸収源によるクレジットが大きな位置を占め、MRVにはISO14064、ISO14065が活用されている。将来枠組での熱帯林減少に取組むREDDプラスのMRVでもISO14064は応用されると思われる。
 J-VER運営委員、新クレジットのための在り方検討委員としての経験や国際会議で得た知見から最近の国内外の動向を紹介したい。
<シリーズ>【新・環境法シリーズ11】第4次環境基本計画の概要と今後の環境政策の展開の基本的方向について
苦瀬雅仁 環境省総合環境政策局環境統計分析官
▼概要文表示2012年9月号

 第4次環境基本計画は,1)政策領域の統合,2)国際情勢に的確に対応した戦略をもった取組の強化,3)持続可能な社会の基盤となる国土・自然の維持・形成,4)多様な主体による行動と参画・協働の推進,の四つの考え方を今後の環境政策の展開の方向として定めるなど,今日の環境問題が世界の経済,社会の重要な諸問題と極めて深く密接に関わること等を踏まえた新たな環境政策の大綱を示した。今後我が国は,この方針を生かし,リオ+20や各種環境条約に関する会議等はもちろん環境分野に限らぬ国内外の世界の情勢を踏まえて,戦略的極的な取組を進める必要がある。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ10】ドイツ狩猟法―民間による鳥獣保護管理を可能にした精緻な法制度
高橋満彦 富山大学人間発達科学部准教授
▼概要文表示2012年8月号

 近年我が国では、鳥獣被害の増加する一方で、狩猟者の減少が懸念されている。鳥獣保護管理には捕獲行為が伴うため、狩猟者が担い手の役割を果たしてきた。米国のように、行政が専門職員を雇って管理する方法もあるが、コストはかかるし、地域に根ざした狩猟者の技を代替するのは容易ではない。本稿では、民間による鳥獣保護管理に実績を有するドイツを取り上げる。ドイツでは、スポーツ・ハンターに管理捕獲を義務付けることにも成功しているが、それには狩猟権と猟区制など、狩猟者の法的権利の整備も重要であり、今後の我が国の制度設計にも参考となろう。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ9】バイオ燃料をめぐる諸問題
信澤久美子 青山学院女子短期大学教授
▼概要文表示2012年7月号

 地球温暖化防止を目的とする二酸化炭素排出対策のためにトウモロコシ等を原料とするバイオ燃料を使用する政策がアメリカで進められてきたが、トウモロコシ等を原料とするバイオ燃料は穀物の高騰を招き、発展途上国では耕作地を作るための森林伐採が起きるといういわゆる間接的土地利用変化(ILUC:Indirect land use change)などの問題を引き起こすと指摘されてきた。最近では、穀類などの食物を原料としない藻類由来のバイオ燃料生産の技術開発に期待が集まっている。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ8】 土壌汚染対策費用をめぐる紛争の動向
阿部 満 明治学院大学法学部教授
▼概要文表示2012年6月号

 土壌汚染対策法が施行され,市街地での土壌汚染の可能性が法的リスクと不動産取引において認識されるようになってからは,土壌汚染調査が定着し,このような土壌汚染が発見される例が増え,対策費用負担をめぐる裁判例も蓄積されつつある。土壌汚染対策法に基づく対策の数は限られており,これらの裁判は,契約,不法行為などの既存の権利義務に関する一般規定を用いて問題の解決を試みている。本稿は,最近の裁判例を紹介しながら,土壌汚染紛争の特色と裁判上の問題点を簡単に検討している。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ7】 オーストラリア環境法の新動向―CO2排出に価格を
黒川哲志 早稲田大学社会科学総合学術院教授
▼概要文表示2012年4月号

 2007年にようやく京都議定書を批准したオーストラリアでは,紆余曲折を経ながらも2011年にクリーンエネルギー法を成立させ,CO2の排出に価格を付ける制度を導入した。2012年7月からの3年間は炭素税として機能し,それ以降はCO2排出枠取引制度として機能する制度である。「生態的に持続可能な発展(ESD)」を環境法基本原則とするオーストラリアでは,外部不経済を内部化する経済的手法が広く採用されてきたし,環境アセスメントにおいてCO2排出の影響を考慮することが裁判所によって要求されることもあった。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ6】水銀の規制を巡る国際社会の動向
井上秀典 明星大学教授
▼概要文表示2012年3月号

 水銀の健康への影響は著しいものがある。金属水銀の汚染事例が各国で報告され,これに対し国家及び国際社会において法的拘束力のある規制を行う方向に進んでいる。アメリカの水銀輸出禁止法,EUの水銀輸出禁止及び安全な保管に関する規則,「水銀に関する地球規模の法的拘束力を有する措置に対する包括的かつ最適な取組方法のための新草案」はその表れである。先進国と開発途上国の水銀規制に関する考え方は異なるが,水銀規制条約の採択が待ち望まれる。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ5】豪州における気候変動法・政策の動向
中村明寛 タスマニア大学PhD
▼概要文表示2012年2月号

 2011年9月13日,炭素価格制度を含む「クリーン・エネルギー関連法案」を国会に提出。それから約3か月後の11月8日,連邦政府は,正式に炭素価格の制度化が正式に可決されたこと発表した。制度の導入開始は,2012年の7月からとなる。炭素価格導入案は,元労働党首相のラッド氏が長年アジェンダのトップリストとして上げていた優先課題である。この度,ラッド氏から政権を引き継いだ同党のギラード首相がこの炭素価制度導入を現実のものとした。国際的にみても,アメリカ,日本,韓国,中国などが将来的に炭素税や排出権取引導入を検討している中,炭素価格導入は先進国の一つである豪州にとって革命的な新しい第一歩を歩み始めることになるであろう。その一方で,同国における気候変動法・政策の歴史的動向をみると,そこには過去から引き継いだ課題がまだ残されている。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ3】循環型社会の法戦略―環境イノベーションを誘導する法政策
勢一智子 西南学院大学法学部教授
▼概要文表示2011年11月号

 環境資源は,有限である。持続可能な社会の実現には,限りある資源を有効に活用すること,すなわち資源生産性を高めることが必須である。「循環型社会」の構築に向けた環境法政策においては,資源効率性の向上を図るため,社会経済活動に対して,経済性や情報など多様なインセンティブを付与して誘導する手法が展開されている。そのもとでは,法政策が社会における多角的なイノベーションを促進することに主眼がおかれる。本稿では,そのような社会誘導を意図する循環型社会の法戦略につき,特色と機能条件を検討する。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ2】改正水質汚濁防止法―地下水汚染防止を図る構造規制の導入
西尾哲茂 明治大学法学部教授
▼概要文表示2011年10月号

 先の通常国会で水質汚濁防止法の一部改正が成立し,15年ぶりに地下水汚染防止対策の強化が図られ,工場・事業場において有害物質の取り扱い施設での漏洩事故や作業ミスがあっても,地下浸透を防ぐことができるよう,構造規制が導入された。地下浸透規制や浄化命令など,ここに至る施策の積み上げ経過と今般の改正内容を紹介し,ますます未然防止に力を入れていくこととなった地下水保全の政策方向の展望に資することとしたい。

<シリーズ>【新・環境法シリーズ1】改正アセス法と残された課題
柳 憲一郎 明治大学法科大学院教授
▼概要文表示2011年9月号

 2010年に審議未了により,参議院で継続審議となっていた環境影響評価法改正案(閣法)は,2011年4月22日に衆議院本会議において「環境影響評価法の一部を改正する法律(平成23年法律第27号,以下,改正アセス法)」として可決・成立し,同月27日に公布された。そこで,本稿では,これまで国で検討されてきたアセス法の改正議論について,これまでのわが国及び諸外国の取組み論点を整理しながら,法改正の方向性を明らかにするとともに,改正アセス法の規定ぶりについて触れた。改正法はいくつかの点で新たな試みを導入しており,制度としても改善されたと評価しうるものである。ただし,改正法における戦略的環境アセスメント(Strategic Environmental Assessment:以下,SEA)は,環境基本法第20条の枠組みの中で,検討されたものであり,事業実施区域等の決定段階にある。環境基本法第19条に基づく,計画策定段階の上位段階における環境配慮の仕組みを導入するためには,各種計画策定システムの研究が不可欠であり,計画策定システムを統一化していくことが,計画ごとにSEA制度をあてはめるべき段階や組み込み段階を明確化できることになることを残された課題として指摘した。

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